ゴミの城〜004〜故人の名誉
父親が亡くなり数週間が経つが、部屋を埋め尽くすゴミの多さに泣きたくなる。一週間に一度か二度しか行けず、それでもゴミを袋に詰めていくのだが、段々と親父に腹が立ってくる。
「馬鹿なんじゃないのか?」
「……なんだよ、これ」
父親は大工でもなかったのに、金槌が三十本くらいあったし、カンナも二十本以上あった。カセットテープも二百本以上、MDも三百本以上。フィルムカメラなんか四十台くらいあるんじゃないのか?
ここ何十年と何かを捨てた事がないのでは? それどころかゴミを拾って来てたのか?
仕事の休みに実家へと出かけて、黙々とゴミを選別して袋に詰めていく。母親は僕の顔を見ると笑うだけ、兄は普通に過ごしている。ゴミの袋とストレスが溜まっていく。
こんなもん一年以上かかる。
ゴミ袋の置き場所もない。家に居るのだから兄が片付ければ良いのだが、全くやろうともしない。帰り際に「ありがとう」もない。ゴミ捨ても進まず、流石に兄にキレてしまった。「せめてゴミを捨ててくれ」と。
タンスや戸棚を片付けている時は、まだ良かった。父親の若い頃の写真があったり、古い本や懐かしいアイテムがあったりと。それが今は正にゴミ、呆れる程のゴミくずだらけ。ネズミのふんと埃にまみれたゴミ屋敷。クーラーのないこの家では、額に流れる汗が目に入る度に目がしみる。
友人に頼んで週イチでゴミの回収までしている。回収しては家のゴミ捨て場に捨てる。友人にも家のゴミ捨て場に捨ててもらっている。
それでもゴミ袋は減らない。休みが来れば実家へと出かけ、ゴミを袋に詰めていく。積まれた段ボールや発泡スチロールを開ける度に心が折れていく。出てくるのはガラクタだらけ。
「……今度はホッチキスの芯が何ケースもある」
「馬鹿なんじゃないのか、……なんでピンセットがこんなにあるんだよ?」
「頭がおかしいんじゃないのか? 全く、死ねばよいのに……」とさえ思ってくる。まぁ、父親はもう死んでいるのだけれども。
父親が何十年とかけて集めてきた物を僕が一瞬で判断をして、ゴミ袋に入れていく。
馬鹿みたい。
タンスの引き出しには、使い古し変色した肌着の横に、袋に入ったまま未開封の肌着が何袋もあった。
実家を片付けていて、僕の家でも要らない物をかなり処分した。所詮なにかを取っておいてもしょうがない。僕の写真や思い出の品など、僕が死んだら誰が見るというのだろう?
要は、使うか使わないかだ。
実家で段ボールを開ける度に、父親との良い想い出が薄れていく。全く困ったものだ。泣けてくる。
ゴミの城、失われた主人の呪いは恐ろしい。
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