【マンガ】『Thisコミュニケーション』六内 円栄

 「だいじょうぶだ ドラゴンボールで生き返れる」という孫悟空の有名なセリフがある。有名になった理由は「どうせ生き返る保証があるから、地球人みんなが一度死んでも大丈夫」という倫理的な問題と、それを「親友の死とそれを冒涜されたことにより怒り狂い限界を超越した主人公が言っている」という点だろう。例え元に戻れるからといって、顔見知りにも死を経験させることをヨシとする倫理観はなかなかに受け入れがたいものがある。

 しかし「仲間が死んでも生き返れるんだったら、バンバン利用するしかないよね!」という思考回路の主人公が活躍する漫画がある。それがタイトルの『Thisコミュニケーション』(既刊10巻)である。

 20世紀後半に突如現れた謎の生物「イペリット」により人類が滅ぼされかけている世界。とある山奥には人類の生き残りが集まり、生存のための研究が行われていた。そこでは研究の成果として通常の人間を遥かに凌駕する力を持つ「ハントレス」と呼ばれる6人の少女が生み出されていた。彼女たちはまさに怪物と呼ぶに相応しく、その怪力により研究所にしばしば現れるイペリットを日々撃退していた。そして最も大きい特徴として彼女たちは「不死身である」。正確にはほぼ死ぬのだが、一定の時間をかけて死ぬより約1時間前の記憶と肉体を再生するのだ。
 そんな彼女たちがお互いを死を恐れずに立ち向かい、時にかばい合いイペリットたちをバッサバッサとなぎ倒す。そんな漫画…では断じてない

 この漫画の本当の主人公は研究所に現れた元軍人「デルウハ」。彼はそんな彼女たちの存在を知り、こう考えた。「世の中をよくしらない超人6人も兵士として指導できて、都合が悪いことが起きたらぶっ殺してやりなおせるなんて最高じゃん!(要約)」と。こうしてデルウハとハントレスたちの物語が始まる。

 実はハントレスの少女たちは問題を抱えている。戦闘を恐れるようなことはないが、研究所に軍事指南を行える人間がいなかったことにより、戦い方が「力押し」なうえ各々の性格やコンプレックスが災いし、獣のような戦い方をしている始末。その身体能力の高さから、彼女たちを生み出した研究者たちでさえ恐れから適切なコミュニケーションをとれず、持て余している節まである。

 そしてこの漫画が最高に面白いのが、デルウハがハントレス達を「兵士」
として訓練する過程
である。プライドをくすぐり、コンプレックスに触れ、腫物扱いされる彼女たちに優しい素振りを見せる。そして都合の悪い状況になったら事故やイペリットの攻撃に見せかけてハントレスを殺害、記憶をリセットする。
 合理的だがあまりにも非道な話なのだが、構成や話の勢いが若干コメディチックで悲壮感は少ない。むしろなんの躊躇いもなく記憶リセットを行うデルウハの姿はもう逆に清々しい。たまに想定外の事態でデルウハが焦るシーンもあり、それはそれで笑えてくる。

 この面白さは読んでいただくのが一番早いのだが、なんと集英社のゼブラックで今なら9巻まで無料で読める。

 途中までは無料で、以降はチケットの回復時間が必要なのだが、今現在チケット回復が1時間という驚異のサービス期間だ。これを機に是非読んでほしい。

 ではまた。

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