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【読書メモ】『スタートアップのための人事制度の作り方』(金田宏之, 2023)

こちらの本を読了しました。

著者はクレイア・コンサルティングという組織人事コンサルティングファー出身で、現在は独立してスタートアップ向けに人事制度のコンサルティングをされている方のようです。

こんなに公開していいんだろうかと思うくらい、実践的なナレッジが紹介されていました。スタートアップに限らず制度設計において大切なことが書かれており、とても学びが多かったです。

簡単に内容をまとめました。


スタートアップにおける人事制度の目的

スタートアップにおける人事制度の本質的な目的は、人材の採用と育成、そしてリテンションを強化し、組織のパフォーマンスを最大化することにあります。この目的を実現するためには、等級制度を通じてキャリアや成長の指針を示し、評価制度で期待される成果と行動を振り返り、報酬制度によってフェアに報酬を決定しなければいけません。「納得感」に本気で向き合わなければ、社員は辞めていってしまいます。

『スタートアップのための人事制度の作り方』(金田宏之, 2023)

根本的なところはスタートアップだろうが、中小企業だろうが、大企業であろうが、同じではないかと思います。しかしスタートアップの流動性の高さや少人数で経営されていることを踏まえると、「リテンション」の部分が経営リスクに直結してくるのだと理解しました。

スタートアップに人事制度が必要な理由

スタートアップに人事制度が必要な理由は、仕事に集中できる環境をつくるためです。報酬や評価、キャリアについて、人が増えれば増えるほど、指数関数的に問題が発生し、悩みが尽きることはありません。問題が深刻化すれば、仕事に集中できないどころかメンバーの退職につながります。仕事に集中できない環境は、世の中を常識を変えるべく奮闘しているスタートアップにとって、もったいない状況です。
仕事に集中できる環境を作ることは、スタートアップがビジョン・ミッションを実現するために全力を出せる環境を整えることと言い換えられます。こうした目の前の仕事に100%意識を集中させられる環境づくりを推進するためのツールが人事制度なのです。

『スタートアップのための人事制度の作り方』(金田宏之, 2023)

「これから人事制度を作る」というフェーズのスタートアップは多いでしょうが、山のようにイシューがある中で「なぜ作るのか」を合意しておくことが重要だと思います。制度がないことでの問題点を洗い出しておけるといいかもしれないですね。

人事制度は、スタートアップの採用活動を後押しする

スタートアップに人事制度が存在することで、付随的に得られる効果があります。それは採用力の強化です。(中略)具体的には、「選考プロセスの途中で人事制度を説明したところ好感度が上がった」とか、「入社予定の方に報酬制度を説明したら報酬への不安が少し緩和された」など、人事制度があることで自社の採用を後押しできたという内容です。

『スタートアップのための人事制度の作り方』(金田宏之, 2023)

私は転職エージェント時代にスタートアップの採用支援も行っていたこともあり、とても共感できました。

等級の基準は「能力」

等級制度は一般的に能力を基準とした「職能等級制度」、役割を基準とした「役割等級制度」、職務を基準とした「職務等級制度」があるとされています。本書ではスタートアップは「能力」を基準とすべき、と主張されています。

スタートアップでは、「役割」や「仕事」を遂行するための「能力」を中心にレベルを決めます。
なぜなら、スタートアップにおける役割は、事業や組織の状況に応じて変わりやすく、意図しないレベルの変更が起きてしまうからです。結果として、レベルに紐づいて報酬も変更しなければならないため、制度と実態に乖離が生じてしまうのです。
また具体性の高い「仕事」だけでレベルを決めると、専門領域以外でのさまざまな貢献を評価しにくくなり、役割と同様、制度と実態にギャップが生じてしまいます。

『スタートアップのための人事制度の作り方』(金田宏之, 2023)

人事にリソースを割けない事情も踏まえると、運用のしやすさの観点でも能力は良さそうです。一方で、年功的な運用になりやすいリスクも孕んでいるため、さらに組織が成長し、安定期に入ったタイミングで役割等級や職務等級への改定を検討するのもアリだと思いました。

人事制度の導入タイミングは、社員数で「20人前後」が目安

私自身の経験から導かれた数字は、社員数で「20名前後」です。(中略)推奨案は、10名前後で人事制度の設計を開始し、設計期間を経て20名前後になるタイミングで人事制度をトライアル運用するスケジュールです。

『スタートアップのための人事制度の作り方』(金田宏之, 2023)

早いタイミングで人事制度を導入する3つのメリットとしては、

①人事制度導入のハードルが下がる
②組織規模が大きくなる前に、人事制度を早く検証・改善できる
③採用活動に貢献できる

『スタートアップのための人事制度の作り方』(金田宏之, 2023)

とされていました。

評価期間の設計

スタートアップの人事制度で推奨する評価期間は、6ヵ月です。そして、6カ月の中間地点である3カ月経過時に手間はかかりますが、中間評価の実施を推奨しています。

『スタートアップのための人事制度の作り方』(金田宏之, 2023)

製造系やバイオ系といった、成果が出るのに時間のかかる研究開発型のスタートアップの人事制度では、もっと長い評価期間でも良いのでは?と感じました。戦略や事業環境踏まえた議論の余地はありそうです。

人事制度のトライアル運用

トライアル運用とは、人事制度を導入してから1サイクルを試験的に回してみることです。1サイクルとは評価期間を意味しており、本書で説明してきた人事制度であれば「6カ月」を意味します。(中略)トライアル運用を設ける理由は、人事制度導入時の「仮等級」の妥当性を検証するためです。妥当性の検証には、2つの観点があります。等級要件に関する妥当性と個人別に判定された仮等級に対する妥当性の検証です。つまり、メンバーの等級を的確に判定できる基準になっているかどうか、そして判定結果であるメンバー各自の等級が正しいかどうかをトライアル運用の期間で見極めます。

『スタートアップのための人事制度の作り方』(金田宏之, 2023)

本書ではトライアル運用にはかなりのスペースが割かれて解説されています。走りながら考えないといけないスタートアップには特にフィットする取り組みなのだろうと感じました。

まとめ

スタートアップの経営者、CFO、コーポレートの方はもちろん、人事制度に関わる大企業の人事やコンサルタントにとっても有用な書籍だと思います。

ロジックと言うより、著者の経験ベースで断言される箇所が多いですが、正解のない人事領域で、経験を積んでいるからこそできることだと感じました。

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