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2018年夏アニメ感想 ハイスコアガール
アニメの話を始める前に、まずこの話から入らねばならない。
2014年、『ハイスコアガール』は映像化が予定していたが、SNKから待ったがかかる。「自社の作品が無許可で使われている」……と。これが大騒動になり、アニメ化の話は立ち消えとなり、それどころか連載中断、単行本回収、電子書籍販売停止、作者・担当者を含む関係者15人が逮捕される事態となった。
現在のWikipediaの記述を見ると、どうもスクエア・エニックス編集部側が各メーカーに許諾を取ることを怠っていた……そうだ。
(私はてっきり、SNKが「あれ、これ通報したらお金取れるんじゃね……え? 逮捕? ……この件には触れないようにしよう」みたいなのを想像していたが、違っていたようだ。本当に編集部の怠慢だったようだ。作者逮捕の後、しばらく経ってSNKがあっさり使用を認めたのも、身の回りで騒動が大きくなりすぎたから……というのは邪推だろうか)
ネットではこの件に関して、作者に対して「自業自得」「自己責任」と非難囂々。作者は編集部がきちんと仕事していると信頼しうたうえで漫画を描いていた。明らかに編集部の落ち度が引き起こした騒動。作者は被害者の1人だ。
こういう事件があった後だから、ひょっとしてアニメ中でSNK作品は使われないんじゃないか、と思ったが、普通に使用されていた。いったいSNKは何がやりたかったのだろうか……。
これもWikipediaに書かれていることだが、『ハイスコアガール』における引用は「適法な引用」の範囲内であり、本当の意味で著作権を侵害したと見なすのか、かなり微妙であるという。実際、『ハイスコアガール』には独自の物語があり、ゲームに夢中の少年がその時代に体験したゲームの1つという物語展開・時代背景の中で取り上げられているのであって、SNKゲームを使った2次創作的なストーリーを展開したわけではない。“主”は矢口ハルオのストーリーであって、SNKゲームの登場は“従”の関係にある。これを果たして著作権の侵害というべきか、難しいところである。警察も作品をよく確認した上で行動してほしかったところだ。
大きな問題を乗り越えて、4年越しの『ハイスコアガール』アニメ化だ。1990年代初頭。時代は『ストリートファイター2』を始まりとする格闘ゲームブームの時代に入ろうとしていた。
勉強もできない、運動もできない、芸術センスもない矢口ハルオは、格闘ゲームブームの最先端に乗ろうとしていた。そのハルオの前に立ちはだかるのは女の子――それもクラスメイトで、クラスの中でも「高嶺の花」とされているお嬢様、大野晶だった。
本来なら接点のなさそうな2人。しかしゲームを通じて、奇妙な関係を築こうとしていた。
矢口ハルオと大野晶。この2人の関係性がいい。大野晶はほとんと喋らない。矢口ハルオと交流といっても、ほとんどゲームだけの関係。大野晶はわかりやすいヒロインではなく、仲良くなっても喋らないし、何を考えているかわからないし、問答無用で殴るし……“わかりやすいヒロイン”ではない。友人なのかどうか怪しいし、もちろん恋愛関係ではない。どういった関係なのか、わかりやすい提示がなにもないまま、しかし何だかわからない不思議な共同意識を持った関係を築いて行く。
この距離感の描き方が良くて、見ているうちになんだかわからない愛おしさすら感じ始めて、不思議と見守っていたくなる。
第2話では、伝説の10円ゲーセンを求めて大野と自転車で2人乗り……これ、恋愛脳で変換すると理想の恋愛シチュエーションだ。だが、恋愛要素は1ミリも感じさせない。ハルオも自転車の後ろに「クラスのマドンナ」を載せているのに、その希少さをまったく理解していない。この小学生特有のバカさ。シチュエーションの良さもいいし、小学生特有のバカさも含めてどんどん愛おしくなる。次第に「俺の物語だ」とか勝手に思い始めるくらいに物語に入り込めるような気がした。
第3話で早くも小学生篇が終わる。大野晶との突然の別れ。空港でのシーンで、大野は初めて感情らしきものを見せるが、小学生のハルオは何もできず、晶の感情も理解しきれず、ただ見ているだけ。
ああ、なんてバカな奴なんだ……と思いながら、やはり愛おしくなる。
第4話、中学生篇に入り、新キャラクターである日高小春が登場する。親が酒屋を営んでおり、その店先に置いたゲーム筐体、これに釣られてホイホイとやって来る矢口ハルオ。そこでハルオと小春との交流が始まる。
この展開がなかなかいい。小春ははじめはハルオに対する好奇心……クラスのちょっと悪いやつに対する憧れ、自身が感じている閉塞感を解放してくれる対象……そんな感じでハルオを見ていたのだと思う。ハルオと付き合い始めたことによって小春は実際に気持ちを解放させていくようになり、それが早いうちに恋愛感情に変わっていく。
この恋愛感情に変わるまでの下りがちょっと早い……と感じた。この作品にしてはモノローグがやけに多い。大野晶がわかりにくすぎるヒロインに対して、日高小春はわかりやすすぎるヒロインになっている。さすがに極端に振れすぎている印象はある。
で、相変わらずバカなハルオは、クリスマスの夜にゲーメストを小春にプレゼントをする。普通の恋愛物だったらもうここでアウト、終了といったところなのだが……これを喜ぶ小春も結構な変わり者だ。
第6話、大野晶が戻ってくる。相変わらずの無口で、問答無用の暴力。とにかくも大野はハルオに対して怒っている。
それはさておき、第7話。修学旅行中に置き去りにされたハルオと小春。脳天気なハルオは、むしろ幸いと琵琶湖沿いを歩いて京都まで向かい、道々でゲーセン巡りをするのだった。
これまた恋愛脳で見ると青春シチュエーションのハイライトのような場面だが、ハルオはそのことにまったく気付かず、夢中でゲーセン巡り。日常から離れた場所で、女の子と2人きりで歩く……普通ならその状況に胸躍らせるところなのだが、バカなハルオはゲーセン巡りのほうに胸を躍らせる。
バカだなぁ……とは思うが、元来ゲーマーというのはこういうもの。ゲームのことしか頭にない。硬派とかそういうのではなく、ただのバカ。こういうところでなんだか自分の過去を見ているような気がして、愛おしくなってくる。
第8話、修学旅行を抜け出して、大阪の『スパ2X』大会に参加する(これ、カプコンが大阪だからかな?)。この大会でハルオは大野晶に勝つのだが……。
帰り道、ハルオは大野に対する思いをぶつける。会いたかった……しかしやっぱりそこに恋愛感情は全くなく。仲間としてライバルとして。言葉は交わさないが、ゲームを通じてもっともわかり合えるような気がする相手として。
ああ、バカだなぁ……と思うが、しかしどうにも他人のような気がしなくて、次第に愛おしくなってくる作品だ。
やはり取り上げられるゲーム。そのどれもが私自身、子供時代に通ったゲームだ。あまりにも懐かしい。自分の青春時代を追体験しているような感覚になる。ハルオのバカさも、どこかしら“身に覚えのある”感じのバカさ。ハルオに自分自身の青春時代を重ねてしまう。
ゲーム映像もいい。コレクターが協力しているらしい話は聞いたが……ゲーム画面が綺麗にキャプションされている。どうやって撮影したのだろう? アニメの背景に色んなゲームのポスターが貼り付けられてあるが、どれも知っているポスターで、懐かしくなる。
ちょっとした言葉の問題……「神ゲー」なんて言葉、あの時代にあったかな? という気はしたけど、概ね、あの時代にあったものを丁寧に取り上げて、映像にしている。
『ハイスコアガール』を見ていると、私たちの時代を少し綺麗にして物語にしてくれたような、そんな気がする。ちょっと青春に色を付けて手直ししてくれたような。綺麗、といっても主人公のハルオはやっぱりバカなんだが。あのバカさも、我が身を見ているようなそんな感じにさせてくれる。ただただ懐かしい気持ちになれる。
やっぱり映像。……なんでCGにしてしまったんだろう。ゲーム映像が出てくるのだから、キャラクターはむしろ手書きで柔らかさを強調した方が良かったんじゃないだろうか。デジタルだと大野晶の可愛らしさも充分に伝わってこない。
……まあ予算の問題だったんだろうな……。『ハイスコアガール』は最初に書いたような問題を乗り切ったとはいえ、予算が充分に出るとは思えない。(ああいった事件が起きると、イメージだけで見る層は「見ない!」と決めてしまうものなんだ)
せめてセーラー服の布質感はちゃんとしてほしかった(セーラー服の話になるとうるさい)。肩の縫い目の位置や、セーラー襟の裏地とか、間違えている箇所が多すぎる。スカーフネクタイの結び目、どうなってるんだよ。
デジタル映像は気になるところはあるものの、1990年代からの格闘ゲームの隆盛を当時の少年の成長と重ね合わせて描かれた青春ストーリー。ゲームが加速度的に盛り上がり、文化的にも技術的にもとんでもない勢いで発展していく、まさにデジタル文化の青春期を描いた作品でもある。
影が落ちやすいあの時代のものを、青春物語にしてくれた……それが何よりも嬉しい。若い人はかつてのゲーム文化をこのストーリーで知ってほしい。『ハイスコアガール』はあの時代のあの文化が青春物語になることを証明した作品ではないだろうか。
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