コスト削減の手段としての賃料減免
今回は
『コスト削減の手段としての賃料減免』
をインタビュー形式でお話し致します。
――今回はなぜ賃料減免のお話をされようとお考えになったのですか?
昨年からのコロナの状況下で、東京都では出社する人員を3分の1まで減らすよう要請が出ておりますね。コロナの影響で業績が悪化した企業では、テレワーク環境を整えてオフィスの面積を減らす事が急務となっています。
中にはオフィス自体を解約する企業もあるくらいです。テレワークの普及により出社人員が抑えられたため、オフィスの賃料を削減して経営を維持するという手段が注目され始めています。
――賃料減免には、大家さんとの交渉が必要になってきますよね。
そうですね。難しいのは、大家さんと*店子(たなこ)の関係というのは、強者と弱者のような構図になってしまっている場合です。そのうえ、はじめに納得して契約しているものですから、「今さら文句つけるの?」という話になってしまうこともあります。
そのため場合によっては、最悪、退去も辞さないという覚悟を持った上で交渉に臨む必要があります。
※店子…賃貸住宅や貸店舗を借りている人。テナント。
――なかなか簡単に賃料を減免できるわけではないのですね。
簡単ではないものの、もちろん有効な交渉のしかたもあります。
賃貸契約というのは、民法の中で標準約款といって、「こんな契約書で結んでください」というのが基本的には決まっているんですね。
その上で大家さんや不動産屋さんなどによって、個別で標準約款を少し修正して使っていることもあります。
国交相の定めにおける約款にも、例えば「土地または建物の価格の上昇または低下、その他の経済事情の変動によって、賃料が不相当となった場合は、賃料の見直し」というような文言があるんです。
また、近接する建物の賃料と比較して賃料が不相当となった場合にも、改定ができるというような定めがあります。なので今の状況を鑑みた交渉策としては、例えば「今回のコロナの騒動というのは、“経済事情の変動によって賃料が不相当となった場合”になりませんか?」とかですね。
あとは、都心のオフィスなんかは解約が続いているものですから、同じ建物で新規に募集している場合ですね。「同じ4階のフロアにうちの会社は20万円払ってるけど、後に入ってきた会社は15万で契約している」とかですね。そういった点を挙げて交渉できる可能性があるわけなんです。
――賃貸約款の内容を上手く使うわけですね。
まあ当然、賃貸契約というのは双方の合意があって初めて成立するものですから、こちらが一方的に値下げ交渉をしても、大家さんが嫌がるというケースもあるわけですね。
そのため必ず成功するわけではないのですが、退去覚悟なのであれば、一度交渉してみる価値があるのではないかと思います。経済事情がこのように大変苦しい状況ですので、賃料といった固定費の削減は会社のコスト削減に大きな効果をもたらすものになるはずです。
交渉の時期や押さえるべきポイント
――交渉する時期についてはいかがですか?
仮に退去覚悟で交渉に臨むにしても、賃貸契約の退去予告の規定はだいたい6ヶ月前が相場となっています。そのため先々を見通して交渉を始めなくてはいけないということですね。
そのほかの注意点としては、賃貸契約の期間は2年が一般的かと思いますが、2年間の入居を条件に賃料を割引するような契約になっている場合、2年に満たずに6ヶ月前予告を使って解約をしてしまうと、その値下げ分を埋め戻せといった契約が定められているケースもあります。そのため、自社が結んだ契約書をよく読み込むというのが、交渉のスタートになります。
――契約の内容はしっかり把握した上で交渉に望むべきということですね。
大家さんというのは法律に関してある程度知識があったり、自分の物件の利回りに対して高い興味を持っていたりします。多くのケースでは回収した賃料で、土地建物の取得費や建設費の負債を返済していたりもします。大家さん側にも事情があるということですよね。
なので、なんとなく「下げてよ」というお話をしても、「ウチも大変なんだよ」と言われて終わってしまうかもしれません。
交渉においては根拠を具体的に示し、ロジカルに進めることが大事です。例えば赤字で借りている物件が維持できないという話でしたら、いくら下げてもらえば赤字じゃなくなるのかといったことですね。
具体的に示してあげたほうが丁寧ですし、赤字でテナントが続かないことは大家さんもわかっていますので、「じゃあその点だけ認めれば、この先も借り続けてくれるのね」といったお話にもなりやすいです。
――大家さんも決して貸したくないわけではないですもんね。
そうですね。不動産のようなストックビジネスと呼ばれるものは、借り手がいなくなると単純な負債になってしまいます。6ヶ月間空き家の状態になるくらいでしたら、少し賃料を下げてでも6ヶ月借りてもらったほうが安心なんですね。
特に今のような経済情勢の中では、新規の借り手を探すことも難しくなりますので、既存の借り手で賃料を払ってくれている人と関係をつなぐインセンティブというのは確実にあるわけです。なので、「営業利益が出せるように下げてください」とか、会社の資金繰りが辛い場合は「資金繰りが回るようなレベルまで下げてほしい」といった交渉は十分に可能です。
また田舎の方に行くと、本当に次の借り手が現れる見込みすらないような物件もありますので、そういった田舎の物件の場合は思い切って、「大家さんの固定資産税負担相当額まで下げてほしい」といった交渉をしてみるのもありかもしれません。
――そんな思い切った交渉のしかたもあるのですね。
たとえ大家さん側の利益がなかったとしても、古い物件の場合はその取得に要した銀行借入の返済などが終わっている可能性もあります。一方で物件自体は室内の風通しが悪いと痛んでいきますので、入居していてくれればいい、管理してくれればいいというのが本音の場合もあるんです。
そのような最下限を狙うのであれば、「固定資産税負担相当額まで下げてほしい」という話ができるわけです。
――それが通れば、かなり大きなコスト削減になりますね。
ただし当然、大家さんの怒りを買う場合もありますので、退去する覚悟を持ちながら交渉するというのが非常に大事なことかなと。
情報を揃えて、ロジカルに交渉する
――他にも何か交渉に有効なポイントはありますか?
やはり大家さんも具体的な指摘がないと減額できないという場合もありますから、移転覚悟の場合は探してきた他の物件を引き合いに出すとかですね。例えば最寄り駅が同じで、駅からもう少し離れた物件に移れば賃料が安くなる場合、具体的に移転候補を示して「ここと同等の賃料になるなら、引越し代もかからないので契約続行します」というような話も可能です。
または類似の物件ですね。同じ駅徒歩10分でも複数の物件があるので、それらの募集情報を見て、自分たちが高く借りている場合は「似たような物件でここよりも安いんです」といったお話もできます。また同程度の条件・賃料の場合に、例えば温水洗浄器付きのトイレや、エレベーターの有無などといった点で比べることもできますね。
最近ですと、IT企業のために床が上げ底になっている物件がありますよね。OAフロアと言われるもので、LANケーブルを足元に配線したり、電源タップを埋めたりすることができます。
こういった設備があるだけでも、使い勝手が大きく変わってきますから、「こっちの物件はOAフロアなのに同じ賃料だ」とかですね。そのように同条件や類似条件の物件と比較するのは効果的だと思います。いずれにせよ周辺相場に詳しくなっておくと、交渉のしようがあるのかなと思います。
あとは同じ物件を長年借り続けているようなケースですよね。10年単位で長く借りているような場合、大家さん側からしてもその会社に対して思い入れがあったりします。
大事に使ってくれているとか、賃料を一度も遅れずに払ってくれているとか、そういう好感がある場合は、「この会社だったら信用できるから、もう少し下げてもより長くいてほしい」となることがあるでしょう。「かれこれ◯年もお世話になってます」みたいな話とかですね、「今まで計算すると〇〇万円くらいの賃料払ってますね〜」とか(笑)。そんなお話を持って行くと、賃料減免の交渉がしやすくなるかもしれませんね。
――しっかり情報を収集して、ロジカルに、根拠を持って交渉をするのが大事ということですね。
そうですね。人生で何棟もビルを買う人は滅多にいませんから、基本的にどちらの大家さんも愛着と思い入れを持ってそのビルを運営しています。そこに難癖をつけられると腹が立つわけですね。ただ一方で、賃料が周囲の環境に影響されるというのは当たり前の話でありますので、それらを踏まえた交渉条件を整理しておくことがとても大事だと思います。
あとは大家さんの人柄ですよね。情が効くタイプでしたら、手土産一つで喜んでくださる人もいますし、ロジカルな人であれば先述のような条件や会社の業況などについて細かくお話ししなくてはいけません。また不動産を所有している方というのは他にもビジネスをしている場合がありますので、例えば保険業を兼ねている大家さんであれば、「保険に大家さん経由で入るから賃料は下げてほしい」といった形でバーター取引をするようなケースもあります。
――場合と状況に応じた交渉が必要ですね。
ただ、繰り返しにはなりますが、大家さんにとって決して気分の良い話ではありませんので、出ていってくれといわれるケースもあります。
基本的には期間満了前の退去というのは、賃料の延滞でもない限り強いられませんが、2年契約のケースがほとんどですので、2年満了時に延長したいと言っても、「あんたのところ前に賃料減免の交渉してきたから、もう嫌だよ」と言われた場合は退去しなくてはいけなくなります。そういったリスクもよく理解した上で交渉に臨むことが必要かなと思います。
また今ですと、コロナの影響で大家さんが入居者の賃料を減免した場合は、その減免した損害額が税控除されるという制度もあります。
例えば20万の賃料を10万に下げた場合は、10万円分は大家さん側で税控除がされるというもので、大家さんに利益が出ている場合は必ずしも損失になるわけではないので、オーナーにも不利益にならない賃料減免交渉というのは可能性としてあるのかなと思います。
終わりに
――今回の記事をご覧いただいて、賃料減免を検討される経営者の方もいらっしゃると思います。鳥倉再生事務所にご相談することで、アドバイスをいただけるのでしょうか?
もちろんです。私も不動産会社など、さまざまに協力いただけるパートナーを持っていますので、交渉にあたってはロジカルに進められる条件を整理していきます。
ただ交渉ごとというのは、場合によってはトラブルになったり、代理交渉については弁護士が必要だったりもします。会社の社長さんが主導して大家さんと交渉していただくか、自分では上手く話しきれない部分を弁護士に依頼していただくなどし、法律上のリスクを回避した形でうまくセッションしていく格好になると思います。
――記事をお読みいただいている方へお伝えしたいことはございますか?
最後にポイントを申し上げますと、例えば「1年だけ限定して下げてほしい」みたいな話も相手によってはわかりやすいと思います。1年減免した分、契約を1年延長するとかですね。
賃貸契約をすることによって、大家さんは契約年数分の安心をもらっているというような側面もあります。
賃料減免したのにも関わらず、通常通りの年数での契約となれば、大家さん側にはメリットがありません。1年間は半額にする代わりに、2年契約を3年契約にしましょうと。そういった相手にもメリットがある形でまとめることも大事かと思います。
あとは敷金補償金ですね。それを大家さんに納めているケースもあって、逆に退去時に敷引きといって原状回復の費用を差し引いた上で保証金を返却するという、大家さん側も店子に対して返却が必要な負債を抱えているケースがあるんですね。
なので、例えば20万の賃料を10万に減免する代わりに、保証金からその10万を差し引くとなりますと、毎月の家賃収入は減るものの、2年後に返却する債務が減るため、「まあそれだったらいいかな」と思うようなケースもあります。
ただし賃料を延滞しているようなケースの場合は、その保証金にあてて大家さんも保証をとるものですから、延滞がすでに始まっている場合はこの交渉が受け入れられない場合があります。
やり方としてはさまざまなのですが、どれが一番その会社さんに最適なのかということも含めてご提案いたします。賃料の削減というのは、大きな固定費負担の削減につながります。場合によっては人員削減とセットで考えるべき話題かなと思います。
ここまでお読み頂きありがとうございました。賃料交渉等でお困りなことがあれば是非ご相談ください。
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