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「もぎ取れ! 3億円大作戦」読書ノート:テンポ良く楽しめるエンタメ小説の魅力

著者:香住泰さんの「もぎ取れ! 3億円大作戦」は、エンターテインメント性に溢れた快作でありながら、登場人物の描写や物語のテーマに深みを感じる一冊でした。これまでに読んだ香住さんの作品、「幸せジャンクション ──キャンピングカーが運んだ小さな奇跡」や「稲荷山誠造 明日は晴れか (本のサナギ賞受賞作)」と同様、笑いと感動が絶妙なバランスで織り交ぜられ、今回も大いに楽しませてもらいました。

本作は市役所を舞台に繰り広げられるユーモラスでちょっとドタバタしたストーリーですが、その中には商談や交渉術、人間観察の洞察力など、日常生活にも参考になるポイントが数多く含まれています。物語のテンポが良く、キャラクターたちが生き生きとしているため、オーディブルで聴いていてもその情景が目に浮かぶようでした。

この記事では、「もぎ取れ! 3億円大作戦」のあらすじや魅力、そして読んで感じたことをまとめながら、この作品が持つエンタメ小説としての楽しさや学びについて深掘りしていきます。

あらすじ:市役所職員たちの奮闘と成長

物語の舞台は、架空の地方都市「丹馬九重市」。市役所でアルバイトをしていた主人公の弓沢(ゆみざわ)と市役所の問題児・櫛間(くしま)が、合計3億円の寄付を募るというとんでもないプロジェクトを成功させようと奮闘する姿が描かれます。資金を巡る話題が中心となるため、行政や地方自治の仕組みにも触れられますが、難しい専門用語や重いテーマはなく、軽妙な語り口で展開していきます。

主人公たちは、どこにでもいそうな市役所の普通の職員である弓沢と櫛間。しかし、その「普通」の彼らが、3億円という大金の寄付を得るために、知恵を絞り、協力し合い、時には予想外の方法で問題を解決していく過程が痛快です。特に、主人公と櫛間が発揮する交渉術や洞察力は、笑いと感動を呼びながらも、読者に「こういう方法もあるのか」と気づきを与えてくれます。

キャラクターの魅力:普通だからこその親近感

香住泰さんの作品の魅力の一つは、登場人物たちのキャラクターがどれも生き生きとしており、現実にいそうな「普通」の人々であることです。本作の主人公たちも例外ではありません。市役所職員という、どちらかといえば地味なイメージの職業を持つ彼らですが、彼らの「普通さ」が逆に共感を呼びます。

主人公:奮闘する市役所職員

東京で挫折し、故郷の丹馬九重市に戻った主人公・弓沢は、市役所のアルバイトに採用され、正規職員を目指していた。担当していたリゾートの開発計画が頓挫し、あわやクビというところで、市役所の問題児・櫛間とタッグを組み、市の財政難を解決する特命係に配属されることになる。その3億円の寄付を募るためのプロジェクトに携わる中で、彼の人間性や隠された才能が次第に明らかになり、成長していく姿が描かれます。

彼らの交渉術やユーモアセンス、そして周囲の人々を巻き込む力は、読んでいるだけでワクワクさせられます。特に、商談の場面では「こんなアプローチがあるのか」と感心させられることも多く、物語を通じて彼らから学べることがたくさんあります。

個性豊かな職員たち

市役所内の同僚や上司、そしてプロジェクトに関わる外部の人々も、それぞれ個性的で印象的なキャラクターばかりです。彼らの掛け合いや協力の仕方はユーモラスでありながらも、人間関係の妙を感じさせます。
たとえば、ちょっと頼りない先輩職員が、意外な場面で活躍する姿や、堅物の上司が主人公の情熱にほだされていく様子など、キャラクター同士のやり取りは笑いながらも心が温まるシーンが満載です。

商談術と洞察力が光る

本作では、単なるエンタメ小説として楽しむだけでなく、日常生活にも役立つ知識やヒントを得ることができます。特に、交渉術や人間観察の洞察力についての描写が印象的でした。

1. 商談や交渉術の参考になる場面

物語の中で主人公たちは、3億円の寄付を募るためにさまざまな人々と交渉を繰り広げます。その交渉の過程で、相手の心理を読み、適切な言葉を選び、時には大胆な手段を使う場面は非常に参考になります。
たとえば、「相手に自分のペースで話を進めさせることで、こちらの要求を飲ませる」といったテクニックや、「表情や態度から相手の本心を見抜く」力は、ビジネスシーンでも応用できるものです。法律すれすれの恐喝まがいの場面もありますが、そこは、フィクションとしての面白さでもあります。

2. 人間観察の重要性

登場人物たちは、交渉や計画を進める中で、相手の性格や立場をしっかり観察し、それを踏まえた対応を心がけます。この「人間観察」のスキルは、単に物語を面白くするだけでなく、読者にとっても「こういう視点を持つと良いんだ」と気づかされる要素です。

3. 地域社会と人間関係のリアルさ

舞台が地方の市役所ということで、地域社会の問題や、人間関係のしがらみもリアルに描かれています。市役所職員の苦労や葛藤、そして市民との交流の場面には、行政の仕事を支える人々の努力や悩みが垣間見える場面もありました。

読んで感じたこと:香住泰さんの物語の魅力

「もぎ取れ! 3億円大作戦」を読んで改めて感じたのは、香住泰さんの作品が持つ「笑い」と「感動」の絶妙なバランスです。どんなにシリアスな場面でも、ユーモアを忘れないキャラクターたちのおかげで、物語全体が軽快に進んでいきます。
また、香住さんの文章は、読んでいるだけで情景が浮かび上がるようなわかりやすさがあります。特にオーディブルで聴いていると、その描写力の巧みさを強く感じます。登場人物の表情や場面の空気感が伝わりやすく、まるで映画やドラマを見ているかのようでした。

この物語から得られるもの

「もぎ取れ! 3億円大作戦」は、気軽に楽しめるエンタメ小説でありながら、日常生活や仕事にも役立つヒントが詰まっています。以下に、この作品を通じて得られるものをまとめてみました。

笑って元気をもらいたい人におすすめ

日々の生活に疲れているとき、この作品のような軽快でユーモアあふれる物語は心を癒してくれます。登場人物たちの奮闘を見ていると、「自分も頑張ろう」と元気をもらえます。

人間関係を円滑にするヒント

交渉術や人間観察のスキルは、ビジネスやプライベートでの人間関係にも活かせる要素です。この作品を読んで、自分の対応やコミュニケーションを見直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

地方自治や行政に興味を持つきっかけに

市役所という舞台を通じて、地域社会や行政の仕事について知ることができます。普段なかなか触れる機会のないテーマを、楽しく学べる点もこの作品の魅力です。

おわりに:香住泰さんが描く「普通の人々」の大冒険

「もぎ取れ! 3億円大作戦」は、香住泰さんならではのユーモアと感動が詰まった一冊でした。普通の市役所職員たちが繰り広げるドタバタ劇は、私たちの日常にも通じるリアルさがありつつ、フィクションとしての痛快さを楽しめます。
これまでに読んだ「幸せジャンクション」や「稲荷山誠造」と同様、香住さんの作品には、人間の温かさや成長を描く力が感じられます。この作品を読んで、「普通の人々」による小さな冒険の面白さを、ぜひ体験してみてください。


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