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寺田和代【Book Review】ミロスラフ・ペンコフ『西欧の東』藤井光訳
「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」
第3回 ブルガリア篇【Book Review】〔2〕
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◆ ミロスラフ・ペンコフ『西欧の東』藤井光訳、
白水社、2018年10月
1982年ブルガリアの地方都市に生まれ、19歳で渡米し、今はアメリカの大学で教鞭をとりながら故郷ブルガリアを舞台にした小説を英語で書いている著者の、これがデビュー作である8つの短篇集。
老人ホームで暮らす語り手が、戦争に翻弄された一族の過去と現在を行き来しながら、秘密にしてきた出来事に決着をつけるべくある決断を……。
その高揚をラスト1行で鮮やかに転調させた冒頭の『マケドニア』で、著者のただならぬ才能にいきなり驚嘆した。
かと思えば、1980年代の共産党時代に、ブルガリア由来の名への改名を強制されたトルコ系のバグパイプ職人一家の運命を描いた『夜の地平線』の痛切な読後感。
表題作『西欧の東』は、その共産党時代の半ばから終わり、つまり’70年代から2000年くらいの間にセルビア国境近くで育った若者と、川向こうのセルビア女性との間にほのかにあった恋の、あまりに苦い顛末……。
戦争や被抑圧の歴史を重ねた国の過去が8つの物語すべてに影を落とすためか、短篇なのに一大長編を読み終えたような手応えと余韻が続く。
とはいえ著者の筆致に押しつけがましさは少しもなく、むしろ軽やか。著者にとっては第2の言語(英語)で距離をとることで生まれた平易さが物語の魅力にも。
その意を汲んだ訳文の切れ味もさすがだ。(了)
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