事業戦略大学(教員1名、生徒無限大) 第13回 概念的な事業戦略企画をスペツク化する「考え抜くための戦略フレームワーク入門」
いくら優れた戦略コンセプトでも、それが数値で裏付けられたものでなければ実行されないし、たとえ実行されてもそこから学ぶものが少ない。
設問1:あなたの戦略は、確かな経営資源の裏付けがありますか?
設問2:その戦略は、課題の優先順位が明確になっていて、無理のないステップ、シナリオになっていますか。
設問3:上記の経営資源、シナリオには指標(数値)がついていて、戦略の明確なイメージができますか?
■3年後(中期)の事業の姿の断面図、戦略マップを描く
事業戦略企画の難しさは、戦略企画作業という抽象的な概念創造を、実行可能な形あるものに計画化する接続点の部分にある。この段階での失敗は、現実的制約条件に引っ張られ、戦略そのものが現状維持的な縮んだものに収まってしまう、または実行策が不明確で抽象概念に終わってしまうというリスクである。メーカーの製品開発を例に挙げて言うと、商品コンセプトとデザインイメージまでできたが、その実現性を考えすぎて機能設計で挫折し、プロジエクトが先に進まないといつた感じだろうか。
事業戦略企画も同様である。戦略ビジョンや基本戦略から先の戦略の機能設計、つまり戦略のスペック化の工程が大変重要なのだ。事業戦略というつかみ所がない概念的なものを、いかにスペツク化するのか。ここではバランスト・スコアカードの戦略マップというツールを活用する。
戦略マップとは、事業の3年後などのあるべき姿の断面を、財務、顧客、業務プロセス、学習と成長の4つの視点を考えて、課題項目とその達成指標をブレークダウンし、それらを因果関係で結んだものである。期間については、ここでは中期を3年としておくが、実際には2年半から5年がある。つまり戦略マップは、中期3年後の事業の状態のスペック化と言える。当然この段階では、スペック達成の課題が内在している。課題が実現できるかどうかの制約はあまり考えずに、まず事業戦略に忠実にスペック化を実施する。
戦略マップの財務の視点は、その下に描かれている非財務の視点のカテゴリーの目標実現により達成される。矢印の起点が原因、矢印が向かっている先が結果になっており、全体としても原因結果の関係を形作っている。戦略マップによって戦略がスペック化されることで、現状とのギャップが明確にな
り、それらが戦略課題となり、次のスコアカードに詳しくブレークダウンされる。もし、この段階で、どう考えても現実的でない指標数値が示され、それが許容量を超えたリスクであると判断した場合は、戦略ビジョンもしくは基本戦略に戻り、それらを設計変更することになる。
■戦略マップ作成のコツ
戦略マップ作成のコツは、概念的な戦略や施策のスペック化、つまり指標化であろう。戦略や施策は理解できるが、そのできばえを指標で表すのは、多少の知識と訓練が必要である。戦略のコンセプト別に指標リストを持っておくのもよい。異業種も含めた他社のベンチマークも大変参考になる。
また、指標の中に入れる目標数値はどのように設定すべきであろうか。これまで行ってきたビジネスであれば、何らかの参考になる数値は引き出せる。難しいのは新商品、新事業や戦略性の高いイノベーティブなプロジェクトである。これもまた、異業種も含めた他社のベンチマークなどにより数値設定する。戦略を戦略マップに落とし込むことによる効果は、最終的な事業目標である「利益の最大化と資産の最適化」の達成方法が明確になることである。そのために戦略ビジョンと基本戦略をトップダウン方式で指標化し、課題を明確化する。部門や組織の積み上げ方式の達成課題のまとめではない。戦略マップではこの課題を戦略目標と呼ぶ。
■ 戦略マップのさらなる指標展開・スコアカードを作成する
スコアカードでは、戦略マップの戦略目標ごとにさらに指標を決め、指標の目標値を達成させるための施策(アクションプラン)を導き出すものである。組み立て加エメーカーの例で言うと、機能設計が戦略マップだとすると詳細設計がスコアカードであり、部品の要件定義が施策とアクションプランとなろうか。アクションプランは一つの目標や指標に対し複数必要となる場合もあり、それをまとめて一覧にしたものを″アクションリスト″と呼ぶ。
ただ、戦略マップ段階で、指標やアクションプランを一旦書ききってしまう方法もとれる。これには、立体的に目標間の因呆関係を把握できる戦略マップ上で、その戦略の実現性を容易に認識・共有できるメリットがある。そのため、実務的にはこのような方法をとることが多い。
スコアカードの段階で現実的でない指標数値が示され、それが許容量を超えたリスクであると判断した場合は戦略マップのとき同じように前段階に戻り、戦略マップや戦略ビジョン、基本戦略を見直すことになる。
スコアカードでは、施策やアクションプランが具体的に示されたことになるが、具体的になればなるほど、リソース不足や優先順位が気になるところである。施策やアクションプランに必要なリソースや優先順位は、現場だけで考えるのではなく、事業トップと現場のコミュニケーションを通じて、最終的にはトップの意思決定によって確定すべきものである。
■ 戦略マップをベースにした事業展開シナリオ
戦略マップは中期3年後の事業の断面をスペック化したものだと述べたが、事業展開シナリオでは、現在から3年後までのシナリオを描く。ここでも戦略マップを応用する。3年間のシナリオに必要な主な項目は、事業目標、事業ドメイン、ビジネスモデルなど戦略ビジョン、基本戦略、そして各年度の大まかな戦略マップである。財務以外の視点のうち、とくに業務プロセスの視点と学習と成長の視点における課題が達成され、顧客の視点、財務の視点の成果につながるまでタイムラグがあるため、3年間の時系列のシナリオを描くことにより、その時系列での指標の関係が理解しやすくなる。具体的に言えば、2年後、3年後に顧客視点での成果、財務の視点での成果を出そうと考えれば、1年目に、学習と成長や業務プロセスの目標やアクションプランをある一定のレベルまで成功させておかなければならない。
また、3年後の目標から時系列ヘブレークダウンする過程では、おおよその投入すべき経営資源とリスクがイメージできるはずだ。そこで認識された必要経営資源の投資とリスクは許容できるものか否か。もし許容できないものであれば、戦略ビジョン面、基本戦略面にその内容をフィードバックさせ、
再度戦略を検討し直す。戦略ビジョンや基本戦略の精度は、このようにして計画に落とし込む各段階で見直され、設計し直されることによって向上していく。