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「神様のカルテ3」を読んで感じたこと

先日の日曜日、家族で「神様のカルテ2」をプライムビデオで鑑賞しました。その物語の余韻に浸る中で、続きが気になり、夏川草介さんの「神様のカルテ3」をオーディブルで読むことに。映画も素晴らしかったですが、夏川草介さんのユーモアのある文章だからこそ味わえる言葉の力や登場人物たちの細やかな心情描写に引き込まれ、あっという間に聴き終えてしまいました。

夏川草介さんの他の著書、「スピノザの診察室」や「本を守ろうとする猫の話」も読んでいたため、彼の描く医療現場のリアリティや哲学的な問いかけには慣れているつもりでしたが、「神様のカルテ3」ではさらに深いテーマが語られており、読後には大きな感動と考えさせられるものがありました。

医療と人間の哲学:物語の中に問われる「生き方」

「神様のカルテ3」の中で描かれるのは、単なる医療現場の人間模様ではありません。主人公の栗原一止を中心に、彼の周囲の人々――病院の同僚、患者、御嶽荘(おんたけそう)の住人たちが織りなす物語は、医師として、人間としての生き方を深く問いかけてきます。

特に印象的だったのは、栗原一止の言葉や行動が、彼の哲学的な信念に基づいている点です。彼が医療の現場で直面するさまざまな難題や葛藤を通じて、読者もまた「どう生きるべきか」「何を信じて進むべきか」を考えさせられます。

小幡先生と栗原一止、二人の医師の哲学

内科部長である板垣先生の元教え子であり、栗原一止の同期でもある小幡先生は、医療の効率化や最先端の医療を中心とした現実主義を重視する姿勢を持っています。一方で、栗原一止は「患者一人ひとりに寄り添う」という理想を追求し続ける医師です。この二人の対比は、現代の医療が抱える課題を象徴しているように感じました。

今の時代、「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉に象徴されるように、短時間で結果を求める風潮が強まっています。AI技術の発展によって診断の精度や効率は飛躍的に向上しましたが、「人間の心」や「哲学」という観点が失われつつあるのではないかと、物語を読みながら考えました。

御嶽荘の住人たちに見る「生き方の伏線」

物語の舞台の一つである御嶽荘には、さまざまな個性を持つ住人たちが暮らしています。彼らの生き方や信念、葛藤は、主人公の栗原一止が向き合う医療の現場と呼応しており、医師として、人間として、どうあるべきかを問いかける伏線のように感じられました。御嶽荘の住人たちとの交流を通じて、一止が見せる悩みや成長は、読者に「人は誰かとのつながりの中で生きている」という大切なテーマを伝えてくれます。

夏目漱石の言葉「牛のように図々しく進む」という教え

「神様のカルテ3」の冒頭で、栗原一止が口にする夏目漱石の言葉が特に印象に残っています。漱石が若い作家に宛てた手紙の中で語った「牛のように図々しく進む」という表現は、一止の生き方そのものを象徴していると感じました。

「牛のように図々しく進む」とは

この言葉は、「理想を叶えるためには、時に悩み迷いながらも、自分が信じる道を力強く進むことが大切だ」というメッセージとして受け取れます。
一止は医療現場での理想と現実のギャップに何度も苦しみますが、それでも患者に寄り添い、信念を曲げることなく行動します。この姿勢は、現代社会において私たちが忘れがちな「忍耐強さ」や「信念の大切さ」を教えてくれます。

読書を進める中で、私自身も「自分が本当にやりたいことや目指したいことに対して、どれだけの覚悟を持てているだろうか」と考えさせられました。目先の効率や結果を求めるのではなく、自分の理想や信念を実現するために、一歩ずつ着実に前進していくことの大切さを改めて実感しました。

医療現場を超えた普遍的なテーマ:人間関係と信念

「神様のカルテ3」が描いているのは、単なる医療現場の物語ではなく、人と人との関係性や、個々の信念の強さについての物語でもあります。医師である一止は患者の命を救うだけでなく、患者や家族と深く向き合い、共に苦しみ、時には喜びを分かち合う存在です。その姿は、私たちが日々直面する「人間関係」の中で必要とされる姿勢をも教えてくれるように感じました。

AI時代における「人間らしさ」の重要性

物語を読みながら感じたのは、AI技術が進化し、効率が重視される時代において、「人間らしさ」や「哲学的な信念」がますます重要になっているということです。AIが優れた診断能力を持ち、効率的な治療プランを提供できたとしても、患者の気持ちに寄り添い、その心の痛みを理解するのは人間の役割です。

栗原一止の姿は、そうした「人間だからこそできること」を体現しており、物語を通じて私たちに「自分が今できること、そして誰かのためにできること」を考えさせてくれます。

読後に感じた希望と問いかけ

「神様のカルテ3」を読み終えた後、私は心にじんわりとした温かさとともに、深い問いかけを感じました。それは、「自分の人生において何を大切にするべきか」というテーマでした。一止のように信念を貫く姿勢や、他者とのつながりを大切にする心を、私も日常の中で実践していきたいと思いました。

また、御嶽荘の住人たちや病院の仲間たちがそれぞれの形で信念を持ち、悩みながらも進んでいく姿は、私たちが困難な時代をどう乗り越えていくべきかのヒントを与えてくれます。

おわりに

「神様のカルテ3」は、単なる医療小説ではなく、生きることそのものについて深く考えさせてくれる一冊でした。タイパやAI技術が進化する中で、私たちが忘れてはならない「人間らしさ」や「信念」を物語を通じて学ぶことができました。この本から得た教えを胸に、これからも自分の信じる道を「牛のように図々しく」進んでいきたいと思います。

今後も夏川草介さんの作品を通じて、医療や人間の本質について考えを深めていければと感じています。そして、この物語が多くの人に読まれ、心の支えとなることを願っています。


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