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書籍万歳ー「月がとっても青いから」を読んで

■ピアノと曲と本


最近、ふと「そうだ、あの人の本を読んでみよう」と思い立ち、「月がとっても青いから:菅原都々子の歌と人生」を手にした。

「ふと」・・・、と思ったそのキッカケは、ピアノだった。
約3ヵ月前のこの夏から、再びピアノに目覚めた。私は歌謡曲や映画音楽が好きだ。だから、どうせ弾くなら好きな曲をと思ってリストアップした。
25曲を書き出したが、その中の1曲が「月がとっても青いから」だった。


本を手にした私は、その内容に惹かれ、一晩で一気読みしてしまった。
読み終えて「書籍(本)はいいな~」と思った。もしこの本が無ければ、ネットで上辺うわべの断片的な事しか知り得なかっただろう。

だが本は、その人の半生と、背景を教えてくれる。人の人生ほど面白いものはない。全容を教えてくれる書物は素晴らしい。

■歴史に残る名曲

♪「月がとっても青いから」、そしてそれを歌われた菅原都々子さん。この曲と歌手の名前をご存知の方も多いだろう。

1955年(昭和30年)に、父の陸奥明氏が作曲し、父の友人の清水みのる氏が作詞して、陸奥氏の娘である菅原都々子さんが歌い、100万枚を超える大ヒットとなった。
当時の市場規模は、現在の30分の1だから、現在なら3,000万枚となるだろうから、如何にヒットしたかが十分想像できる。

それまでの彼女の歌は、時代背景もあり、エレジー(悲歌)が多く、エレジーの女王と呼ばれていた。
しかし、そのイメージからの脱却を図り、見事に成功し、彼女の歌手としての地位を不動のものにしたのがこの曲だった。

この曲が世に出た時、私はまだ6歳だったから知る由もないが、もう少し大きくなった頃、ラジオから、よくこの曲が流れて来た。
タンタカ タンタカと始まるイントロも軽快で、♪「月がとっても青いから、遠回りして帰ろう・・・」と続く歌は、すごく心に残り、好きな曲になった。

そんな大歌手、菅原都々子さんに、会えるとは夢にも思わなかった。だが、人生は合縁奇縁で、2度ほどお会いすることがあった。

■出会いがあるから人生面白い

お会いできたのは、全くの偶然のようなものだった。
私の親友で写真家のYさんが、あるとき都心で写真展を開いた。楽屋的な一角に居るYさんを訪ねた時、その場に、上品で物静かな女性が、Yさんと談笑していた。
最初は誰だか分からなかったが、その人が菅原都々子さんだったのである。

2度目は、そのYさんの出版パーティでお会いした。
とてもシックな服装で、前回同様にもの静かに佇んでおられた。

■直接の面識と本

直接の面識が出来、その人の歌が好きだから、その人の人生に興味を持った。
あの独特な歌い方、歌唱力、そしてあの大ヒット曲は、どのようにして生れたのだろうとの関心に応えてくれたのが、「月がとっても青いから:菅原都々子の歌と人生」という本だった。

本には、娘の都々子さんを、古賀政男氏の養子に出したお父さんの懊悩苦悩おうのうくのう、実の父に会いたくても、人目を偲んで隠れるようにしてしか会えなかった娘の都々子さんの心境が、リアルに描かれている。

■古賀政男氏の劣等感

本には、「え~そうだったの」と思うことも描かれている。
それは稀代の名作曲家、古賀政男氏にも劣等感があることだった。

♪丘を越えて、♪東京ラプソディ、♪人生劇場・・・等々ヒット曲は数知れず、生涯で作った楽曲は5,000曲とも言われている。
私から見て、古賀氏は音楽の才能に溢れ、富も名誉も、全てを手にしたように見える。
だが、そんな彼にも「正当な音楽の教育をうけていない」という劣等感があることを、この本で初めて知った。

そして古賀氏は、富も名声も手に入れたが、家族愛というか、人の愛情には恵まれなかったようだ。
一般の家庭なら当たり前のような会話、例えば「お父さん、ただいま。今日学校でこんなことがあったよ・・・」、「ふ~ん、それでどうしたの・・・」、というような会話ができる家族愛が欲しかった。でもそれは叶わぬ夢であった。

私はそこで思った。
もし私に、富と名声を手に入れた古賀氏のような人生と、平凡ながらも家族で交わせる会話が楽しい人生と、どちらを歩みたいかと言われたら、私は迷わず「後者」を選ぶ。

都々子さんは後年、古賀氏の養子から、実父の陸奥さんの元に戻った。
そして親子二人三脚で、あの大ヒット曲となる「月がとっても青いから」を出したのである。

私は今、ピアノで同曲を毎日弾いている。そのうち何とか弾けるようになるだろうと思う。
それがあと3ヵ月か1年かは分からないが、その時は写真家Yさんの前で、突然に「月がとっても青いから」を弾きたい。

音楽一家の菅原/陸奥家のこと、家族愛のこと、人間だれしも劣等感があること、・・・それらを教えてくれた書籍に感謝したい。

そして言いたい・・・「書籍万歳!」

#月がとっても青いから #菅原都々子 #書籍  

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