2022年の5冊
西小山の東京浴場の片隅の一棚本屋にTOP5 BOOKSとして出店して1年半。昨年末で撤退しましたが、一棚本屋は読書と古本屋巡りの楽しさを思い出す良いきっかけになりました。
「昔日の客」関口良雄
大森にあった山王書房という古本屋の主人の随筆集。タイトルは、若い頃に本代をまけてもらったことのある野呂邦暢氏が、作家になった後に作品集の見返しに「昔日の客より感謝をもって」と書いて主人に送ったというエピソードより。建て替え前の三省堂神保町本店で購入しました。
「愛についてのデッサン」野呂邦暢
「昔日の客」を読んで野呂邦暢に興味を持ち、本屋に行くとちょうどちくま文庫の棚に並んでいた一冊です。「愛についてのデッサン」は古本屋を営む佐古啓介が古本にまつわる依頼を解決していく短編集。依頼人の人生と旅情が絡まって、物語にぐいぐいと引き込まれました。
「星を撒いた街」上林暁
山王書房の店主が作者の目録を編集するほど心酔した作家の小説集。「花の精」は多摩川に月見草を摘みに行った帰りにガソリンカーの窓の外一杯に月見草が咲いていたという情景が目に浮かぶ美しい短編です。少し前にセンター試験の現代文として出題されたらしく、久しぶりにマークシートに取り組んでみました。
「春鮒日記」英美子
詩人の母とその息子が戦時中に牛久に疎開して慣れない田舎暮らしをしていた頃の様子を綴った随筆。漁師のごとく鮒を売って家計を助けていた息子は後に世界的なギタリストになるというあらすじにどういうこと?と頭が付いていきませんでした。この本は、夏葉社の「私の文学渉猟」で紹介されていたもののなかなか見つからず、神保町の動植物や釣りなどを専門とする鳥海書店で見つけました。
「ある古書肆の思い出1」反町茂雄
昭和2年に東大を卒業した作者。出版業を志し腰掛けのつもりで神保町の一誠堂書店の住み込み店員になるも、古本、特に古典籍の魅力に取り憑かれて一生の仕事とすることになる、その修行時代の思い出が綴られています。当時の古本市のセリの様子や旧華族の蔵書の買取など、途方もなく奥深い古書の世界を垣間見ることが出来ます。
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