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NY駐在員報告  「NII/GII(その1)」 1995年7月

 今月と来月はNII/GII (National/Global Information Infrastructure) について報告する。既に、NII/GIIや情報スーパーハイウェイに関する情報は巷に溢れており、日本における「情報スーパーハイウェイブーム」はピークを過ぎたような気もする。1年前、2年前ならともかく、いまさらNII/GIIをテーマに取り上げなくてもと思われるかもしれない。しかし、多少熱が冷めたからこそ全体を眺め直してみる価値もあるように思う。

「情報スーパーハイウェイ」

 最初に「情報スーパーハイウェイ(Information Superhighway)」という言葉を使ったのは、(手持ちのデータが正しければ)今の副大統領アルバート・ゴア・ジュニアであり、遥か6年前のことである。当時、ゴアはテネシー州選出の上院議員であり、現在のHPCC計画につながる "National High Performance Computer Technology Act of 1989"という法案を上院に提出していた。この法案は結局流れてしまうのだが、この中には、全米をカバーする超高速のコンピュータネットワーク 「NREN (National Research and Education Network)」の構築計画が含まれていた。89年夏、ゴア上院議員は、マスコミのインタビューにこう答えている。「我々はインフラストラクチャーを考え直さなくてはならない。橋や高速道路、水道だけがインフラではない。みんなで共有できる情報スーパーハイウェイ、電子図書館、重要なソフトウェアなどをインフラだと考えなくてはならない。」(まったく同じ台詞を2年ほど前に日本でよく聞いたが、著作権はゴアにあり、おまけに6年も前の台詞なのだ)

 この時のゴア上院議員の頭の中にあった「情報スーパーハイウェイ」は、当時のインターネット、特に NSF (National Science Foundation) がサポートしていたNSFnetを発展させたもの、あるいはNSFnetに代わるさらに高度なコンピュータネットワークであったと考えられる。

 ゴア上院議員の考えが少し変わったのは、90年3月かそれより少し後だと思われる。というのは90年3月に日本のNTT社が「VI&P構想」を発表しているからだ。2015年までにすべてのオフィス、工場、家庭を光ファイバー(B-ISDN)で接続し、様々な双方向サービスを提供しようという構想である。当然マスコミに取り上げられて一大ブームになってもおかしくないが、何故か日本のマスコミはこのVI&P構想を大きく取り上げることはなかった。「I:いったい、N:なにを、S:するのだろう」と茶化されたINSブームの反省があったので、NTT社が派手に宣伝をしなかったせいかもしれない。あるいは、もしかすると、この構想が社内向けのもので、リクルート事件で沈み込んでいた社内の活性化を図るという目的を持っていたのかもしれない。

 ともあれ、このVI&P構想はゴア上院議員の注目するところとなった。90年9月3日号のコンピュータワールド紙に、ゴア上院議員は「Superhighway for Computing」と題する小論文を寄稿しており、この中で「日本は次の20年間にすべての工場と家庭を大容量のネットワークで接続するという計画を発表している。そしてこのネットワークが完成した頃には、このネットワークが生み出す商品とサービスは日本のGNPの約3分の1に達するだろうという試算をしている」とNTT社のVI&P構想を紹介し、米国の将来にとってスーパーコンピュータ、電子図書館と情報スーパーハイウェイが極めて重要であるにもかかわらず、ブッシュ政権はHPCC計画の承認をためらっていると批判している。また、91年6月には「2015年までに日本のNTTが構築すると言っているネットワークは、日本を決定的に優位にするだろう。米国における現在の光ファイバーの普及率を考えると、同等のネットワークをつくるのに 2040年までかかる」とも述べている。

 NTT社のVI&P計画が情報スーパーハイウェイ構想を生み出した原点だという説を唱えている人がいるが、これは正確ではない。情報スーパーハイウェイの原点はむしろ初期のHPCC計画の中にあり、さらにその源を辿るとNSFnetを含むインターネットに行き着く。VI&P計画は、高度なコンピュータネットワークであった初期の情報スーパーハイウェイ構想に大きな影響を及ぼし、娯楽的要素までを含む現在の姿に変化させたと言ってよいだろう。

誰が構築するのか?

 92年6月21日、ビル・クリントン(当時はアーカンソー州知事)は、大統領選挙綱領として 「Putting People First: A National Economic Strategy for America」を発表した。この中で、2015年までに各家庭、オフィス、研究所、学校、図書館をネットワークで結び、公的な記録、データベース、図書 館の情報、教育関係情報をオンラインで検索できるようにすると述べている。もちろんこのアイディアは、クリントンではなく副大統領候補のゴアのものだ。
 93年2月22日、クリントン・ゴア政権は「米国経済発展と技術」という文書を取りまとめた。この中 の「情報スーパーハイウェイ」の項で具体的に次の5つについて取組むと述べている。

(1) HPCC計画の実行
(2) Information Infrastructureに関するタスクフォースの設置
(3) Information Infrastructure Technology Program の創設
(4) NTIA/DOCを通じたパイロットプロジェクトへの資金提供
(5) 連邦政府の情報公開の促進

 ここには、連邦政府自らが情報スーパーハイウェイを構築するという色彩はない。衆知のとおり、クリントン政権は現在、上記の5点に加えて、規制緩和によって民間企業の活力を最大限に利用しようとしている。つまり、1950年代にゴア副大統領の父親が熱心に進めたことで知られている州間高速道路網 (Interstate highway) の整備とは異なり、連邦政府自らがNIIの整備を行うつもりはない。もちろん、政府として整備すべきものがないわけではない。例えば、ヘスルケア、研究・教育、社会サービスといった政府サービスに係るシステムは、政府が構築を行うことになるだろう。しかし、それ以外の分野については、政府は間接的な役割を果たすことになる。

 ところが前述の90年9月のゴアの小論文を読んで、一つの注目すべき点を見つけた。それは、当時のゴア上院議員は、情報スーパーハイウェイは政府がつくるべきだと考えていたという点である。「我々は、民間企業が州間高速道路を建設してくれるとは考えなかった。それと同じように、民間企業が情報スーパーハイウェイを構築すると期待はできない。ただ、高速道路と同じように、情報スーパーハイウェイが完成すれば、需要は急増するだろう。したがって利用者から料金を徴収し、運営を民間に任せることは可能だ」と述べている。

 ゴア副大統領は当初、連邦政府自身がNIIを構築し、運営を民間に任せるという考えを持っていたのである。これにストップをかけたのは、情報産業界である。クリントン政権が発足する直前(93年1月)、情報産業界の主要13社のCEOは、商務省長官になる予定のロナルド・ブラウンを訪ねた。CSPP (Computer Systems Policy Project) のメンバーであるアップル社、AT&T社、コンパック社、コントロール・データ社、クレイ・リサーチ社、データ・ジェネラル社、DEC社、ヒューレット・パッカード社、IBM社、シリコン・グラフィックス社、サン・マイクロシステムズ社、タンデム社、ユニシス社の13社のCEOである。当時CSPPの議長であったアップル社のジョン・スカリーは、「NIIの構築には20年の歳月と莫大な資金を必要とするだろうが、民間セクターは喜んでその大部分の資金を出す」とブラウンに伝えたと言われている。
 こうした民間企業の意見が、NII構想に変化をもたらしたのである。

Agenda for Action

 93年9月にIITF (Information Infrastructure Task Force) の設置と同時に発表されたAgenda for Actionによれば、NIIは「高い賃金の雇用の創出、経済成長の促進、新製品・サービスの供給、米国の技術面でのリーダーシップ確保」に役立つとされている。また、この報告の中ではNIIによって21世紀初頭までに3億ドルにのぼる歳入の増加が期待できるとの分析も行われている。
 これに述べられている政策的フレームワークは次の9項目である。

(1) 適切な税制・競争の活発化による民間投資の促進
 ブラウン商務長官は「民間セクターはすでに高度な情報インフラを構築しつつある。しかし、政府としてもNIIへの投資を誘因するために経済的および規制面での環境整備を行う。具体的には、34年通信法の改正とR&D税額控除を含む税制の改正である」と述べている。

(2) ユニバーサル・サービスの定義の見直しと適切な価格での情報利用
 ユニバーサル・サービスについては、34年通信法に定義されているが、NIIに向けてこの定義は拡張され、「収入、能力、地理的状況の如何にかかわらず、同じように情報にアクセスできるサービス」を含むべきである。新しいコンセプトはIITF、NTIA の主導の下に検討される。

(3) 技術革新と新規アプリケーション開発の促進
 国立研究所の研究開発については、民間セクターとの連携によって成果の商業化を促進する。特に政府が開発するアプリケーションは、ヘルスケア、教育、社会サービスの分野に限定されることになる。研究開発促進の具体策としては、HPCC計画の推進、NIIパイロットプログラムの実施、NIIのアプリケーションのデモの実施などが挙げられている。

(4) ユーザ主導による継目のない双方向ネットワークの運営促進
 NIIは数多くのベンダーによって構築されることになる。そうなると相互接続のための規格の整備が重要になる。しかし、米国では政府自身が規格設定を行うことについては極めて反対が強い。理由は規格の設定によって、本来市場の競争によって決まるべき技術の優劣が、ある技術を政府がサポートすることによって決ってしまう可能性が高いからである。このためクリントン政権は、規格策定プロセスの評価と明確化、政府規制の評価を進めて双方向サービスやアプリケーションの開発促進を図るという方針を打ち出すに留まっている。

(5) 情報セキュリティとネットワークの信頼性の確保
 NII構築に当たっては、個人の情報プライバシーが侵害されないことが重要である。このため政府は、NIIに関するプライバシー問題の評価、暗号技術の評価、ネットワークの信頼性向上のための産業界との協力を進めることにしている。

(6) 無線周波数管理の改善
 NIIは光ファイバーや同軸ケーブルのような有線システムで構築されると考えられがちであるが、無線も重要な情報ハイウェイになりうる。また電波の周波数は有限な資源であるため、公正な方法で割り当て、有効に利用されることが重要である。このため政府は、周波数の割り当てと利用の合理化を検討し実行する、周波数配分に市場原理を導入するという方針を立てている。

(7) 知的所有権の保護
 NIIにおいてそこを流れる情報が重要であることは言うまでもない。したがって、知的情報の保有者のみならず政府にとっても知的財産権の保護は重要な課題である。情報の提供者や創造者にとってインセンティブになるようにしなければならない。一方、デジタルな情報は容易にコピーできるため、政府は、NIIにおける著作権法の適切化、著作権者の認定法などについて検討することにしている。

(8) 政府機関相互間の調整
 NIIは国家レベル、国際レベルでネットワークの統合化がなされることが必要である。このために政府は、州政府を含む地方政府と連邦政府の連絡調整、海外市場の解放化、規格が非関税障壁となることの防止策検討、国際および国内通商規制の見直しを課題としている。

(9) 政府情報へのアクセス拡大と政府調達の改善
 政府はそれ自身が情報提供機関であり、政府保有情報は国民共通の財産でもある。したがって、国民であればだれでも平等に情報にアクセスできるようにする必要がある。また、政府は巨大な調達者でもある。この調達をネットワークを利用して行うことによって、 調達手続きを迅速かつ合理的なものにすることができる。

NIIの政策決定構造

 NIIの政策検討において中心となっているのはホワイトハウスである。この点は明かに前共和党政権とは異なっている。たとえばHPCC計画の立案、実行の調整は連邦科学・工学・技術調整委員会(FCCSET)が行ってきた。この委員会の議長はホワイトハウスの科学技術政策局(OSTP)の局長で、委員は各省庁の副長官、次官クラスである。このため実際の科学技術政策の決定は各省庁、各部局レベルに散在していた。

 クリントン政権は、技術政策に関する権限をホワイトハウスに集中化しつつあり、技術政策を一連の経済政策の中に位置付けてきている。たとえば国家経済審議会(NEC)の設置はその重要な一例である。このNECの議長は大統領自身がつとめ、NECはホワイトハウスの決定を各省庁の施策を反映させる役割を果たしている。NECのスタッフにはOSTP局長が含まれているが、これはクリントンが技術進歩と経済成長との関連をどう見ているかを端的に示す例である。

 既に述べたように、クリントン政権の情報技術政策はゴア副大統領が担当している。93年6月にはホワイトハウスをインターネットに接続し、大統領と副大統領のメールアドレスを公開した。また、94年初め、ゴア副大統領はCompuServeを用いて公開の電子コンファレンスに参加している。

 また、大統領自らが議長を務め、OSTPが事務局を担当する国家科学技術審議会(NSTC)も設置されている。このNSTCはFCCSETや国家宇宙審議会等の科学技術関係審議会についても責任を持つため、科学技術政策に関しては最高の権限を持っている。そしてこのNSTCの最高のプライオリティがNIIなのである。

IITF

 IITFはNII構築に向けた各省庁の活動を調整するために設けられたタスクフォースであり、議長はブラウン商務長官、メンバーは情報通信政策に関係する政府機関の代表者49人によって構成されている。事務局は商務省のNTIAである。
 IITFは次の3つの委員会で構成されている。

(1) 通信政策委員会(TPC: Telecommunications Policy Committee)
 委員長はLarry Irving 通信情報担当次官補であり、通信産業と政府部門の様々な技術課題について整合のとれた政策立案のための調整を図る役割を担っている。この委員会の下には4 つのワーキンググループ(WG)がある。ユニバーサル・サービスWG(Universal Service WG)、ネットワーク信頼性WG(Network Reliability and Vulnerability WG)、国際WG(International WG)、法案作成タスクフォース(Legislative Drafting Task Force)である。

(2) 情報政策委員会(Information Policy Committee)
 委員長はSally Katzen予算管理局情報規制関連室長であり、この委員会はプライバシー、知的所有権、政府情報へのアクセス問題を担当する。この委員会の下には3つの WGがある。知的所有権WG(Intellectual Property Right WG)、プライバシーWG(Privacy WG)、政府情報WG(Government Information WG)である。

(3) アプリケーション・技術委員会(Applications and Technology Committee)
 委員長はArati Prabhakar NIST長官であり、この委員会はNII関係技術の開発、実証実験と政府及び公的セクターでの導入を担当している。この委員会の下には 3つのWGがある。政府情報技術サービスWG(Government Information Technology Service WG)、技術政策WG(Technology Policy WG)、保健情報・アプリケーションWG(Health Information and Applications WG)である。

 各委員会およびWGは活発な活動を行っており、様々な報告書を提出している。こうした活動の経過と報 告書はインターネット上で公開されており(<http://iitf.doc.gov/>)、誰でも簡単に入手できる。以下にIITFの主なレ ポート名を挙げておく。

* NII Privacy Principles (06/23/95)
* REPORT NII Security: The Federal Role (06/08/95)
* Global Information Infrastructure: Agenda for Cooperation (02/15/95)
* Global Information Infrastructure Update (09/22/94)
* National Information Infrastructure: Progress Report (09/13/94)
* The Info. Infra.: Reaching Society's Goals (09/07/94)
* Putting the Info. Infra. to Work (05/04/94)
* Reengineering Through Information Technology (08/22/94)
* Intellectual Property Working Group Draft Report (08/03/94)
* Administration White Paper - Communications Act Reform (01/27/94)

IISP

 IISP (Information Infrastructure Standards Panel) は、NII/GIIの構築に必要な標準を明確にし、その開発を促進するために94年7月に設置された会議である。事務局はANSI (American National Standards Institute)が行っており、コンピュータ、電気通信、ソフトウェア、CATV、放送などの業界団体、標準化団体、主要企業および政府機関がメン バーになっている。これまでに94年9月、95年1月、3月、5月に会合が開かれている。次の7つのワーキング・グループ(WG)が設置されている。

 (1) WG1:Common Principles of Understanding
 重要な用語と考え方を定めることにより、明確なコミュニケーションを促進

 (2) WG2:Standards Framework Management
 重要インターフェースを識別するため、NIIのアーキテクチャ、重要インターフェース、既存の標準を分析

 (3) WG3:Standards Development & Tracking System
 IISPで特定された標準要求のプロセスに関するシステムの開発及び標準プロセスのレビュー

 (4) WG4:User/Content Provider Standards Requirements
 ユーザとコンテント・プロバイダーの観点からの標準要件の分析、標準要件のIISP標準プロセ スへの投入

 (5) WG5:International Aspects of the NII/GII
 GIIにむけた国際的連携の構築と国際的調和のあり方の検討

 (6) WG6:Cross-Industry Understanding and Cooperation
 異なる産業間の理解の増進のためのプログラムを通じたIISP標準協力の促進

 (7) WG7:Role of Government
 IISP標準プロセスにおける政府の役割の検討

 このIISPには標準化に関する米国内の主な団体が参加しており、これまでのところ、概ね順調に議論をしてきている。たとえば、WG1では電子的にデータを蓄積してインターネット経由で情報を公開することを決めたし、WG2はネットワーク-ネットワーク・インターフェースの3次元モデルを提示し、産業活動、エンターテイメント、製造、医療などのアプリケーション毎にモデルを創りつつある。

WG3はNISTが開発したTracking SystemデータベースをANSIに移設してメンテナンスすることを決定し、WG4ではセキュリティやエレクトロニック・コマースに必須な電子署名、暗号技術に関する問題を議論している。WG5は日本を含む米国外の関係機関とのリエゾン関係を構築し、国際調和の努力を行っている。

 以上のように紹介すると、極めて有益な会議であり、そう遠くなくNII/GIIの構築に必要な標準が明確になり、開発が順調に進むような印象を与えるかもしれない。しかし、実態はまったく異なる。誰もが納得するNII/GIIの姿を描ける参加者は一人もいないし、検討されているモデルから実際の標準化すべき要素が確定され、標準化が完了するまでにはかなり長い時間を必要とするに違いない。例えば、議論の中で、ネットワーク-ネットワーク・インターフェースの分かりやすい例として挙げられているのは「CATVのケーブルを用いた電話と既存の電話のインターフェース」であることを考えれば分かりやすいかもしれない。NII/GIIの構築のための標準化問題が、多くの異業種、国にまたがっていることも問題を複雑にしている。このままでは、外枠は議論したが、中身はよく分からないまま会議は続き、IISPはお互いの安心を得るための情報交換と顔なじみの集まる懇親会になってしまうかもしれない。

4人のプレーヤー

 それにつけてもNII/GIIはどんなものなのになるのだろう。このレポートを書くために集めた資料を読み返してもイメージは湧いてこない。インターネットはNIIのモデルだとか、インターネットが発展してNIIになるのだという意見もあるが、現段階では、NIIとインターネットとの関係は明確ではない。インターネットには限界があるという理由で、その発展的解消を狙ってHPCC計画のNRENが計画されたが、実際にはインターネットは、様々な問題を抱えながらも発展を続けている。HPCC計画はNIIの技術的基盤を作るものと位置付けられているが、NIIそのものがどういうものになるかというコンセンサスはない。「誰かが新規に情報スーパーハイウェイを構築する訳ではない。NII/GIIは既存の様々なネットワークが進化して統合・融合してできるのだ」という意見ももっともらしいが、想像力不足の頭では、電話とCATVとインターネットを融合しなくてはならないようなニーズを思い浮かべることができない。

 米国のある専門家は「未だにNII/GIIはカオス状態にある」と言っている。すべては市場における競争によって決定されるので、誰にも誰がどんなネットワークでNII/GIIを実現するのか分からないし、それは一種類ではなく複数の種類のネットワークによって構成されるものかもしれないというのだ。彼の考え方によれば、NIIのプレーヤーは4つに区分できる。

 第1のプレーヤーは、情報ハイウェイの提供者である。AT&T社、MCI社、Sprint社といった長距離通信事業者、RBOCのような地域の電話会社、TCI社、タイムワーナー社、コックス社のようなCATV会社、あるいは無線通信事業者も含まれる。これらの一つあるいは複数の組合せが将来の物理的な情報スーパーハイウェイの提供者になる。
 第2のプレイヤーは、機器及びソフトウェアの提供者である。特にNII/GIIの窓口となる可能性のある情報機器は数多い。電話、テレビ、パソコン、PDAなどがその候補だが、テレビにセット・トップ・ボックスがついたものが普及していくのかもしれないし、パソコンがテレビや電話の機能を備えていわゆる情報家電的なものに進化していくのかもしれない。
 第3のプレイヤーは情報・サービスの提供者である。ここには将来さらに多くの参入が見込まれる。すでに映像情報をたくさん抱える映画会社などが注目を浴びているが、この他にも新聞、雑誌などの印刷物を扱う出版業、ソフトウェア産業、カタログ販売やテレビショッピングなどの小売業、弁護士などの個人向けサービス業まで含まれる。
 そして第4のプレーヤーが、利用者である。これは企業、政府、非営利の団体などの組織的な利用者と家庭および個人に区分できる。

 こうしたプレーヤーの組合せがNIIを形作っていくことになるが、その過程は市場に委ねられ、誰にも 将来を正しく描けない。全ては今後の技術開発と市場の競争に委ねられているということになる。

(次号に続く)


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