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8月12日 制作に12億かけたというヤバそうなゲームがヤバそう。

 この頃、やたらと目に付く広告に
「制作に12億円かけたアプリゲームがPCに登場!」
 というものがあるけど……。
 これはヤバいやつだろうな。
 だって、まず1ミリも遊んでみたいとは思えない。その以前に、面白そうとは思えない。さらにその前に、どんなゲームなのか皆目わからない

 とりあえず広告をクリックしてみたのだけど、出てくるのは広告ページが一枚だけ。
 タイトルの『マジカミ』と何人かのキャラクターと、「魔法少女もの」というジャンルだけが示されているだけ。あとはDMMへのリンクが下に示されている。
 出てくる情報はこれだけ。わかるのは『マジカミ』というタイトルだけ。いったいどういうゲームなのかわからない。ゲームの広告として最も“肝心なもの”と考えられるものが情報にない。どういうゲームなのかわからないから面白そうとか、やってみよう、とか思えないし、むしろ警戒心が来てその先へクリックするのをためらわせてしまう(何かしらの詐欺広告なんじゃないかと思って)。

 まずいって「制作に12億円かけた」という宣伝方法がまずい。はっきりいって、ユーザー側からするとそういう情報はどーでもいい。大きな予算が掛けたことが面白いコンテンツの基本条件だとは誰も思っていない。そういうアピールは作り手側の自己満足にしかならない。

 映画監督の押井守が常々言い続けていることは「小さな予算で大きなお仕事」。でかい金を使ってでかい映画を作るなんてことは誰でもできることなんで、いかに小さな予算で映画を大きく見せかけるか、面白く、かっこよく見せるか、が大事。きちんと作られた映画だったら低予算でも面白い映画になる。大予算映画だから面白い……なんて法則はどこの世界にも存在しない。
 ハリウッドの大巨匠となると映画1本に100億円とかよくあるけど、あれの注目ポイントは実は「100億もかけた!」ことよりも、「このスケールをよくも100億で納めたな」ということのほうが大きかったりする。

 例えば制作費がやたら大きい監督の1人、リドリー・スコットの映画制作の秘訣は「節約術」。リドリー・スコット映画好きなら常識的に知っていることの1つだが、彼の映画ではセットは1つしか作られない。実際の映画を見ると様々なシーンが次々と出てきて、ものすごく予算を掛けていそう、と思えてしまうが、セットは1つだけ。壁や家具の位置やカメラ位置を変えて、別のシーンに見せているだけ。そういう前提でセットを設計している。よくよく見てみると窓の位置や階段の位置が一緒だったりして、実は同じセットで撮影されていることに気付くはずだ。
 リドリー・スコット映画は毎回100億円の大スケールで制作されるが、実は節約しまくって100億円とかあのあたりの予算に抑えている。実際よりも大きく見せる工夫が一杯に凝らされている。というかおそらく最初から「予算はここまで」、という枠が決められているはずだから、そこから映画内容をどれくらいにするかがシミュレーションされているはず。

 不慣れな映画監督が下手に大きな映画を作ろうとしたら無制限に予算が膨れ上がって大変なことになるはずだ。
 そういう実例はあってマイケル・チミノ監督の『天国の門』がそれ。この映画は本当にお金を湯水のごとく注いじゃった映画で、ワンシーンで数億円とかどんどんお金を使い込んでしまった。きちんとしたプランが組み上がっていなかったら制作中に予算が膨らんで、映画尺も膨らんで、最終的には災害級の赤字映画になってしまった。
 と、まあ予算は大きければ良いというわけでも凄いわけでもない。当然のこととして予算と納期の枠内に抑えてかつ面白い映画が一番いいに決まっている。映画監督の巨匠と呼ばれ、絶えず仕事が来る人は、みんなここをきちんと守っている。

 ヤバそうなゲームと思った『マジカミ』は広告を見てもわかるのは予算12億円かけました、ということだけ。予算がいくらかとかよりも、ユーザー側からしたら「どんなゲームか」のほうがよほど大事。その実際の画面を見て、「あ、この画面作りは凄いな、作り込み凄いな、そうか12億円もかけたのか、なるほど」という順序に印象を持っていかせたほうがいい。画面を見せず、掛けた予算の話を前面に持ってくる広告を見ると、「あ、自信ないのかな」と感じてしまう。
 というか、おそらくゲーム内容やゲーム画面に自信がないから、あるいはそこに見せるべき個性や注目ポイントがないから「12億円掛けました」というところだけをクローズアップしているんじゃないかな。
 そう思われても仕方ないような宣伝をやってしまっている。だからヤバい。

 もしそうでないのだったら、宣伝担当の人が致命的にセンスがない、って話になる。
 ゲームをわかってない人、あるいは自分が何を作っているかわかってない人が広告ページ作ったらこうなった……という感じ。

 それで「これはヤバそうだな」と感じた理由は、12億円掛けたけれどもコケるな、これ、と感じたから。大予算かけたのにね。宣伝センスがあまりにもなさすぎて、本当は面白いかも知れないのに、面白そうにはまったく見えない。広告ページが胡散くさすぎてむしろ逆に警戒させてしまう。
 でもこれはどうにもならないだろうな。理由はこれまでに書いたとおり。誰があんな広告でこのゲームを始めるんだい。
 まあ作った人たちには「残念でしたね」の一言だけ添えておきましょう。


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