見出し画像

うそつき

人は生きていくためにいろんな「うそ」をつく。そこにはいい「うそ」もあれば悪い「うそ」もある。「うそ」のない人生が素晴らしいものであるとは限らない。前回のnoteで「最初で最後の投稿になるかもしれない」と書いておきながら、もう次の記事を書いている僕の「うそ」は前者か後者か、果たして——

吉澤嘉代子の発表会

4thアルバム「女優姉妹」の初回限定盤にはLIVE DVDが2枚組で付いている。2018年6月16・17日に東京国際フォーラムホールCで催された「吉澤嘉代子の発表会」。1枚目には初日の「子供編」、2枚目には2日目の「大人編」のライブ映像がそれぞれ収録してある。

ほぼ完全収録らしいこのライブのセットリストはこうだ。

DISC1「子供編」2018年6月16日
未成年の主張
恋愛倶楽部
美少女
チョベリグ
らりるれりん
ブルーベリーシガレット
ひゅー
ユキカ
うそつき
なかよしグルーヴ
逃飛行少女
えらばれし子供たちの密話
キルキルキルミ
ひょうひょう
ラブラブ
movie
泣き虫ジュゴン

ひゅるリメンバー
DISC2「大人編」 2018年6月17日
綺麗
ねえ中学生
ケケケ
月曜日戦争
手品
化粧落とし
がらんどう
ジャイアンみたい
ユートピア
シーラカンス通り
ちょっとちょうだい
麻婆
地獄タクシー
人魚
一角獣
ストッキング
残ってる
ミューズ
東京絶景
23歳 feat. ウィンディ

どうも「子供編」の方は初期の楽曲がメインのようで、知っている曲があまりなかったこともあり、僕は「大人編」から観始めたのだった。

吉澤嘉代子を知ったきっかけ

そもそも僕は彼女の曲を聴くようになって日が浅い。しっかり意識して聴いたのは2ndシングル「残ってる」からである。この曲は2017年10月4日リリースだが、僕が初めて聴いたのは2018年の夏だった。

実を言うと2017年4月期のドラマ「架空OL日記」が好きで観ていた頃に、その主題歌だった1stシングル「月曜日戦争」を既に聴いていたのだが、正直その時の印象は「やくしまるえつこのフォロワーが出てきたかな」くらいのもので、名前すら記憶していなかった。(のちに「残ってる」と同一人物と知り一驚を喫する事になる)

そんな経緯もあり「大人編」から観始めたのだが…

凄いのは「子供編」の方だった

確かに僕が好きになった吉澤嘉代子は「大人編」の方にしっかりいたのだが、何気なく再生した「子供編」には新たな彼女の魅力を知るもう1つの姿があった。70〜80年代アイドルソングの波状攻撃である。怒涛のキラキラポップチューンである。字面にするとおぞましいダサさであるが、そこには確かな実力がある。筒美京平や大瀧詠一、宇崎竜童といったお歴々の顔が浮かぶ。なんでこんな曲が書けてしまうのか。おまけにセーラー服風の衣装である。以前からぶりっ子風の歌い方が気にはなっていたが、「子供編」ではもう振り切っている。もうブリブリである。

そして「うそつき」へ

中でも強く印象に残ったのは「うそつき」と言う曲であった。泣ける部類の曲である。ライブでは曲間の寸劇での「好きになった人が、たまたま女の子だっただけだよ」と言うセリフの後にこの曲が始まる。つまり女性同士の恋愛を歌った曲である。歌詞の中に直接的な言葉は出てこないが、そう読み取れる表現はいくつかある。

しかし僕が惹かれた理由はそう言うところではない。恋愛対象の性別はこの際どうでもいいのである。この歌詞の軸には物語の主人公が抱える「うそ」へのジレンマがある。「うそ」は往往にして、抑えきれない自分の心の「ほんとう」と葛藤する。彼女にとってその「うそ」は自我を崩壊しかねないほどの大きな「うそ」だったのである。その張り裂けそうな想いが曲の構成と相俟ってこれほど泣ける名曲に仕上がったのだと思う。

この曲は短調から始まり、サビで長調へと転調する。これ自体はよく使われる展開である。さだまさしとかのアレである。この展開は悲しい叙情的な歌にはもう反則と言っていいほど効果を発揮する。序盤で悲哀に満ちたメロディに乗せて「うそ」と向き合う彼女のモノローグが続いたあとに続くサビの歌詞がこうだ。

ごめんずっと好きだったって 伝えてみたいだけ
邪魔になるなら心ごと壊してしまいたかった 思い出もぜんぶね
それでもいいから あなたが

これである。これを底抜けに明るいメロディで歌い上げるのである。泣くでしょう。そもそもなんだ、悲しい気持ちに明るいメロディって。アレか、スイカに塩か。逆に引き立つやつか。

おまけに1番・2番のサビは「あなたが」で終わる。もやっとしたまま終わる。それでも言えないのである。それが最後の最後、この絞り出した一言でこの曲は締め括られる。

それでもいいから あなたが欲しい

これ。あなたが「好き」でも「愛してる」でもない。「あなたが欲しい」のである。本能むき出しである。高橋真梨子である。

こういう吉澤嘉代子自身の飾り気のない風体からは想像できないような歌や詞に触れるたびにドキッとするのだが、それも含めて彼女の仕掛けた「うそ」なのかも知れないと考えると、もっと騙されてみたいなと思う変態思考の僕なのであった。

そしてこれをもって僕のnoteも最後の投稿とする。(うそ)

(了)


いいなと思ったら応援しよう!