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2020/9/5(うたの日366)

くたびれた三万円を換へに行く明かりのやうな三万円に/門脇篤史
(2019/1/15「万」)

両替をしに行く景だと読んだ。歌のなかで明示されていないのだけれども「三万円」なのでご祝儀に使うための三万円なのだろう。金額からみて、親族ではなく友人の結婚式なのかな、と。「くたびれた」は三万円のことでありながら、自分の時間と労力をつかって働いて、日々のお金を得ている主体のことのように思える。ふだんの生活はどうしても華やぐものでなく、そのままにしていればそのお札のように心は擦り切れていく。でも、そんな日々にほつほつと嬉しいことがあって、充足した気力になり、また頑張ろうと思える…日常はその繰り返しなのだと思う。両替をしているので、その通りになのだけなのだけど、金額は一円も増えてはいない。それが、見た目には解らないけれど、気持ちがとても明るくなった人間とよく似ている気がする。
そういえば、財布の中身は循環するので、たまに手元に古いお札がきたとしても、それが破れるまでずっと手元にあるということはない。辛いことと嬉しいことが繰り返しやってきて、日々を乗り越えていく気持ちとも上手くリンクしている歌だと思う。

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