カテゴリ短歌祭(恋愛短歌賞)toron*選
このたびカテゴリ短歌祭、「恋愛短歌賞」の選を担当いたしました。
投稿数は162首でした。たくさんのご投稿をありがとうございます。
毎月「恋愛短歌同好会」という恋愛をテーマにした投稿企画を個人的にやっているのですが、そちらともまた傾向の違う歌があって、興味深く拝読しました。
そのなかで、特にいいなと思った歌を「特選」「入選」として取り上げて、選評を書かせて頂いております。
また、評はないのですが最後まで迷った歌を「佳作」として取り上げております。
どの歌にも惹かれる部分があり、選ぶのが難しかったです。お読み頂けたら嬉しいです。
【特選】
あのひとの首の重さと同じだと膝がささやく西瓜を切った/睡密堂さん
四句目「膝がささやく」が抜群にいいですね。丸ごとの西瓜を持ったときにふいに抱いた感覚だと読みました。
また、四句目と結句のあいだにはややタイムラグがありそうで、とても自然に時間が伸び縮みしています。
一首のなかで時間の伸縮が自在なことが短歌の特色でもありますが、この歌はその利点を上手く生かせた歌だとも感じました。
自分の身体のなかに、自分ではないような意志や感情のゆらぎにふいに支配されてしまって再び「自分」に戻ってくるまでのあの感じ…ひとつの物事や考え事に没頭していて「気がつけば思いのほか時間が経っていた」という経験は、誰しもあると思いますが、そのわれに返った瞬間の寄る辺ない感覚を上手く掬い上げている印象でした。
「首」「切った」には『サロメ』の要素を彷彿とさせますね。決定的な何かはまだ「あのひと」との間に起こってはいないのかもしれませんが、これから崩れてゆく「何か」への予感が満ちており、不穏でありながら眼の離せない歌に仕上がっています。
【入選】
通話中 粉雪みたいな沈黙をまるめてうさぎ作ってみたり/瀬生ゆう子さん
「沈黙」自体には確かにホワイトノイズのような印象がありますが、それを「粉雪」に喩える主体は、嫌なものとして感じていないのでしょう。
おそらく、その沈黙は一瞬ではなく断続的で、しかし、主体はその沈黙に馴れており、かつ心地よく思っている雰囲気が出ています。
初句切れのあとの空白箇所は、受話器の向こうの相手の沈黙そのもののようでもありますね。「作ってみたり」という言いさしの結句は、雪うさぎを作る以外にもいろいろあるのでは、と思わせます。
また、二人称で書かれていない短歌でもありますので、必ずしもこのふたりを恋愛関係と限定しなくても良いかもしれません。例えば恋愛の相談を受けている友人同士、という読みをしてもその沈黙に出来上がる「うさぎ」が似合うかもしれない、と感じました。
無洗米研ぐようなその指先で今夜は誰をなぞっているの/ユミヨシアユムさん
「無洗米」に喩えているのがいいですね。それも研ぐ必要のない無洗米をあえて研ぐひと…というところに、そのひとの性質が浮かび上がってきます。個人的には不安定さを感じました。
一方で、米を研ぐ自体の動作には、堅実さや家庭的な面を持つひとのイメージが付加されますが、下の句と合わさることで、生まれたギャップは魅力的でもあります…恋愛で相手に惹かれる要素として「ギャップ」はかなり大きいと思うので。
また「なぞって」という言葉選びによって、読みのひろがりが出ています。
セクシャルな読みとしても成り立ちますが、「誰か」を自分の理想の「誰か」につくりかえてゆくような雰囲気が合って、出会いがひとを変えてゆく過程を思わせます。