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心の浄化週間〜New era〜(最終章)


朝のニュースで梅雨明けが宣言された。
いつもの時間に、息子はお弁当を持って学童へ出かけた。
夏休みとはいえ、普段と変わらない時間にでかけ、一日を学童で過ごす。
今日の午前中は友達とみんなで体育館でバスケをするらしい。午後は図書館での調べ学習の時間がある。楽しそうに話し元気に出かけて行った。
学童は学校の空き教室を使っており、夏休みは広い学校の施設を、限られたエリアではあるが、学童の子達だけで朝から夕方まで独占できる。

息子を追うように身支度をすませて玄関をでた。
朝とは思えないほどにぎんぎんに照りつける日差しを日傘で避けながら駅まで向かう。
今日は上司との面談だ。
ここ数日、これからのことを考えていた。
上司とはおそらく次の異動先の話しになるだろう。
選択肢は3つ。
   ①他のチームへ移る。
   ②他の部署へ移る。
   ③出向元へ復帰。
私は親会社の社員で、希望して今の系列会社の部署へ来たのだ。
①は、このままこの執務室で働くことになる。
まだまだやりたいことはあるが、抜けたチームの皆がやりにくいだろうと思い選択しないことにした。
②は、興味のある仕事が2〜3ある。
この希望を伝えれば、どこかに異動が可能かもしれない。

占い師の言葉が甦る。
「考え方を変えなさい。」

私はずっと、自分の経験を活かしてなにかもっといいものが創れるのではないか、改善への力になれるのではないか、と考えていたのだが、それが間違いだったのではないか。
どこか上から目線の態度が見え隠れしていたのかもしれない。私の言動がチームの人間関係が悪くなっていった原因の一端なのかもしれない。

そんなことを考えていたとき、過去の出来事を思いだした。
もう10年くらい前のことだ。後輩が1カ月位ずっと咳が止まらず体調を崩していた。
コロナが流行る前のことなので、そのくらいなら出社するのが当たり前だった。
私は喘息持ちだ。咳に効く漢方をいつも常備していたので「この漢方、効くから飲んでみなよ。」と数日分あげたことがある。
それから1週間ぐらいして、まだ咳をしている後輩に
「あれ?まだ咳してるね。あげた漢方飲んでる?」
と聞いたら、「病院の薬と飲み合わせが悪いかもしれないので、、、。」と言われたことがある。
飲んでくれてなかったのだ。
そのときはがっかりしたのだが、いまならおせっかいだったと逆に申し訳なく思う。
私には合う漢方だったとしても、他の人にはあわないかもしれないのだ。
仕事も同じだな、と思った。

①②だと、また上手くいかないかもしれない。
③の出向元へ復帰(親会社へ帰る)を選択しよう、そう決めていた。
出向元に期間満了前に戻ることは敗戦に等しい。
意気揚々と出かけ下を向いて帰還することになるが、このまま私が残ったら例えチームを移っても、皆がやりにくいだろうと考えて出した結論だ。

会議室に入り、上司の前に座った。
上司から「最近、どう?」と聞かれ、不安感は落ちついていること、仕事がしたい、出向元への復帰がいいのではと考えていることを吐露した。
上司は私の話しを黙ってきいていた。
この上司も私と同じ会社から出向してきている。
「いまの(部署の)課題感は、君もわかっている通りだ。やるべきことがたくさんあり、猫の手も借りたい。君も必要な人材だ。戦略的に宣伝をする手法の構築を一緒に考えてほしい。後に続く人を育てよう。」
と言ってくれた。
人間関係が上手くいかず適応障害となり、迷惑をかけてチームの仕事に穴をあけたのに、このままここに残り今までの経験を活かして他のチームの仕事につくこと、つまり①を提案してくれたのだ。


上司のなかでは初めから答えがあったようだ。
私の経験、適性を考えた提案だった。
感謝の気持ちしかなかった。
私は、二つ返事で引き受けた。


帰りの電車の中、強烈な西陽が目を刺した。
「考え方を変えなさい。」
「後に続く人を育てよう。」
この言葉を噛み締め、自分がすべきこと、出来ることを今一度よく考えた。

「おかえりー。」と息子が玄関に飛び出てきた。
「ただいま。」と応え、パンプスを脱いだ。

                   (終)

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