2018年夏アニメ感想 深夜!天才バカボン
第1話。昔のアナログ時代ふうの画面で登場する『バカボン』が、デジタル時代にやってきて、極端に高い頭身を得て……うーん、既視感。全く同じ展開を『おそ松さん』の第1話で見た。
アフレコオーディションをやったり、時事ネタや内輪ネタなんかが取り入れられ、何か面白いことをやろう、と試みているのはわかるが、ことごとく滑っている。つまらない。時々有名人が出てくるが……似たようなネタは『おそ松さん』にもあって、照英ご本人が登場して、「本人が出てくるなんて」みたいな驚きがあったがネタとしては滑っている。というか、私は最初に見た時、照英本人が出ていることに気付かなかった(ネタがつまらなくて、そこに興味を持てなかった)。『深夜!天才バカボン』はあの滑りネタを全編にわたってやってしまった……という感じの悪夢のような内容。ちょっとした下らないネタに有名な俳優を連れてくるなんて……みたいな笑いを狙っているのだろうけど、そもそもネタがつまらないから笑いにならない。テレビ東京プロデューサーなんかが出てきて本人に似ているのだというがそんなの知らんし、知っていたとしてもつまらないものはつまらない。
おそらくは『ポプテピピック』を意識しているのだろうな……。『おそ松さん』第2期では安全運転に振りすぎたから、『バカボン』ではもっと思い切って、「これから問題を起こしそうな芸能人は……」とかやりはじめるが、結局何も言わない。危なそうな発言に見えて、全てにおいて安全運転。
というか、そもそも芸能人ネタにまったく興味がない。どうでもいい。私はアニメを見ているんだ。虚構を求めてアニメを見ているのに、どうでもいいゴシップネタなんか持ってこられても、反応に困る。ただただ不愉快。あと、世の全ての人がゴシップネタに興味があると思うな。
そういうネットのどこかでやっていそうなことのコピーをやるんではなく、『バカボン』らしい面白さを描いてほしかった。
唯一、面白かったのは第3話。バカボンが「弟がほしい」と言い始めて、パパが「子供はどうやって作るんだ!?」と街の人に聞いて回る話……これが面白かった。
何が面白かったか、というと『バカボン』の世界観の外の話をしなかったから。ちゃんと『バカボン』の世界観の範囲で、面白い話を描いた。時事ネタもゴシップネタもネットミームもいらない。ネタの強さで勝負してほしかった。『バカボン』をきっちり描いてほしかった。第3話だけがちゃんと『バカボン』をやっていた。
これは……「アニメの発想」ではなくて、「テレビ業界人の発想」なんだろうな(監督の細川徹は普段テレビの脚本・演出をやっている)。企画の作り方も脚本の作り方も。キャラクターや物語で見せるんじゃなくて、内輪ネタやゴシップネタで笑いを取ろうと……最近のテレビがなぜつまらないのか、その理由が『深夜!天才バカボン』を見てわかったような気がする。作品そのもので勝負していないからだ。
笑いはネタの強さが勝負。物語はプロットの強さ。キャラもの・萌えアニメはキャラの強さが勝負。まわりの枝葉は正直どうでもよく、芯の部分でいかに強さを発揮できるか……『バカボン』はこの戦いに正面から向き合っていない。有名人を連れてくるんじゃなく、笑いで勝負しろ。おそらくライバル視していただろうが、『ポプテピピック』には足下にも及ばない。まず戦うべきものと戦っていないから『ポプテピピック』には絶対に勝てない。もちろん『おそ松さん』にも絶対に勝てない。
いまテレビがつまらない。その理由を、規制が多いからだ、予算が出ないからだ、といろいろ言われているが、そうではない。センスがないからだ。
そういった内輪ネタやゴシップでなにか面白ことをやったようなつもりになっている……“つもり”で終わっていて、作品としては何もやっていない。笑いに繋がっていない。テレビ的な露悪さをアニメの世界に移してきただけ。テレビ人が思い込んでいる「面白い」をアニメでシミュレーションしたような作品。『バカボン』というコンテンツも駄目にしている。テレビ的なダメさをただひたすら見せられたような作品だった。
テレビ的な露悪さをアニメに移してくる……は他作品でやっても構わないが、『バカボン』ではやってほしくなかった。『バカボン』を穢しただけの悪夢のような作品だった。
ただ、声優演技はなかなか良くて、目ン玉繋がりの本官。目ン玉繋がりの本官といえば千葉繁。千葉繁のイメージがあまりにも強烈で、最初かなり違和感があったが、次第に森川智之ならではの魅力が見えてきた。
うなぎ犬の櫻井孝宏もかわいくていい。駄作『バカボン』の中にあって唯一の癒やし。
よくよく考えればまわりはしっかりしていて、スタッフの健闘むなしく……という作品だった。