西粟倉・森の学校/BASE 101%-NISHIAWAKURA-|岡山県英田郡西粟倉村(その3)
養蜂から未来を描く|人と自然の可能性発掘③
<最初の記事はこちら→小さなこの村を目的地に|人と自然の可能性発掘①>
<その次がこちら→大好きな山のある西粟倉でやれること|人と自然の可能性発掘②>
4月某日。 鳥取県と兵庫県との県境に位置する人口約1,400人の小さな村・西粟倉村を訪ね、 BASE 101% -NISHIAWAKURA- の後、ご紹介いただいたのは養蜂チームの皆さん。
私たちを迎えてくれたのは、優しい笑顔の3人組、黄塚 森(こうづか しん)さんと、奥様の黄塚 ひとみ(こうづか ひとみ)さん、そして講神 航さん(こうじん わたる)さんでした。
こちらのお三方をご紹介くださったのも、2つ前の記事(小さなこの村を目的地に|人と自然の可能性発掘① )にてお話をお伺いした西粟倉・森の学校の牧さん。
森さん、ひとみさん、航さんは、「地域の可能性を発掘していく」会社・エーゼロ株式会社の代表も務める牧さんとのつながりをきっかけに西粟倉村へ移住し、牧さんが20年以上も前から夢見ていたこの村での養蜂を実践している方々なのです。
養蜂チームのリーダーである森さんは、西粟倉村へ移住して来られるまでは東京で経営コンサルタント会社の執行役員を務め、大学での講師のお仕事もされていたそう。
自然と共に生きるため、その背中を次の世代の子供たちに見せるため。
その思いで地方移住を決め、大好きだった会社を退職。移住先として考えていたいくつかの候補地を家族で旅をして、自分たちにフィットした土地に移り住もうと考えていた矢先、コロナ禍となり東京から一歩も外に出られなくなってしまったのでした。そんな彼が西粟倉村へ移住するきっかけとなったのが、妻・ひとみさんが書いた一通の手紙だったそう。
その手紙というのが、ひとみさんの古い知り合いだった牧さんへあてた手紙。森さんは当時、趣味で始めたビーガンの焼き菓子屋さんをしようと考えていたため、その旨を記したお手紙を出したところすぐに牧さんから連絡があり、お話をして、あっという間に西粟倉村への移住が決定。
森さんはそれまで一度も牧さんと直接会ったことも、西粟倉村を訪れたことも、そして養蜂の知識なども全くなかったと言うので驚きです。
こうして、西粟倉村へやってきた森さんファミリーに、元動物園職員で動物マニアの航さんも加わり、養蜂チームとしての挑戦がスタートします。
1年目は、そもそも蜂のこと、そしてこの村のことを知るところから。
まずは、蜜源となる花にはどんな種類があって、いつどこに咲いているのか。標高差のある西粟倉村の山中を移動して花暦を作ります。
また巣箱の設置場所は、村役場へ交渉し、場所が決まれば自分たちで草を刈り整地。
最初の年は10箱の巣箱からスタートし、それからは毎日、蜂の様子をチェックしに出向きます。
取材に伺ったのは4月でしたが、この冬は例年より2度ほど気温が低く、春の入りも2週間ほど遅かったそう。巣箱の中で自分たちで暖をとり過ごす蜂たちですが、寒さに耐えられず、冬のうちに全体の3分の2が死んでしまったと言います。
「今思えば、数を増やしたいという僕らの業になっていて、蜂たちの視点で考えられていなかった」と森さん。
無事に生き残ってくれた蜂たちを大切に見守りながら、丁寧に育てておられる様子がとても印象的でした。
森さん、ひとみさん、航さんが育てた蜂たちが西粟倉村の山々から集めてきたハチミツは、「百森蜜」として瓶に詰められます。
3つの瓶に詰められたハチミツは、「トカカの森」「チーチョの森」「ジーワの森」というちょっとユニークな名前。それぞれのハチミツが採れた時期に森の中で聞こえた音をそれぞれ当てはめた名前だそう。
フルーティーで爽やかに感じるものや、深みのある濃い味に感じるもの。ハチミツを口に入れたとき、この山の中から蜂たちが一生懸命に集めてくれたものなんだ、とすぐに実感しました。
季節ごとの山の木々や花、ぶ~んと蜜を集めに飛んでいく蜂の姿、そして森の中で聞こえる音までも思い描くことができました。
また、2022年5月25日(ゴロニャーゴの日)には、新しく、“蜂蜜屋さんが作ったグルメグラノーラ”「ノラノーラ」の販売を開始されたそう。
西粟倉の森で養蜂チームの皆さんが採蜜されたハチミツをはじめ、素材は全てオーガニックや国産のものを使用。ネコとネズミの付いたパッケージは遊び心も満載で、思わず手に取ってしまう可愛さです。ハチミツとあわせて贈りものにしたいですね。
「僕らが本当にやりたいのは森づくり。多様性のある森を作る手段として、ハチミツを作っているんです。」と森さんは教えてくださいました。
「森から生まれ、森を産み出す自然蜂蜜」をテーマにする彼らの蜂蜜は、収益の一部を多様性の豊かな森づくりに投資すると決めておられるそう。現在は「年間売上の5%」と金額を定めて、苗の保護や育成などの森づくりに取り組まれています。儲かる方法をとるのではなく、「この森のためにこの場所でハチミツを作りたい」という想いが伝わります。
蜂たちが効率よく暖をとるために木材加工で生まれる端材を使用したり、ギフトセットの中にもおがくずを緩衝材として使用されていたのも、とても印象的でした。
すべての工程が確かにこの森とつながっている。だからこそ、こうして採れた百森蜜には森の味がぎゅっと詰まっているのですね。
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