「切り絵で世界旅」(はじめに)コロナ禍の日々、私は世界を旅していた
●きっかけは、コロナ禍での過ごし方だった
2019年12月、中国・武漢市から始まった新型コロナウィルスは、瞬く間に感染拡大し、世界は不安と恐怖に支配された。予定していた中国福建省の「土楼ツアー」も当然のように中止になり、世界各都市のロックダウンでどこにも出かけられない不自由極まりない大自粛時代がやってきた。
2020年1月にふと考えた。はて、私はこのコロナ時代をどう過ごせばよいのだろうか。コピーライターとしては、取材なしのアンケート資料をもとにコピー作成の仕事をこなし、大学の非常勤講師としては、Zoomを使って授業をやっていたが、それでも時間は大いに余る。退屈死にするかもしれない。そこで思いついたのが、これまでに海外旅行をした時の写真をもとに切り絵作品をつくることだった。
●切り絵の対象を、地域から一挙に世界へ広げる
実は本業のコピーライター業の傍ら、2011年から切り絵教室に通って切り絵を覚え、2019年9月、神戸元町高架通り(モトコー)をテーマにした切り絵の画文集『犬の目、人の眼差し』を発刊したばかりだった。これは特定の狭いエリアを紹介したものだが、いずれにしても終わったことだ。
では、今度は逆に視野を一気に世界へと広げて紹介するのも面白いではないか。ましてや、いまは世界のどこにも行くことができない。そこで、かつて旅したことのある国、地域、街、そこで出会った人々との記憶を掘り起こしながら切り絵を制作し、それぞれにコピーをつければ、自分自身が自由に楽しく遊べるのではないか。
こうして、手元にある1978年の「インド・ネパール旅行」を手始めに旅行先の写真、資料、ノートなどをチェックしながら、切り絵の対象候補となる写真を絞り込んでいった。
条件は次の2つ。まず今も深く印象に残り、他の人に語りたいほどの魅力的な内容を備えていること。もう一つは、切り絵に相応しい素材であること、構図、表情などで人を惹きつける要素があることだ。そこから写真を選び出し、2年間で100点を目標にして制作に取り掛かった。
●蘇る旅の記憶をモノクロームに定着
制作中、机の上に置かれた白紙と黒紙にカッターナイフで格闘する日々が続いた。その間、心はいつも世界を飛び回っていた。ポンペイの遺跡の灰の下から当時のリアルな生活風景が現出したように、旅行時の写真や資料をきっかけに忘れていた記憶の地層を掘り起こし、再びトレドの天幕の下を歩いたり、マラッカの食堂に入ったり、水上人形劇、バロンダンス、コブラ使いなどを見たときなどの感動が蘇るのだった。なんと甘美で贅沢な時間であったことか。
蘇る旅の記憶をモノクロームで定着し続け、2年3カ月をかけて目標の100点以上の作品を制作することができた。
●noteで作品を順次発表予定
次の問題は、この切り絵をどのような形で発表するかであった。
『犬の目、人の眼差し』のときは、個展を開催し、本も刊行した。今回も同じ方法を取ることも可能だが、教え子から教えてもらったnoteを使えば、より多くの人の目に触れてもらえるかもしれない。ものは試しである。ダメもとでやってみようと決めた。今後、このnoteで、作品を順次発表していくつもりである。乞う、ご期待!
この「切り絵で世界旅」シリーズは、先に触れたように、何よりも自分自身の楽しみのために制作したものだが、作品を通して読者が旅への意欲を掻き立ててもらえれば、望外の喜びである。
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