サービサー(債権回収会社)と事業再生
サービサーをよく知ろう
事業再生において、金融機関への返済が難しくなると必ず登場してくるのがサービサーです。
3ヶ月以上の元利金の延滞が1つの目安となります。金融機関から「期限の利益喪失通知」が届き、差押可能な資産がある場合は「訴訟」へ移行しますが、無担保債権(不動産等の保全がない貸付)である場合などは、サービサーに債権譲渡し金融機関は損失を確定させます。(無税償却のため必要なプロセスです)
あなたが元利金の返済が滞っている場合、「債権譲渡通知」により金融機関より債権譲渡を受けましたとサービサーよりの内容証明を受けて初めてその存在を知るかもしれません。(債権譲渡に債務者の了承は原則として必要ありません。最近は債権譲渡前に事前確認を行う債権者も多いですが、必須のプロセスではりません)
サービサーへ債権譲渡されたと絶望する必要はありません。サービサーを活かした事業再生の道もあるのです。このブログはサービサーと事業再生についてのお話しです。
サービサーへの誤解
まずはサービサーへの理解が必要です。サービサーを苦手とする社長は多いです。
苦手な理由を社長に聞くと
「私が取引したのは金融機関でありサービサーではない」
「督促の電話がひっきりなしにくる」
「不適当な時間帯に自宅や携帯に電話がある」
「自宅に訪ねてきて怖い」
「お金がないから債権譲渡されてしまったのであり、返済の話などしようがないじゃないか」
と言った所が多いでしょうか。
中には事実誤認もあります。そもそもサービサーは貸金業法やサービサー法に違反する行為を行いません。貸金業法では、不適当な時間帯に電話や自宅を訪問して督促を行ってはならないとされています。不適当な時間帯とは、午後9時から午前8時までとされており、その時間は原則として電話や訪問はありません。
督促電話を4回以上かける事は私生活の平穏を妨げる恐れがあるとされ、度重なり電話を掛けてくることはありません。基本的に電話が1度で通じて話ができれば、何度も掛けてくることはありません。あなたが電話に出ないので1日に3回電話が掛かってきてしまうのです。
サービサーに借金の話は家族に知らせないようにしてほしいと電話で依頼すれば、仮にサービサーがあなたの自宅に訪ねてきても、あなた以外に取り立てることも無ければ借金の話をする事もありません。多人数で取り囲み取立をするような事は禁止されており、訪ねてこられても1名である事が多いです。
サービサーの興味は「いつ」「いくら」「どのようにして」返済してくれるかです。この要点を明確に答えればダラダラとした会話はしません。お金が無くて明確な回答ができない場合は、「いつ頃なら状況が見えるようになるか」と明確に答え、サービサーも「ではその頃お電話します」か、「それまでは待てないので、来週お電話しますのでその時改めて状況をお知らせ下さい」といった会話で終わります。
サービサーの意義と債権の仕入
サービサーの存在意義とは、不良債権処理です。金融機関がサービサーへ債権を譲渡することにより、金融機関の最終損失が確定します。これにより金融機関は当該債権を不良債権として無税償却ができるメリットがあります。サービサーへの債権譲渡は不良債権処理には欠かせないプロセスなのです。様々な制約があり金融機関は直接の債権放棄ができないためサービサースキームがあるとも言えます。
ではサービサーは金融機関から債権をどのように仕入れるのでしょうか?仕入の方法は大きく3種類あります。
1.バルクセール
金融機関が不良債権を一括してサービサーへ、十把一絡げに売却します。購入したサービサーはどんな債権が入っているかも全くわからない。
2.チェリーピック
個別債権を一本釣りして売却。サクランボをつまむように選ぶ事からこの名前に。事業再生が見込める先や、価値のある不動産を所有したままの債権などがこの売却方法で扱われる。
3.サンプルビット
例えば100件の不良債権を売却するとして数件をピックアップして情報を開示し、それ以外の債権と合算して最高価格をつけたところに債権全てを売却する。
サービサーは上記の方法で金融機関と打ち合わせを行い入札に挑みます、大抵の金融機関は指名競争入札方式で債権の売却を行っており、0社なら10社を出入りのサービサーとして指名し指定を行います。入札金額の下位2社は、次回指名を行わないなど足切りを実施します。サービサーも競わされて大変です。金融機関の指名を失うと仕入ができなくなりますから仕事が成り立ちません。
最盛期に100社を超えるサービサー(銀行系・外資系・不動産系・ノンバンク系・)がありましたが、不良債権処理の時代が終わり、現在75社(※令和3年7月1日現在。廃業等の届出があった会社は除く。)まで減っています。サービサーの生存競争は過酷になっています。金融機関もサービサーへの債権譲渡だけではなく、自身で債権回収を継続して行う事も増えており、サービサーへの債権譲渡は減り、結果としてサービサーが債権を取得する為の、入札金額も高くなっていると言われております。
サービサー法が成立した(1998年10月)際には、債権額面の1%が仕入価格と言われていましたが、現在の詳細は不明ですが、仕入価格の目線として債権額面の3%~10%に上がっていると言われる時代になりました。
仕入価格高騰のため、倒産するサービサーや収支が合わないと撤退するサービサーもあります。仕入れ値が高騰すると、サービサーも回収額を多くしなくてはならないため、事業再生にとって良いことではありません。
サービサーの資金と回収方法
では、サービサーは入札する資金をどのように賄っているのでしょうか?サービサーは入札により仕入を行う際の資金をファンドや金融会社や親会社の出資金により募集することが一般的です。
ファンドの償還期限は7年以下です。そのため、サービサーと債務者の交渉は、どんなに長期となったとして7年以下のことが多いです。債務者と和解することにより最終解決する債権もありますが、多くの債権はサービサーも1~3年で当該債権からの回収に目途をつけ、これ以上回収できないと見込むと、債権回収の見込みがないとして、他のサービサーへバルクセールで転売することが多いです。
このようにサービサーは仕入した債権を最終的に売却し、当該仕入債権の最終損益を確定させ、ファンドの運用状況を明らかにします。そのため、一度サービサーに流れると、サービサー間をたらい回しにされることもありますが、回収が長期化する債権の場合では珍しいことではありません。7年程度の間に、3回債権譲渡通知が来てサービサーが変わり、1回目のサービサーに3回目で戻ったなんて話まである世界です。
ではサービサーによる債権回収はどう進むのでしょうか。
1内容証明・催告書による債権額の確定
2裁判による勝訴判決の取得(確定判決による債務名義)
3債務者との面談
4債務者の法人、連帯保証人の資産状況確認(ストック)
5債務者の法人、連帯保証人の収入状況の確認(フロー)
6一時金による和解可能性
7毎月の弁済による一時的な小康状態
8和解を前提とした分割弁済の提案
9上記の流れが上手くいかない場合は差押
10債権転売による損益確定
といった段取りで流れて参ります。
債権回収会社(サービサー)の業務状況について
ここまで読んで下さってサービサーに債権譲渡されたら、「もうおしまいだ!」と思うでしょうか?「やりようによっては、チャンスになるかもしれない!」と思えたでしょうか。
サービサー業務は法務省による許認可事業で、1億円以上の資本金、取締役に弁護士が必ず参画する事とされているなど、厳格に管理がされています。
法務省では
というレポートを公開しており、毎年12月末迄の業務状況を3月末前に発表しています。こちらを読み込むと新たな可能性に気がつく事ができます。
注目は、強制執行による債権回収の割合は0.69%に過ぎないと言うことです。サービサーは強面の取立屋では無く、経済合理性に基づくクレーバーな存在だと言うことです。金融機関が回収を諦めた債権を大量に取り扱うのがサービサーですので合理的にやらなければ、手間が掛かってコスト倒れになる仕事なのです。敵を知り己を知れば百選危うからずです。
最近は「債権譲渡」ではなく、「債権管理の業務委託」のケースも増えてきています。債権譲渡では「内容証明」が必須であり、関連子会社への債権譲渡は禁止されています。(不良債権の原因となった“飛ばし”を防止する為です)
例えば、三菱UFJ銀行と取引していて、関連子会社であるエム・ユー・フロンティア債権回収株式会社へ「債権譲渡」することはできないため、三菱UFJ銀行と取引していて、エム・ユー・フロンティア債権回収株式会社から連絡があった場合は、「債権管理の業務委託」です。
金融機関からサービサーに債権が流れることが事業の終わりではありません。債権譲渡は、事業再生がスタートする合図でもあります。金融機関に見放されたとあきらめず、チャンスにして事業再生に挑戦しましょう。