閏椿《詩》

命は消え逝く限りあるものだから
砕けた粒 吹きすさべ消えた
る時 夕映え 香る金木犀きんもくせい
黄金こがねが揺れた 駆け抜ける空音そらね
 
忍ばせる空涙 嗚呼 挽歌はらない
最期だけはひとりでいる
 
刹那に煌めきはなった 紙吹雪が乱舞する
白い遠吠え ぎった静寂しじま
 
恥を知らぬ青侍うらやまない
揚げ雲雀ひばりり立つ柄の先
抜かなければ斬れない しゃらくさい既往よぎる
溶ける雪片せっぺん 濡れた横髪頬につく
 
蔓延はびこる侘しさ 嗚呼 あれは鬼の爪
にじんだ血は苦い味がした
 
賽は大きく投げられた あまの原へ弧を描いて
鍔際つばぎわ鳴らせ 一閃踏み込んだ
まどか 円 円な明け六つに 落花した遷化閏椿せんげうるうつばき
 
五蘊ごうんのもとで眠れるなら 嗚呼 挽歌は要らない
最期だけは独りでいる
 
刹那に煌めき放った 紙吹雪が乱舞する
白い遠吠え 殺ぎった静寂の中
深く 深く 残った爪痕に
降りだした氷雨 打たれ沁み込んだ
 
賽は大きく投げられた 天の原へ弧を描いて
鍔際鳴らせ 一閃踏み込んだ
円 円 円な明け六つに 落花した閏椿
返るのはいつかしらに
円 円 円な明け六つに 千代に宿れ遷化閏椿

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