とらぶた自習室 (15) 勉強メモ 野口良平『幕末的思考』第2部「内戦」第2章
勉強メモ 野口良平『幕末的思考』みすず書房
第2部「内戦」
第2章「勝者の思考と敗者の思考」
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(筆)栗林佐知
2023年4月25日のメモ
尊皇攘夷!を掲げて、幕府方をたたきのめした新政府。
嘘っぱちと理不尽な犠牲者の屍の上に、どんな良い国を作るのか。
■ 顕密二分法
新政府は「尊皇攘夷」のはずだから、これから攘夷をはじめるはずだと、人々は思っている。 政権を取るために、幕府方を「賊」呼ばわりしたことも、人々は見ている。
「賊」呼ばわりされ、殺され故郷を追われ路頭に迷う人もたくさんいた。
新政府の中には、この事態を見て
「人々に納得のいく説明をしなくてはいかん!」 と考え提言する人もいた。(岩倉具視、加藤弘蔵(弘之))
だが新政府(大久保利通・西郷隆盛・木戸孝允・岩倉具視(あれ?))スタッフがやったのは、 近代国家を整え、富国強兵して急いで欧米諸国に肩を並べ、不平等条約を改正させようということ。
そのために、またしても方便をつかった。
顕密二分法(久野収先生が名付けたそうだ)と呼べる方便だ。
どういうものかというと、
【顕】=一般大衆には、天皇を信仰をさせ(「日本国民」を意識させた、ってことかな?)て、情報も知識も与えず、
【密】=指導者層だけでこっそりいろんなことを取り決めてしまう。
たとえば……最初は、「新政府になったら年貢が半減だぞ!」と相楽総三たちに宣伝させて民衆に協力させ、実はそんなことできないので、あとから相楽総三を「偽官軍」呼ばわりして殺してしまったのも、このやり方みたいだ(ちがうのかなこれは?)。
■ 岩倉具視
永井路子『岩倉具視 言葉の皮を剥きながら』では、戊辰戦争のあと、岩倉は大して活躍してない、としているが……。
『幕末的思考』では、岩倉具視は、 「天下の人々は『これから新政府が攘夷をするはずだ』と思ってる。ちゃんと説明せねば」と具申していたという(「会計外交等ノ條々意見」)。
また、岩倉は、訪ねてきた薩摩の中村半次郎(桐野利秋)に 「で、いつ攘夷をはじめるのじゃ?」と聞いたそうだ。 そしたら中村が 「あなたはそんなこと言わない方がいい」と答えたので、 中村と一緒に来ていた有馬純雄(近藤勇の処刑に反対したんですって)が驚いて、あとで西郷どんにきいたら、西郷は「ん~。あれは方便といふものぢゃ」と、答えたとか。
(「西郷わるい!」と私は思ったけど、著者は西郷どんにやさしい。その評価のわけは、次の章でじわじわわかる)
そういう岩倉なのに、なぜか次の場面では、大久保や木戸と一緒に【密】を共有する新政府スタッフになっている。どこら辺で変わったのだろう。
■敗者の思想
この章でいちばんゆさぶられたのは、この2章-3の、敗者の側に立った人々のこと。
・雲井竜雄:米沢藩出身で、戦争被害を抑えるべく奔走した人
新政府に仕えるがすぐにやめ、新政府の理不尽にあって困窮する人々を助けようと「帰順部局点検所」をつくったが、これが新政府に睨まれ、死刑になってしまう。
・会津藩士、柴五朗:その人生の最後に語り残した記録が、石光真人編『ある明治人の記録』 (えっ! 読んだことあるけど、そんな本だとぜんぜん知らずに、あさってのことばっかりノートしてた;)
・柴五朗の兄柴四朗=東海散士(え、そうだったの!?)
会津藩士が日本を脱出し、アイルランドやスペインの独立戦争に身を投じ、女性闘士と交流したりする『佳人之奇遇』。面白そう~。
ハイチ革命を、東海散士は熱く語っているそうだ。
……ハイチが現在どうなっちゃってるかと思うと、涙も凍りつく。
しかし、どうしてこんなことになっちゃってるんだろう。
・福沢諭吉と山川健二郎(白虎隊から東大総長へ)も、体制に従う範囲内で、「敗者」の名誉を訴えたそうだ。
・西村茂樹(明六社の同人、倫理学者) 福沢たちよりももっと根本的に、 「“朝敵”とか“賊”という捉え方がおかしい。賊と言ったら無実の人を殺して泥棒する人のことだ」といった。 えらい~!
(わー宮本百合子のお祖父さんだ!!←2024/12/07付記)
・山本覚馬:鳥羽伏見で捉えられ、失明しても獄中から新政府方に建白書を出した、会津藩士。新政府方と幕府方と、どちらも「義」でもって闘った。義と義がぶつかるのはなぜか、論考した(のかな?……ここ未消化です)
メモ(13)にも出てきましたね。
また、-1で紹介された人々、
嘘をつきっぱなしの新政府に「協力しない」態度を表明した、 玉松操(錦の旗の考案者)や、福井の殿様、松平春嶽のことも、もっと知りたい。
雲井龍雄のことをもっと知りたいなあ。
さらにいろんな人のことを知りたくなった。
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