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9月10日 ソニーが業界と共同でアニメ制作ツールを作るそうです。未来のアニメ表現に必要なものはなんだろうか?

 ソニーがアニメ会社と共同でアニメーション制作ソフト【AnimeCanvas】(アニメキャンバス)というものを作るそうです。
 アニメーション制作ソフトはすでに存在していて、「CLIP STUDIO PAINT」でもアニメーションを作ることは可能だけど、あれはペイントソフトのオマケ的なやつで、アニメーション制作に特化したものではない。同じくセルシスが発表している「RETAS」というアニメーション制作ツールもあるのだけど、10年以上アップデートされていない。
 今後のアニメーション制作を考えると、業界と共同で新しいアニメーション制作ツールが必要ではないか……という話。
 そこで共同開発するアニメーション会社がA-1 PicturesとCloverWorks。

 これはかなり大事な話で、表現の限界は、制作ソフトの限界に制約される。もしも制作ソフトのほうで「こういう表現もできますよ」という提唱ができれば、アニメも新しい表現に挑戦できる。

 例を示しましょう。

 『逃げ上手の若君』は表現の面で様々な挑戦のあった作品だけど、たとえばこちらのカット。墨で描かれている。

 こちらも『逃げ上手の若君』。このシーンは切り絵っぽく作画したのではなく、本当に切り絵。これがグリグリと動くのだけど、いったいどうやって制作したのかわからなかった。

 その『逃げ上手の若君』を制作したのがCloverWorks。こういう表現にこだわる制作会社が、ソフトそのものの制作に協力する……というのはかなり興味深いし、意義がある。

 他にも様々な表現を見ていきましょう。

 アートアニメ界の大巨匠ユーリー・ノルシュテインの代表作、『霧の中のハリネズミ』。
 信じがたいが、この映像、アナログ撮影された切り絵。技術が凄すぎて、魔法にしか見えない。どうやって制作されたのか、本当にまったくわからない。

 こちらはスタジオポノック作品『屋根裏のラジャー』。フランスのアニメ会社「Les Films Du Poisson Rouge」に技術提供を受けて制作された作品。キャラクターが水彩画のようなタッチで動いている。
 ただ、この作品の技術はあまりうまくいっているようには見えなかった。

 そのLes Films Du Poisson Rougeが制作したアニメ『ジュゼップ 戦場の画家』。ペン画のスケッチのような画風そのままアニメーションする。アニメーターがこういう画風を頑張って描いた……というのもあるが、独自開発した制作ツールが大いに役立っている。

 フランスの傑作アニメ『アーケイン』も素晴らしい作品だった。厚塗りのイラストのようなルックのまま、キャラクターも背景も3次元でグリグリ動き回る。あまりにも表現が凄すぎて、気絶しそうになった。絶対に見るべき傑作アニメ。
 ただ、この制作手法にはたった一つ、欠点があって、コストがめちゃくちゃにかかる。アニメ『アーケイン』は世界的称賛を浴びて、第2期制作決定となったが、スタジオとしては制作する予定がなく、シナリオの用意すらしていなかったから、制作決定の告知から数年たつが音沙汰なし。こだわり過ぎたゆえに、「もう一回つくるの?」という状態になっている。
(ブログ執筆時は何も情報がなかったけれど、いま『アーケイン』シーズン2が公開になっています)

 表現にこだわりまくった作品といえば、『スパイダーマン・スパイダーバース』も外せない。この作品ではシーンごとの表現だけではなく、キャラクターごとに表現が違う……という気が狂うような表現に挑戦していた。こちらも絶対に見るべき傑作アニメ。

 商業アニメといえば、一般的に知られている表現形式は「セルルックアニメ」と「CGアニメ」くらいしかないが、世界には様々なアニメ表現がある。一歩踏み込むと、無限に奥深い世界が存在する。商業アニメの世界でセルルックとCGアニメしかないように見えるのは、制作コスト的にこの2つが安いことと、この表現で作られたキャラクターが一番商品化しやすいから。日本は確かに「世界一のアニメ生産国」だが、似たような表現のアニメばかり作っている国……という見方もできる。
 現状の制作ツールだと、どっちにしてもセルルックアニメとCGアニメに集約されてしまう。この壁を乗り越えるためには、制作ツールそのもののアップデートが必要となる。
 これからも永久に昔ながらのセルルックのキャラクターを作り続ける……という話なら別にいいのだが、それは近い将来飽きられる。「日本の作るアニメはどれも同じに見えるね」……ときっと言われるようになる。確かに今、日本のアニメが世界規模で注目されているけど、たまたまそういうフェーズが来ているだけ。ブームが収束したら忘れられる。
 世界のアニメを見ると、みんな様々な表現に挑戦している(その芽を蒔いたのは、日本だが)。そこから見ると、日本のアニメ業界は、みんな同じ技術で、おなじような表現の作品を作っているようにしか見えないはずだ。世界で挑戦していることを見ると、日本は一歩遅れている。
 それでいいのか? 世界中のアニメーターが新しい表現を模索して研究しまくっているのに、ずーっとセルルックアニメさえ作っていればいい? それ、置いていかれるパターンだぜ? 世界一の座にあぐらをかいていて、気付けば時代遅れになっている……いつものパターンだぞ。

 そういう意味で、業界とメーカーが新しい制作ソフトを作ることには賛成。現状のアニメ表現の限界突破できる制作ソフトを、ぜひ生み出してほしいものです


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