2020/7/11(うたの日366)
街はもう遠近法を捨てていて隣の君がこんなに遠い/尾渡はち
(2019/5/3「遠近法」)
「遠近法」部屋の短歌だったのだけれど、ベストアンサーな短歌だと思う。詩的な使い方であることも勿論だけれど、下の句に繋げるためにはなんとなく、遠近法が持てなくなっているのを直接的に「主体(ぼく)」ということにしてしまいそうなのに、「街」を持ってくるのがとても上手いと感じた。
「街」が遠くにあったので君が隣にいることが解っていた。この「街」は故郷とも読めるけれど「街」であるので、都会として読んだ。都会での忙しさに埋没してしまって、きみとの関係も希薄になっていく様だと個人的には読んだ。が、逆にふたりで都会を離れたが、そのあたりからふたりに意識がずれていくようになったようにも読める。また「街」は社会性を指すことばでもあると思う。それを意識しないとまず自分がどの場所にいるのかすごく不安になり、相手との距離感も上手くとれなくなってしまうことにも通じるだろう。もしかすると、主体は社会といま一時的に繋がっていない…例えば、それまで必死で働いていて仕事が生甲斐のようだったのに倒れるなりしてそれができなくなってしまった。「君」は変わらず働き続けているのに…という恋愛関係ではなく仕事のライバルのような読みもできると感じた。多様に読みのできる、すごくいい歌だと思った。
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