「銀座『四宝堂』文房具店」著者:上田健次を読んで
銀座という魅力的な街の路地に佇む文房具店という設定が気になり、また、悩みを抱える人々を描いた心温まるストーリーに惹かれてオーディブル版を聴いてみました。
登場人物とあらすじ
舞台は天保五年創業の老舗文房具店「四宝堂」。店を切り盛りするのは、ミステリアスな店主・宝田硯(たからだけん)。彼の店には、心の悩みを抱えた様々な客が訪れ、思い出の文房具や硯(けん)さんの言葉を通して心が癒されていきます。
祖母への感謝を伝えられずにいる青年や、退職願を書く決意をした女性など、多くの人生の断片が交差します。
印象的な場面
第一章の祖母に伝えられなかった想いを硯(けん)さんの助けで整理する青年のエピソードが特に心に残りました。
大人の事情で、幼いころ祖母に預けられていた青年・新田凛(新田凛)。10歳の時、小学校の文化祭の行事「二分の一成人式」で祖母から贈り物がありました。それが、モンブランの万年筆でした。しかし、使い方も分からず万年筆は引き出しにしまい込んでいた。
社会人になり、初任給をもらった時、先輩社員からこんなアドパイスを受けました。「初任給では、お世話になった人に何か贈り物をするといいよ」と。その言葉に、心に浮かんだのは育ててくれた祖母への想い。
百貨店で贈り物に「お茶」を購入する。そこの店員のすすめで手紙を添えることにした凛(りん)が向かったのが、銀座「四宝堂」文房具店。店主・宝田硯すすめで祖母から頂いた万年筆をつかって手紙を書くことに。祖母との思い出を一つ一つ紐解いていく場面では、胸が熱くなりました。
万年筆という贈り物が、祖母から凛へ、そして凛から祖母への感謝のこころの架け橋なっていました。
普段何気なく使っている、文房具という日常の品に隠された力に気づかされました。人は、物を通じて過去の思い出や大切な人との繋がりを再確認することができるのだと感じました。
この本を読んで感じたこと
銀座「四宝堂」は文房具店を舞台にした短編集で、さまざまな登場人物が登場します。それぞれの物語で、文房具が日常生活の中で重要な役割を果たし、登場人物たちが懸命に生きる姿が描かれています。
読み進めるうちに、自分自身の過去や思い出を重ね合わせる瞬間があり、何気ない道具が人生の象徴になることに気づかされました。シンプルな文房具が持つ力と、それにまつわる心温まるエピソードを通じて、人間ドラマが展開される短編集。ほっと一息つきたいときにおすすめの本です。