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呼ばれたので出かけた。夜になお目を忍ぶ金木犀が、なお香る。 徒歩七八分いった先を曲が…
即、肌、ではなくどうか薄絹を一枚、へだててくださいと、願いは聞かれず通じずに、私は息を…
今日あいつに似たやつを見かけた。 あっちもおれに興味があったみたいだ。 そう、男が女に話…
真珠 山田詠美がファッション誌で「いい女」を指南する書き物をしていた頃、私は怠惰な大…
この世が塵の濃淡でできているのなら、塵を知ればこの世を知る。 なんて、マジで思うだけでは…
盆過ぎの、渡る夜風に笹の匂い、綿あめの匂い、綿あめの、は潰れた銀杏の実の匂い、腐臭は甘…
右に銀杏、左に桜並木の小道に入ると、ほどなくして水路に沿う遊歩道に出る。水が水に落ちる音が太く轟く。簡易な橋に上がり鉄柵越しに水路を覗き込めば、洞穴のような暗渠が小道の地下より水を流している。底のコンクリートに繁る藻がゆらゆらと透け、光る、普段の水量はその程度でも、雨水を集めるらしくそれなりの深さと幅を持った水路である。鉄柵がなければ震えるだろう。地下はところどころで大小の口をひらき、それぞれに滝を作って水を放つ。大溝(どぶ)といって構わないここを気に入って、よく歩く。
欧羅巴の物語に見られる意地悪な継母は、実は実母だったという物語は、私には真実【ほんとう…
石田吉蔵になるのも悪くないと海を隔てた恋人から言葉が届いた。日の当たるところは渡れず、…
そこに梅が咲くとは覚えていたが、元旦からだったか。さだかでないが、今年はそうだった。 …
お付き合いを始めて三週間でプロポーズされ、その場ではい、と答えたものの、二年を過ぎても…
抜き差しならない関係とはこれいかにと、変に冷静なのはどうかしているのと矛盾しないと知っ…
プレゼントされたランニングウェアなるものが、ベッドの上に広がっている。前には姿見。 …
いつ、どこで、なにをもって大人になったのだろう。という物語を考える。例えば、靴が濡れるのを気にするようになったときかもしれないと。 子どもの頃、雨を見てとれば傘をさして出かけたが、まだ滴り落ちるまえ、空気や空がはらむ雨の匂いを察しても傘は持たなかった。かえり道、雨の真ただ中に出ることを厭わなかった。むしろ好んだ。小雨はもちろん、大粒のあたたかい雨にも打たれた。 ぐちゅぐちゅと靴を踏み楽しんだ。見知らぬ女性に心配された。女の子なのだからと、注意を受けた。びしょ濡れの女の