2020/8/5(うたの日366)
川の字になれぬ二人の暮らしにも進みつづける笹舟がある/朧(ろう)
(2020/4/30「二」)
一読して、すっと入ってきて、いいなと思える歌だと思う。かつ、不思議な新しさがある。というのもおそらく「川の字」から夫婦の間に子どもがいるシチュエーションを想像してしまいがちなのだけど、「二人の暮らし」には単純に「子どものいない夫婦」以上の読みが広がっているからだと思う。男女の組み合わせではなくて、同性かもしれないし、カップルですらないパターンもある。それぞれ結婚していない姉妹かもしれないし、江國香織の『間宮兄弟』みたいな兄弟としての読みも面白いと思う。
川の字の真ん中が抜け落ちていて、二人の間に川があり、その間を笹舟が走っていくイメージなのだけど、それは二人のあいだに埋められない何かがあることに繋がっているのだろう。ただ、そこに舟を走らせることで、もっと別の場所…世間一般で云われる「しあわせ」に捉われない場所を目指しているのかと読んだ。「川の字」は家族の慣用句的によく詠まれている素材なので、敢えて使うことで「いや、今はそれだけが幸せではなく」と上手く伝えられているだろう。「なれぬ」から「進みつづける」のポジティブさの転換もとても良い歌だと思う。
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