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ドラマ『俺の家の話』【第1話の感想】 ピークを過ぎたあとの生き様の物語は、長瀬智也自身の物語でもある。

長瀬智也がジャニーズ事務所を退所するという。2021年3月の予定なので残りもう3ヶ月弱。報道によると退所後は表舞台からは引退し、裏方になりたいそうだ。
それは、ドラマの中で引退を決心するプロレスラー、観山寿一(長瀬智也)の人生とも重なってみえる。寿一は、引退後は親の跡を継ぎたいという。家業は、能楽だ。
寿一も長瀬も、同い年の42歳として描かれる。
歳をとってからの、一からの転身。

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寿一の「最後の引退試合」では、いいところを後輩に持っていかれてしまい、いまいちな花道となってしまったが、楽屋で帰り支度をしながら「あれはあれで俺らしいよ」と清々しく笑う。
また、(これは現実側の話しに戻るが)ドラマの初回放送に先駆けての制作発表会に出席した主演長瀬は役どころを聞かれ、「ピークの過ぎたレスラー役。ちょっと自分にも重なる部分もあったりします」とコメントして会場を笑わせてみせた。

自分にも重なる部分。つまりそう、このドラマは、“ピークを過ぎたあとの生き様の物語”が描かれようとしている。

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長瀬智也のドラマとともに歩んだ

長瀬智也のドラマ出演はこれで見納めになるかもしれない。
当記事の筆者も実は長瀬智也と同じアラフォー世代なのだが、振り返ってみると人生の節目節目には、同年代である長瀬智也が演じたドラマがあった。

初めて長瀬をドラマで見たのは今も大切な思い出『白線流し』だ。

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自分自身もまだ地方で暮らす高校生の頃で、スピッツの主題歌と、透明感あふれる酒井美紀と長瀬の切ない恋愛に胸を痛めた。若くて繊細で、青臭い長瀬智也。
20歳の頃に一番陶酔したドラマは『池袋ウエストゲートパーク』だったが、この主演も長瀬だった。新時代の幕開けのようなドラマだった。20世紀から21世紀に変わる頃。ワイルドで大雑把だけど心優しい主人公役で、男臭い、長瀬の新境地を見せつけた。
そして20代後半の代表作が『タイガー&ドラゴン』。ヤクザ者が落語の素晴らしさに出会い弟子入りし、どちらも大切にしたいからと職業の両立をしてみせる奮闘記を岡田准一と演じた。ポップカルチャーとサブカルチャー、古典と最先端とが入り混じっていく混沌さが魅力だった。

そんな長瀬智也が実際42歳になり、ついに「子供を育てながら親の介護に向き合う」というドラマをやる時がきたのだから、それはつまり長瀬と共に歳を重ねてきた全員にも回ってくる問題ということだ。

そろそろ向き合わないとね、というテーマ

第1話の1時間のうちにも、いろいろと重めのテーマがぞろぞろ出てくるドラマである。思いつく限りで羅列してみると、
離婚、シングルファーザー、学習障害。低収入、現役引退、40代無職。緊急搬送、危篤、余命宣告。在宅介護、ホームヘルパー、認知症。遺産相続、跡継ぎ問題、芸養子。高齢結婚、結婚詐欺。

個人差はあるものの20代の頃はもっと個人的なことに悩んでいて許されたが、42歳ともなると、悩みが血縁範囲程度、一部門範囲の責任程度には広がる。
特に主題である介護や相続などは、誰しもにいつかは必ずやってくるような題材だが、普段はなるべく見ないように目をそらしているものである。あんまり考えたくないので後ろまわししている。そういうこれまでのテレビドラマが取り上げてこなかった暗くなりがちなテーマに、「そろそろ向き合わないとね」と明るい側面からも描こうとしてくれていて、我々がこれから歩む道にあらかじめ火を灯してくれそうな予感がする。

コロナについてもそうだ。
このドラマは、ごく自然とウィズコロナ時代のドラマとして描いてもいる。ことさら「コロナのせいで」とか言う表現はまったくなく、“そういうもんだ”というように普通にマスクをしている。プロレスも能楽も客席を間引いてもいたので、興行にも影響あるだろうに。このドラマは等身大であり、神格化された“偽物の世界”のドラマではないということだ。

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ホームドラマの行く末

父親が危篤と報を受け、20数年ぶりに実家の敷居をまたぐ寿一。遺産相続や跡継ぎ問題など、昔とは変わってしまった兄弟たちと、もっとどろどろと和解できない過程を描くのかと思いきや、家族の仲については、第1話であらかたあっさり雪解けする。20数年ぶりに再会したとは思えないあっけらかんさで、朝食をともにする家族。このあたりは実に脚本家クドカンらしいところが出ていると思う。人の温もり。家族は何年離れていても家族。
デイケアサービス会社が父親の介護認定チェックに訪れた時「いや結構ですうちは。家族でやるって決めたんで」と取り仕切る寿一。ぶっきらぼうで不器用だけど家族思いが滲み出る仕草。
朝食の準備がそろって「いただきます!!」と誰よりも先に声をあげる寿一に「他はともかくだけど“いただきます”は兄貴が一番だね」と家族みんなが笑う。長男は何年離れていても長男。

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このあと、この家族に何が起こるだろう。
コロナ以降の、社会がディスタンスを求めている世界の中で、“どんなホームドラマの形”を描くだろう。

寿一は、引退試合の最後のマイクパフォーマンスでこう語る。
それはきっと、このドラマに一貫したメッセージになると思う。

「皆さーん!
 親を大切に!
 家族を大切に!
 ブリザーーード!」

(おわり)

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miyamoto maru
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