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ゼロから始める新規就農の手引き①-出発点編-

どうもこんにちは。
新規就農1年目のとりとると申します。
山梨県北杜市で夏秋いちごを栽培しています。
38歳で脱サラをして、約1年の修行期間を経て農家として独立をしました。

「農家になった」とはいえ修行期間たったの1年、今はまだ形ばかりの素人です。

なんの巡り合わせか、こちらのnoteに辿り着いてしまった農業の先輩方におかれましては見苦しい内容も多々あるかとは存じますがお手柔らかにお願い致します。


さて、僕は経験なし・土地なし・コネなし、全くのゼロから農業者への道をスタートしました。
農業に関して、語れるバックボーンは何もありません。
海より山派だったので里山暮らしにずっと憧れがあった、ぐらいです。
そんな僕が農家として独立するまでの1年間に感じた事や(短いですが)これまでの道のりについてまとめてみようと思い筆をとりました。

ですが、筆者はなにしろ新規就農一年目です。
まだ何の成果も上げていません。
なんとか独立するという所までは辿り着く事ができましたが、はたして僕の新規就農が成功だったのかどうかは今の所まだわかりません。

だから僕にはまだ新規就農について何かを語る資格なんて全くもって無いんです。
3年後、5年後にそれなりの農家として自信を持てた頃に何か偉そうな事を書こうかなぁなどと思っていたんですが、やっぱり今書かなきゃいけないのではないかと思い直しました。

おそらく5年後の僕は、とうに通り過ぎたハードルである新規就農というトピックに対して興味を失っているだろうし、5年後には農業界の情勢も大きく変わっているでしょうしね。
なにしろこの2〜3年の物価高騰でビニールハウスを建てるのに必要な金額は倍近くなったとも言われているんです。(僕は以前の金額をよく知りませんが…)
新規就農者向けの補助金にしても、ちょくちょくルールが変わっています。
だから5年後に僕が新規就農について何かを語ったとしても情報として古いと思うんですよね。
まぁそもそもその頃に僕が生き残れているのかも定かではありません。

だから、僕には何かを語る資格はないけれど、今のうちに書き留めちゃおうと。
思い思いに発信ができる、便利な世の中ですね。

というわけで、このnoteは農業の経験はないけれどゆくゆくは農業をやってみたいなと「今」考えている方に読んでいただきたいなと思い、拙い経験ながら書き記してみました。

僕の言葉はあくまで一つの視点として、参考程度に留めるようにお願いします。
色々な見方や考え方がありますので、僕の考えが正しいというつもりは毛頭ありません。
僕自身、教科書通りのことは全然してきていないので…。
あなた自身による、あなたの就農への道筋は自分自身で描いていきましょう。
たった一つのあなたの人生ですから。

「農家になるには何から始めたらいいんだろう?」

まずはここで悩まれる方が多いと思うんです。

僕も、農業をやろうと思ったのは4年ほど前だったかな、会社員時代に色々と検索をしました。
仕事は関東で雑貨販売店の店長をやっていました。
その時はコロナ禍初期の混乱の最中で、お店の入っている商業施設が緊急事態宣言によって期間未定の休業になったんです。

やらなければいけない事が目の前から突然なくなり、人生について考える時間が山ほど出来て、ふと、いつまでこの仕事を続けられるのかなと思ってしまったんですよね。
50歳を越えてオシャレを売りにした雑貨店の売場に立っているのは考えづらいし、かといって東京の本社にも行きたくなかった。
僕と奥さんは北海道や長野のような自然のある土地でいつか暮らしたいと思っていたんだけれど、人生がそこに向かって動いていない。
これから何を仕事にするかはまだわからないけど、どっちみち今だって安月給なんだし、まずは移住しちゃおう。という事で退職の意向を上司に話したんです。
すると、ひとまず長野県の店舗への異動でどうかという話になりました。
仕事が決まらないまま移住するよりかはずっと良いですから、渡りに船の提案です。
異動してからは農業も含め色んな仕事について調べながら退職の段取りを組んでいました。
僕は店長だったので、お店のスタッフの中から後任となる店長を育てるのが退職へ向けたミッションです。

次の仕事は農業が良いなとはずっと思っていたんですが、土地も持ってないしやり方もわからない。
まず何から始めたら良いのかがわからない。
体力やキャリアの事を考えると40歳までに農家として独立したいという事だけは思っていたので、まずは仕事をしながら菜園をやってみようと思いました。

移住してから1年後くらいの生活が落ち着いた頃、町役場に「近隣で農地を探しているんですが、、、」と聞いてみました。

返ってきた答えは
「まだ移住されたばかりですので、まず地域のイベント等に積極的に参加して、地域の信頼を充分に得てから、地域の人達に紹介してもらってください。」という物でした。
僕は地域の草刈りなど行事ごとには全て参加していたし、親切なご近所さん達に可愛がっていただいて、この一年で地域に溶け込めてきたなと思っていたんですが、まだまだ時間が足りなかったみたいです。

農地についてはひとまず諦めて、また表題の
「何から始めたら良いんだろう?」に戻ってしまいました。


でもね、これは陥りがちな罠なんですが、農業者にその質問を直接投げかけるのは絶対にNGなので気をつけてください。


なぜなら、返ってくるのは
「そんな事も自分で調べて行動できないのなら新規就農は向いてないから辞めといた方が良いよ。」
という、割とシビアな言葉だからです。

僕はその質問を直接農業者に投げかけた事はありませんが、実際にそういった言葉をかけられている人を沢山見てきました。
優しい先輩はそう言わないかもしれませんが、心の中では思っている可能性が高いです。

右も左も分からない後輩である就農希望者に対してはあまりにも唐突で厳しい言葉です。
もう少し手心を加えて欲しい気もしますが、言っている事はあながち間違いでもありません。

農業経営体は日本に約100万軒ほどありますが、同じ物は一つとしてありません。
その一つ一つに独自のポリシーとストーリーがあります。
正解のない世界です。
現役農業者の先輩方も今まさに霧深い海を手探りで進んでいる真っ最中なんです。

この先、誰かがあなたのことを一人前の農家にしてくれるなんていうことはありません。
みんな悩みながらやっている最中だからです。
ですが、あなたがあなた自身の手で一人前の農家になろうとする姿を見守ってくれている人はいます。

これを胸に刻んでおけば、先輩方から向けられる厳しさや一見冷たく感じる対応も、ありがたい言葉として理解出来るようになります。
まずはここからです。


僕はというと、相変わらず何をすれば良いのかわからなくて、格安で購入した中古の家で奥さんと一緒に小さなガーデンを作る事を楽しんでいました。


「そうは言ってもなにかヒントを…。」

最初は本当に何もわかりませんもんね。
気持ちはよくわかります。

農業に朧げな憧れを抱いている方って結構多いんじゃないかなぁと思います。
特に都市部での仕事や生活に疲れを感じている方などは「田舎で畑を耕しながら暮らすのも良いな…」と考え、地方移住と就農をセットで考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
少なくとも僕にはそれに近い考えがありました。
お日様の下で晴耕雨読の毎日。
人の役に立って喜ばれる仕事な気もするし。
脱サラ就農の動機なんて大体そういうものなんだと思います。
都市部でもそういった方に向けた就農フェアがよく開催されているので、調べて相談に行くのも良いと思います。
市町村の農政課やJAの普及員に相談するのも良いですね。
もし憧れの農家さんが既にいるのであれば、アポを取って会いに行っても良いです。



…と言いたい所ですが。
まずはその前に、
自分自身の出発点をきちんと明確にしておく必要があります。

あなたがもし、農家になろうと本気で思っているのであれば、これから
必ずや、様々な壁や選択肢にぶち当たります。それもものすごい数の。

それらの壁は新規就農者の誰もが通る道ですが、幸いな事に多くの先人が書籍やSNSなど様々な形で道標を残してくれています。
この端切れのようなnoteを見つけて目を通して下さるくらいに情熱を持ったあなたなら充分にクリア出来るはずです。
自分を信じていれば全く問題ありません、安心してください。

ただ一つ気をつけて欲しいのは、それらの壁にぶつかった時に
自分の目的地を見失ってしまわないようにしなければいけない
という事です。

目的地とは「農家になる事」ではありません。
「農家になって何を実現したいのか」という事です。
それがさきほど明確にしなくてはいけないと言った自分自身の出発点(目的地)です。
志望動機に近いかもしれません。

僕にとっては
①植物が大好きな奥さんと、存分にガーデニングが出来る田舎の環境で暮らしたい。
②誇りを持って一生をかけて取り組める仕事をしたい。
③情熱を注いだ仕事は自分の成果として評価されたい。
という事が農業を志す出発点でした。

芯はそんな程度のもので大丈夫です。
「日本の耕作放棄地問題を解決したい」とか「農家の減少に問題を感じて」とか、そんな大それた事じゃなくて大丈夫です。
それらの問題は、農業初心者であるあなたが背負おうとするには重すぎるからです。
そして、正直なところ新規就農者にはそこまでの期待はされていません。
就農の動機を自己満足以外の所に持つと、思っていたより歓迎されなくてモチベーションが下がってしまうかもしれません。

だから目的地はごく個人的な願望の達成におく事をオススメします。
本当になんでも良いんです。
そしてシンプルであるほどブレないと思います。


僕の出発点となった願望①②③は必ずしも農家にならなくても達成出来る事です。
でも農家になれば達成出来そうな事でもあるじゃないですか。
まずはそんな感じで良いので、あなたが農家になりたいなと思った出発点を明確にしてみてください。

「なぜ農家になりたいのか。」は就農を目指す上で何度も問われますから、いつでもスッと言えるくらい理由を明確にしておきましょう。

「そもそも農家になるとはなんぞや」


出発点を決めたあなたにとって、農家になるという目標はすなわちゴールではなくなったはずです。
そう、農家になる事はその先にあるあなただけの目的地へ向かう為の手段でしかありません。
それは本当に一番重要な事なので忘れないでくださいね。

しかし農家と一口にいっても本当に様々ですよね。
お米を作る人もいればぶどうを作る人もいるし、牛を育てる人もいます。
何十haもある水田を農業機械で耕す人もいれば、トラクターの入れない歪な棚田で無農薬栽培に挑戦する人もいます。

いちご狩り園も農業だし、もやし工場も農業です。
もやし工場の社員は農家なのか…と聞かれると微妙な所です。

さて、あなたがしたいなと思っている農業の形とは、一体どんな物でしょうか?

ここで聞いているのは作目(何を作るか)ではありません。

仮に、あなたが飲食店を始めるとします。
ラーメン店を開くのか、はたまたイタリアンレストランを開くのかでは全然違うしそれは重要な選択ですよね。
それは農業で言えば作目の違いです。

でも実は、それよりも前に重要な選択肢があります。
例えばサイゼリヤとタツヤ・カワゴエ(現在閉業)は同じイタリアンレストランですが比べるのもおかしいくらい明らかに違う物ですよね。
どちらの方が良いという話ではありません。
サイゼリヤの社長は川越シェフより日高屋の社長の方が話が合いそうじゃないですか。
どちらも全国展開で安価な食事の場を提供する会社です。
提供する料理のジャンル(作目)より大切な事がなんとなく見えてきましたでしょうか?
それはやはり「目的地」です。

話を農業に戻します。

幸いな事に、ゼロから新規就農を目指すあなたはどんな作物を作ることもできます。
これはなんのしがらみもない新規就農者の、圧倒的な強みです。
家業としての農家を継ぐ人は作る物や土地を簡単に変える事が出来ませんからね。
そんなゼロからだからこその強みを、まだ経験が少ない段階で決めてしまうのはすごくもったいない事です。
やり始めてから、やっぱり違ったなと作目を変える事はとても大変な事ですから。
栽培技術、設備、売先との関係構築などをもう一度組み直さなければなりません。
あなたは自分にとってベストな作目を決める為の判断材料を現時点で持っているでしょうか。

作目選びはとても重要な分岐点になりますので、そこの判断は可能な限り保留にしておきましょう。
色々な経験を重ねる中でゆっくり決めていけば大丈夫です。

では、作目を決める前に決めておきたいのは何か。
それは先ほど飲食店の例えで触れた「目的地」です。
目的地なら出発点の話の時に決めたよ?
と思われるかもしれませんが、ここでは最初に考えたあなたの出発点から少し踏みこんで、農業に寄り添った形でより明確にしていきます。

数年後、農家になったあなたは何のために農業に携わり、そして農業の何に喜びを感じているでしょう。

ただ農作業をしながら生活したいという事であれば、農業アルバイトで充分です。
アルバイトであれば転々と様々な生産の現場に触れる事が出来ますし、最低賃金分の収入や休日は保証されますしね。最低賃金は今大幅に上がっているので、非正規でも充分に食べていけると思います。
労働条件で比べてしまえば他産業よりかなり悪い傾向の農業ではありますが、農業法人に就職するというのもリスクなく農業に触れる生き方です。
自分の手で色々な作物を育ててみたいという事であれば、本業は別に持って家庭菜園をするというのも自由で楽しいかもしれません。

ここで、それもありだなと思った方はそこも視野に入れておいてください。
農家になる事はゴールではありませんから。

それでもやっぱり自分は1人の農家として独立したいんだという方にお聞きします。
あなたが雇用就農でも家庭菜園でもなく、プロの農家として独立する事で得られる喜びとは一体なんなのでしょうか。
どんな未来が待っているでしょう。

努力の成果が収入に反映されている未来ですか。
大きなトラクターに乗って広大な農場を耕す未来ですか。
スマート技術を駆使して農業世界の先端を行く未来ですか。
地域で1番の収穫量を上げて名人と呼ばれる未来ですか。
美味しいとのお声を消費者から直接いただく未来ですか。
珍しい作物を全国に普及させている未来ですか。
子ども達に無農薬の野菜を届ける未来ですか。
農村を盛り上げる未来ですか。

そう、しつこいようですが様々な農業の形というのは果樹園だとか畑だとかの地図記号的な違いだけではありません。
その先に目的地の違いがあります。
まずはその違いを理解し、あなたが関わりたいと思える農業の形を考えてみてください。

すでに心の中にある人が多いかもしれませんね。
それを言葉にして確認する作業です。
もし大きなトラクターを乗りこなす事に誇りを感じるなら施設栽培の作物は選択肢から外れますし、栽培名人になりたいのなら地域の特産品から作目を選ぶのが良さそうです。

僕の場合
①販売業をしていた経験を活かして、自分の作物をプロモーションしている未来
②特別で良いものを作っているという誇りを持っている未来
③身体が小さく細かい作業が得意な奥さんと一緒に仲良く働いている未来

を思い描きました。
上記を言葉にすることで、僕は特別な作物のPRをする為に農業に携わり、作物の価値向上に喜びを感じる人間だということがわかりました。
単価の低い野菜類を多く売るより、ギフト重要が狙える果物を作る方が僕には喜びが大きそうです。スイカのような重たい物は奥さんと作業の分担が難しそうですね。
どこかの農業法人に入って広報に携わるのも良さそうですが、最初に決めた「努力の成果は自分の仕事として評価されたい」という出発点から独立就農を目指す事にしました。

このように、目的地を見つける事が、より具体的な就農プランを決めていくヒントになるはずです。
ただし、ここでもまだ作目は一つに絞っちゃダメですよ。
実際に作業をやってみてイメージとのギャップはないか、どのくらいの規模でやれば暮らしていける収入が見込めるのか、という事がわかって初めて決定出来る事だと思います。

あなたの一生の事ですからね、じっくりいきましょう。


長くなりましたが、今回の記事はここまで。
あなたの頭の中だけで済む話でした。

次回はいよいよ行動を始める話をしたいと思います。


too little garden
農園代表 とりとる

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