産むんですか?産まないんですか?〜夫婦の決断①
出生前診断の結果を受けて、夫婦で話し合い18トリソミーと言う知らなかった障害について、調べて議論していく。
出産の恐ろしさを知っている男~夫の気持ち
実は、私が妊娠する半年前くらいに、夫は友達を亡くしていた。
その友人は国体に出ていたくらいマラソン?陸上が出来て身体が強い女の子だった。
しかし、妊娠中から呼吸苦がでてきて、
臨月が近づいて、お腹が大きくなるに連れ、どんどん息苦しさは酷くなった。最後は、階段が上れないほど、歩いていているだけで走ったくらい息切れがする程しんどかったらしい。
しかし、妊娠によるマイナートラブルだと言われて、詳しい検査は行われなかった。臨月だから、息苦しさが出ている、産めば治るみたいな、そんな雰囲気だったと言う。しかし、彼女の息苦しさはドンドン酷くなるばかり、ついに臨月に、意識不明で救急車で運ばれてしまった。
彼女は、助からなかった。
どうにか、お腹の赤ちゃんだけ、助かる事ができた。
夫は、彼女の旦那さんとも友達だったので、
残された旦那さんを見ていたたまれない気持になっていた。
赤ちゃんの誕生を、喜ぶ事さえ出来ず
彼女を亡くした悲しみに明け暮れて
何もしてあげられなかった自分と
子供を産むことで犠牲にしてしまった彼女の命について罪悪感と後悔でいっぱいだったそうだ。
子供は、良いから彼女が助かって欲しかった。
夫は、残された旦那さんの言葉が、あまりに悲しく忘れられないと言う。
夫自身が、その様子を見てきたので
出産の恐ろしさを肌で感じていた。
だから、先生からの説明の時には、母体は大丈夫なんですか?
って、いつも決まり文句のように聞いていた。
しかも、頸部リンパ管腫と診断を受けてから
私は、体調がすこぶる悪かった。
冷たい雨の夜にさらされていた事から、軽い風邪にかかって咳が止らず、喘息になっていた。夜中や明け方に咳が出るので、夜眠れてないことや、リビングで座って苦しがっている事が多くなっていた。
妊娠している事やお腹の子供の病気の事を知って、呼吸器科の先生は、咳止めやアレルギーの薬じゃなくて、精神安定剤ばかりを処方した。
他の病院を受診して、やっと薬を出してもらって2ヶ月くらい経過してやっと治ったが、夫の不安の種は、大きな物になってしまっていた。
羊水が多くなって、何ヶ月も入院する場合がある事
帝王切開になる確率が高くなる事
先生からの説明や状況を理解したって、
心配な気持がなくなるわけではなかった。
(夫)入院を何ヶ月もしないといけないなんて、大変だよ。
お腹切って、それでも死んじゃうかもしれないらしいし。
(私)帝王切開するかしないかは、自分達で決められるし、
入院しないといけないかはその時になって見ないと分かんないんやし
皆、協力してくれるって言ってくれたから、数ヶ月なんてすぐやよ
(夫)この先もっと愛着が強くなって、そんな時に死んでしまったら、貴子は、今よりもっと落ち込んで、手が付けられなくなりそうで、それが心配。
(私)産まれて顔見てからやったら、皆が悲しいよね。長男も、お父さんお母さんも、今よりもっと悲しい思いするよね。
(夫)そりゃ、悲しいよ。俺だって悲しい。でも、貴子が産みたいって言うなら産んでも良いけど。産みたいの?
(私)ただ、私は自分の子供なのに、なんでちゃんと最後まで見守る事ができないんやろうって思う。患者さんの最後は、沢山看取ってきたし、これからもそんな場面でくわすだろうから。
どうして、自分の子なのに最後まで見守ってあげれなかったや、後悔するんじゃないかと思って
人工中絶の多さに、衝撃を受ける
私は自分と同じ立場で、子供を産んだ人はいないか、探し回っていた。その時見つけたのは、出生前検診でダウン症と分かり中絶を選んだ人は90~98%と言う、驚愕の数字だった。
多数派への同調、一種の集団心理のような現象が起こるからか、この圧倒的な確率が、とても恐ろしく感じた。
こんなにも高い確率で、中絶手術が行われている現状にもショックだったが
日本では、16万人/年の人が人工中絶手術を受けている。
自殺で命を落とす人2万人/年の何倍もの数にあたる。
背景や育てられないとか言う様々な環境もあるんだろうけど、
自分の問題を通り越えて、とても寂しくて悲しい気持ちになった。
こんなにも、沢山の小さな命が
自分のタイミングとは関係なく
終わらされているのだ。
そして、私も自分の子供を天秤にかけている
一人に過ぎない事も思い知った。
それは、悲惨なデーターでは、あるが
実際に、子供を産んで育てると言うのには責任が付いて回るのだから
綺麗ごとだけでは済まされない。
私も、そんな事は重々承知だ。
簡単に終わらせられる問題ではない。
改めて、命について幸せについて、思いを巡らせる事になった。
夫婦で、産むべきだ、産まないべきだと散々話し合ったが、
私達は、18トリソミーと言う病気に付いて、あまりに無知だった。
ネット・友達の知り合いの産婦人科の先生、知ってそうな友達、
とにかく何でも良いから情報を集める事に全力を注ぐ事にした。
口コミで、病気について調べてみた
大学病院で看護師をしている友達、看護長、色んな人に話をしたが、産婦人科の医師以外で、この病気を知っていた人はいなかったし、実際に見たことあると言う人は、一人しか見当たらなかった。
ある産科の先生は、ほとんどが死んでしまうから、9割は産まれて来ないよ、産みたいって思っても、産まれるかは分かんないんじゃないと言う話をされたりした。
唯一、18トリソミーの子を診た事があったのは、東大病院の産婦人科で働き、アメリカのエール大学でも生命倫理の授業を教えたりしていると言う、なんとも権威のある女医さんだった。たまたま夫の友達だったので、電話で話をする事ができた。
*なぜ、こんな人と夫が友達なのかにもビックリしたけど、やっぱり稀少疾患なんだと改めて思う事になった。
私達は、この友人KKさんから、自分達以外にも、同じように思い悩んでいる人がいた事、実際に産む人もいた話、長野にある病院は18トリソミーの子供の治療を積極的におこなったり、患者の会が充実していたり等
話をきいた。*詳しくは別の記事にまとめます。
「産まなくても辛いし、産んでも大変な思いをする。どっちを選んでも大変なのは、大変だと思います」
という言葉が、一番心に残った言葉だった。
再度、受診して先生の話を聞く
*どんなに、ネットの情報を拾っても、話を聞いても、この子自身がどのくらい重い心疾患を持って、どの程度の奇形があるかは分からないと言う事になり、病院に連絡を取って、主治医の先生に診察してもらい説明してもらう場を作ってもらった。
当日は、産婦人科の主治医と、18トリソミーの赤ちゃんを診た事があると言う小児科の先生が来てくれて説明をしてくれた。
この段階で分かっていた奇形や障害は、
手指の拘縮(手をグーに握っている状態)
小脳低形成(小脳が小さい)
心室中隔欠損症(心臓の心室に大きな穴が空いている)
両大血管右室起始症(大動脈と肺動脈の両大血管の半分以上が右室から出ている)だった。
小児科の先生から、肺動脈の脈をくくる手術が必要になってくるかも知れない事、
治療を望むなら、転院しなければいけない事等が説明された。
夫は、やはり赤ちゃんの事だけではなく、母体のリスクが気になるようで
先生に質問していた。
母体を優先して、帝王切開をしない事も出来ること、
帝王切開しても、赤ちゃんはすぐに死んでしまう事がある事など、
前回の説明と重複する点も、詳しく説明してくれ
夫は、少し安心したようだった。
私は、赤ちゃんへの手術、人工呼吸器を使用するのか等を質問した。
病状が重くて何年も退院できず、病院で亡くなる子もいる事
産まれてすぐの赤ちゃんは、出産・陣痛等を通して、とても弱くなっているので、人工呼吸器を使用しなければピンチを乗り越えられな事も多い事
呼吸器を付けてしまうと離脱できない事もある事
多くの場合は、心臓の手術は必要だが、現時点では言及できない事
今、分かっている奇形以外にも、障害や病気潜んでいる可能性がある事
出生前検診では、性別も分かっているが、倫理上の観点から教えられない事
18番目の染色体異常、フルトリソミーとモザイク型と二つがあるが、
この子の場合は、フルトリソミーだと言う事等が、説明された。
この小児科の先生が診ていた18トリソミーの赤ちゃんは、合併症が少なく、比較的元気で、人工呼吸器を使用せずに退院できたとの事だった。普段は、この病院を受診していたが、手術の時だけ他の病院で手術を受けたそうだ。
私達は、ネットやSNS等も、くまなく調べて、どんな子供がいるのか、産まれた子供達は、どんな生活をしているか、時間の許す限り調べまくった。
次回に続く→
長くて、暗い話だったのに最後まで読んで下さりありがとうございます。
続き物ですので、最初から読んで下さる方はこちらから↓