『マーケターのように生きろ―「あなたが必要だ」と言われ続ける人の思考と行動』井上 大輔著

 みなさんはカリスマ性をお持ちだろうか。やりたいことや夢・目標に対して真っすぐ進み、周りの人を巻き込んでさらに次のステップに向かい進む。そんな魅力だ。もしくは、過去にそのような経験があっただろうか。
 残念ながら、私はそういったカリスマ性はない。どちらかと言えば与えられたことを黙々とやる、誠実さが取り柄の人間だ。もし、あなたも私と似たタイプなら、この本を通じて新しい生き方を発見できるかもしれない。
 ※2023/10/10現在 KindleUnlimited読み放題対象

 タイトルにもあるように、この本では「マーケターのように生きる」という選択肢を提示している。そしてその生き方は、社会が企業の中でも「個」を尊重するようになりつつある時代の中で、突出した「個」を持たない人間にこそ自分を際立たせる生き方であると。
 ではマーケターのように生きるとはどういうことか。著者はマーケターのように生きるとは「相手をよく知り、その期待に応える」生き方を、マーケターのように生きることだと本書の中で述べている。

 この考え方は、いわゆる「自分の強みを伸ばして活かす」生き方とは対角に近い。私はまず自分には何ができるかから考える人間なので、この考え方はあまりなかった。もちろん自分にできることを知っておくことは大切ではあるが、それの活かし方を思考せよということだ。

 読んでいてまず気が付くのは、マーケティングと呼ばれるものの仕組みや意味を私はあまり意識せずに生活していたことだ。単純にモノやサービスについてアンケートをとってみたり、宣伝や広告をだしたりすること、程度に捉えていたがそれだけではないといえる。そもそもアメリカにはアメリカ・マーケティング協会という組織があり、きちんとマーケティングの定義がされているらしい。それは「マーケティングとは、顧客、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を、創造し、伝達し、運搬し、交換する、活動・一連の組織・プロセスである」
 つまり私が認識していたマーケティングとはこの中の伝達や運搬のプロセスだけであり、プロモーションと呼ぶべき部分だったわけだ。そしてマーケターとは、マーケティングに携わる人間のことであり、単純に市場調査などをする人間だけを指すわけではないことになる。

 読み進めてゆくと、このマーケティングという言葉の見直しを通して人のもつ価値や、それを宣伝(伝達)することへの見方も変わってくる。
 例として挙げられているのは、飲料水を買う時の心理についてだ。人は自分のもつ価値観によってどの水を買うか選択する。軟水か硬水か、値段が安いか、知名度が高くて信頼感があるか、環境に配慮されているか、オシャレなデザインか。実際の機能面以外にも人は様々なものに価値を見出していることを再認識すると、自分が相手に提供する価値についても機能面以外のものがあるのではないか考えさせられる。

 本書の中で私が特に面白いと感じたのは「良いものを作っていれば売れる」「広告や宣伝に力を入れるべきではない」というのは誤解であるという考えだ。むしろ逆であり「良いものを作ったのならば宣伝することは義務である」という。確かに言われてみればその通りで、開発した製品を使うことでメリットがあるならば、それを消費者に伝えないのはおかしいのである。もちろん誇大広告や嘘偽りを伝えるのはよくないが、多くの会社は買う価値がないものを売ろうとしているわけではないだろう。
 話が少し逸れてしまったが、マーケターのように生きるためには、きちんと自分を売り込むことも必要だということだ。

 このように、「マーケターのように生きる」ということについて本書は分かりやすく、そしてありがちな誤解を解くように丁寧に書かれている。どういった(市場)層を相手にするか、自分のできることと市場の大きさのバランス、相手が必要とするものの本質の捉え方、白黒だけでは語れない人材としての価値や、自分の価値に対するコンセプトなど様々なポイントにまとめられている。重ねてになるが、宣伝や広報の本ではないので、「今以上に自分の価値を誰かに提供できないか」と考えているような方にオススメする。 
 私も自分の価値をより多くの人に提供できないか、再考したい。

 ではまた。

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