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湯けむり温泉殺人事件 まとめ

 とあるカフェで二人の男が向き合っている。柔和な表情を浮かべた紳士然とした男と、髪が後退した半裸の男だ。 「旅行、どこに行きましょうか」 「一緒に風呂に入らないか?」 「いいですね。たしかhalpikaさんが熱海に出張してました。そこにしましょう」 「ホテルはどこにするんだ」 「ここなんかどうでしょう」  服を着た男がスマホの画面を見せる。旅館からの眺めが写されている。桜と、川と、鳥居だ。 「俺は寝れるならどこでもいいぜ」 「では、ここにしましょう」  二人は立ち上がり、連れ

    • 湯けむり温泉殺人事件 エピローグ

       あの日より強く、あの日ほど不快ではない日差しが降りそそぐ。確かに地面を踏みながら歩く。手から顔から全身から汗がじんわりと滲み出し、たがいを呑み込んで成長した汗はあごを、手をつたってひとつの水玉となり静かにゆっくりアスファルトに落ちる。蝉も暑さにうんざりしているのか、とても小さな声で鳴くか、あるいは全く鳴かず、あたりは静かだ。  紙袋には華やかで落ち着いている花束とほんの少しの線香と、ゆっきさんが好きだった和菓子が入っている。  黒い服の集団とすれ違いながら門をくぐる。彼らは

      • 湯けむり温泉殺人事件 後編8

         その後監視カメラや目撃証言を集めると、青い服の少年が旅館へ向かい温泉の様子が見えるところでずっと待機していたことが証明された。また、黒い服の少年と青い服の少年が公衆トイレの前で待ち合わせ、トイレへ入ったことも分かった。出てくるときはやはり、腕時計の付け方が反対になっていた。残念なことにアリバイ偽装に使われた少年は見つけられなかったが、これらの情報を警察がうまく使い、つまり追い詰めるようにじわじわと小出しにして、取り調べをおこなうと、彼は自白した。  動機について、彼は、 「

        • 湯けむり温泉殺人事件 後編7

           翌朝。机の上は昨日と同じ状態、ある時間で止められた監視カメラの映像と、これから伝える内容が打ち込まれた翻訳サイト。起き上がり、水を飲む。朝食をとりながら翻訳された音声を録音する。待ち合わせ場所を確認し、時計をみる。必要なものを集める。部屋をでて、鹿撃ち帽を頭にのせる。 「どうしたんですか、急に呼び出して。仕事があるので時間をあまり長くはとれませんよ」 「犯人は少年、ふぇんたいです」 「確かに怪しいですが、彼にはアリバイがあり――」 「彼はアリバイを偽装している」 「全部、

        • 固定された記事

        湯けむり温泉殺人事件 まとめ

          湯けむり温泉殺人事件 後編6

           西の空が色づき始めた。雲はなく、遠くどこまでも澄み渡っている。そのなかを黒い影となった鳥が二三羽いっしょになって飛んでいる。青と橙の間を目指してひたすらに飛んでいる。このまま日は沈み、月と星々が空を支配し、空は白むだろう。日本に滞在できる日数には限りがあり、悠長にしていられない。できれば解決、それが出来なくとも何か解決の切っ掛けとなる情報、考え方を残したい。しかし今解決に近づく奇特な情報や考え方を持っていない。普通の、王道のものは警察がより早くより正確に掴むだろう。探偵は突

          湯けむり温泉殺人事件 後編6

          湯けむり温泉殺人事件 後編5

           遊園地からの帰り道。veiは思考を巡らせていた。  そうね。まずは情報を整理しましょう。この事件の核である被害者は9:30ごろ熱海につきその後ranranと気の向くまま歩く。昼食をとり、12時過ぎにホテルにチェックイン。自室にてローションを塗ったあとranranの部屋へ移り雑談をしたり、将棋をしたり、動画を見たりして過ごす。ローションを落とし19時ごろ風呂に入る。風呂上がりに飲み物を一つ買い、自室へ戻る。その後はおそらくローションを塗り直し自室から出ることなく就寝する。こん

          湯けむり温泉殺人事件 後編5

          湯けむり温泉殺人事件 後編4

           チリリリリリ、チリリリリリ、チリリリリリ、チリリリリリ。目覚まし時計がけなげに時を告げる。カーテンの隙間からひらりひらりと柔らかな朝日がこぼれ、その白い頬をぬらす。外に人の熱気はなく、冷ややかな、優しさを持った空気が街を支配している。まぶたがかすかに動き、また穏やかな眠りにつく。チリリリリリ、チリリリリリ、チリリリリリ、チリリリリリ。目覚まし時計が再び時を告げる。タオルケットから右手が這い出し空をつかむ、ベットの縁をつかむ、目覚まし時計をつかむ。役目を終えた目覚まし時計は2

          湯けむり温泉殺人事件 後編4

          湯けむり温泉殺人事件 後編3

           なんとか押しきって情報を得ることができたわ。アリバイがある客はhalpika, 豚のプリントされた人、エナドリ少年だったわ。halpikaにアリバイがあるのはよかった。彼は永遠に私の馬でなければならないんだから、豚箱に入るなんて困るわ。halpikaが犯人でないと証明するために、アリバイを早く調べましょ。  halpikaが出張してまで交渉している会社はここね。エレベーターが壊れているなんて、とんだ災難。おかげさまで階段を何段ものぼることになったわ。とりあえず、この、イン

          湯けむり温泉殺人事件 後編3

          湯けむり温泉殺人事件 後編2

           警察官たちは散らばって聞き込みしている。一度に全員を見るのは難しそうね。とりあえず、右から見ていきましょう。  一番右で話を聞かれているのは……halpika! このクソファッキンホットなサマーに外で馬の被り物をしているわ。WTF! なんなのかしら。halpikaは暑さを感じないのかな? それとも日本人はみんな暑さに強いのかしら。それにしても、あの被り物をしているんじゃあ、表情はわからないわね。誰が馬の表情を読めるのかしら。競馬狂いなら読めるのかもしれないわね。  次の人を

          湯けむり温泉殺人事件 後編2

          湯けむり温泉殺人事件 後編1

          「話をまとめるぞ。被害者と行動を共にしていた男、ranranの話では被害者は12時すぎに旅館に入り、13時ごろローションを一度塗った。19時に風呂に入りその後ローションを塗り直したらしい。鑑識はローションのサリンの濃度から考えると全身に塗ってから4時間もすれば死ぬと言っていた。あの男の話が本当ならば、13時から19時の間ずっとアリバイがある者は犯人の可能が少なくなるだろう。アリバイがある者はいたか」  数人の警察官たちが確認しあう。その中の一名が前へ出て口をひらく。 「従業員

          湯けむり温泉殺人事件 後編1

          湯けむり温泉殺人事件 中編4

          「それで……今こんなことを聞くのは酷だと思いますが、昨日何をされていたのか教えていただけないでしょうか」  ああ、やはり私も疑われるのか。疑われてないとしても、重要参考人として色々ときかれるのだろう。そうしなければ事件は解決しないだろうし、仕方のないことではあるのだろうけど。 「昨日は、まず朝は新幹線に乗っていました。熱海に着いたあとは、二人でぶらぶらと散歩をして、気になった所を巡っていました。それから――」  昨日と今日何をしていたかを大まかに話したあと、詳細な情報を求めら

          湯けむり温泉殺人事件 中編4

          湯けむり温泉殺人事件 中編3

           毒……なんでそんなものが、ゆっきさんのローションに?これは他殺なのか、自殺なのか……。ゆっきさんはなぜ死んだんだ。 「詳しく話せ」 「被害者の持ち物を調べる前に、危険性があるかどうかチェックしたところ、サリンが検出されました」 「サリンだと? それは本当か。おい、みんな早く部屋から出ろ、ドアと窓をしめろ、この場から離れるんだ、今すぐにだ」  警部が緊迫した声をあげる。 「警部、鑑識の話によるとおそらく部屋の中のはもう無害化されているそうです」 「それでもだ。念には念を入れろ

          湯けむり温泉殺人事件 中編3

          湯けむり温泉殺人事件23日まで休載します

          湯けむり温泉殺人事件23日まで休載します

          湯けむり温泉殺人事件 中編2

           十数分後、先程の警察官たちがやってきた。警部は露骨に口角が下がっている。 「まったく……今度は何が起きたんですか。また麻雀事件ですか」 「いえ。こちらを見ていただければわかるかと」  警察官が数人部屋へ入る。彼らはベットの横に並び、警部は顔を、nyancatはタオルケットを剥がし胴体を観察した。 「ただ眠っているように見えますが……まさか、死んでいるのですか」 「はい、おそらく。発見してからずっと胸も肺も動いていません」 「なるほど。ところで、彼は綺麗好きでしたか」  警部

          湯けむり温泉殺人事件 中編2

          湯けむり温泉殺人事件 中編1

          「うう……頭が……痛い」  部屋の中央で置物のようになっていた彼が頭をあげる。死んでいなかったようだ。生きていて本当によかった。旅行先で知り合いの死に出会ったら、しばらく立ち直れないだろう。  辺りを見渡すが、ゆっきさんの姿はない。彼が外へ出たなら悲鳴が起こるはずだが、そのような声は聞こえない。  電話をかけてみる。彼が電話にでることはない。あのような場面に出くわしたからだろうか。嫌な予感がする。きっと、気にしすぎだろう。  不安は消えない。  その場を離れ、部屋へ向かう。太

          湯けむり温泉殺人事件 中編1

          湯けむり温泉殺人事件 前編4

           その場にいた全員がそれに注目する。 「あ、あの今……声がしませんでしたか」  作務衣姿の女性が問いかけるが、誰も答えない。  馬頭が体を起こす。 「液体?なんだ……これ」  警部が部屋へ入り、彼の目の前に立つ。 「君、体の調子はどうだ。怪我はないか」 「いえ、なんとも。それよりも……この状況を説明してもらえますか」 「そうだな。まず、私たちは警察官だ。そこのお嬢ちゃんは探偵。君の部屋から不審な物音がして、確かめに来た管理人が、血を流して倒れているのを発見し、通報したんだ。昨

          湯けむり温泉殺人事件 前編4