芋屋
寝ていると、芋屋の声がした。
それが本当に芋屋だと分かると、
ゆっくり階段を下りた。車は止まっていた。
あわてていると、大丈夫ですかと声がした。
お金貸しましょうか、と女性が笑った。
彼女はよく、芋を買いに来ると言った。
「どこにでも買いに行きます。芋が好きだから」
芋を二つ買うと、彼女は小さくお辞儀をしていった。
また今度、と彼女に手を振った。
アパートへの道すがら振り向くと、
まだ芋屋の車が止まっていた。
部屋に帰り眠った。夢を見た。
自分は子どもで、海辺を踊り歩いている。
そのそばでお姉さんが笑っている。
その懐かしさが、いつのことだったのかは分からないが、
この時間がずっと続けばいいと思った。
目を覚ますと、涙が少し出ていた。
あとになり、あの人がとても優しかったことと、
ありがとうを伝えられなかったことが思い出された。
芋を割ると、ふわりと炭の匂いがした。