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ツモが良かった話

大学を卒業する年、私は何の進路も決まらず、公務員試験を受けるという口実で、ただアルバイトを探していた。
しかも、当時私には、学生の身でありながらギャンブルで作った多額の借金があった。

正直、私はそれまで勉強くらいしか取り柄のない人間で、それも努力できない性格からとても中途半端だった。
飛びぬけた成績を収めるわけでもなく、かといって何もしなくてもそこそこできるという一番ろくでもないタイプの人間だ。

そうして、大学4年間もそのように過ごして、結局何も成せないまま、就職もできずフラフラとアルバイトを探す日々だった。
アルバイトを探すと言っても、私は面接がすこぶる苦手で、卒業直前の時期に数十社のお祈りを受けた。

就職活動どころか、バイト探しまで失敗していたのである。
とにかく様々なジャンルに応募することでなんとか働き口を見つけようと考えていたが、ことごとく落とされる。

ある日、何の気なしに求人応募した雀荘で面接をすることになった。
扉を開けると、ホストのようなビジュアルの店長が薄暗い店内で細い煙草を吸っていた。
怖すぎる。
帰ろうかと思ったが、私は働く場所をなんとなくの雰囲気でえり好みできるほどの身分ではない。
何せ就職も決まらず卒業して、何十というバイトに落ちている身である。
出された紙に名前と住所を記入すると、セットされている自動卓で麻雀牌を1枚ツモるように言われた。

その時何を引いてきたのかは覚えていないが、とにかく私のツモを見て、年齢不詳のホスト店長は「来週から来れるかな?」と言ったのだった。

かくして、私は新卒で雀荘のバイトをすることになる。
これが完全にあたりだった。
シフトが完全に自由で、しかもお客とマージャンをしていない時間は基本的に何をしていても良い。

私はコンビニ、飲食店、塾…etc様々なバイト先で「遅刻が多い」「シフトが少ない」「仕事が遅すぎる」と多様な欠点を見せつけクビになってきた。
しかしこの雀荘は良い。
私の仕事は飲み物を運ぶか、洗い物をするか、麻雀をするか、タバコを吸うかのいずれかだ。


店長は遅刻にも非常に寛容で、ある時「パチンコが大当たり中は連絡して遅刻してね」と声をかけられた。
もちろんパチンコを打っていて遅刻したことはないが、このイケメン店長にはよくあることだ。
また、私は常に5分前後遅刻して店に到着していたが、店長は私を評して「本当に真面目で助かるよ」といつも言っていた。
彼からすると、5分の遅刻は誤差どころか早いくらいだったらしい。

そんな激ゆる雀荘で働き始めて数か月後、新しい学生バイトが入ってくることになった。
どうやら毎週土曜の午前中に出勤するらしい。
私は基本的に毎日夜の時間に出勤していたので、ちょうど交代の引継ぎで毎週1分ほど話すことになった。

ある時、夜のバイトの人数が足りなくなったため、普段土曜の朝勤務している新しいバイトの学生が急遽夜の時間帯にやってきた。


店内のスタッフは私とその学生の二人だけだった。
引継ぎでしか会話したことがないため、まったく人となりがわからないが、客の来ない時間は必然的に話をすることになる。
一応挨拶をしようと彼に対峙すると、
「原チャで来たんすか?」と言われた。
私はその日、ショッキングピンクのスタジャンを着ていた。

何も話すことが無いので、私も「…クスリ、やってる?」と聞いた。
やっていたら何だというのだろう。
というか、今から二人きりで働く人間がジャンキーだったらヤバすぎる。
なぜこのタイミングでそんなことを確認したのかわからないが、とにかく私は聞いてみたのだ。

それが、18歳の夫と23歳の私の出会いだった。



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とくらじゅん
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