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カエル(創作3)

 暑い夜だった。家の中にいても、35度はあったと思う。Tは、上半身は裸、下半身はハーフパンツといういつもの格好で部屋でテレビを見ていた。
外からは田んぼのカエルの鳴き声がひっきりなしにきこえてくる。クーラーもないから窓は開けっ放しで扇風機をつけているのだった。だから余計カエルがうるさいのだ。

 「グワッグワッグワッグワッ」

 一体いつまで鳴くんだろう…。忌々しいな…。お昼に一匹踏み潰してやったが、わんさかのさばってやがる…。Tは窓の外を一瞥して、悪態をついた。

「お前らのせいでもっと暑くなるだろうがよ!黙れ!また踏み潰すぞ!」

 すると、一瞬カエルが鳴くのを止めた。Tはおやと思ったが、またカエルは鳴きだした。

 「グワッグワッグワッグワッ!」

 一群が鳴き終えたら、また別の一群が鳴くのだった。しかもなんだかその鳴き声は次第に大きくなっているように感じられた。
 
 「グワッグワッグワッグワッ!!」
 
 確かに大きくなっていく鳴き声が、窓の辺りから聞こえているようにTは思い、窓に近づいてみたが、なにも変わったところはない。
 
 「カエルがここまで来るなんてな…。」

 Tは、部屋の椅子に座りなおしテレビをまた見始めた。すると、
 
 「グワッ!グワッ!グワッ!グワッ!」

 カエルの鳴き声が、今度は窓からではなく、後ろの壁辺りから聞こえてくる。これには、Tもビクッとして、後ろを振り向いた。何もいない。いつものヤニで薄黄色になった壁なのだった。
 
 「なんだよ、びびらせんなよ…。」と、Tが後ろを見てつぶやくと同時に、

 「ゲゴゴッ!!」

 前方、至近距離からの大きな奇声で、Tは腰を抜かして、椅子からずり落ちた。見るとテレビの前に扇風機くらいの大きさのカエルがジロリとこちらを睨んでいる。

 「お前は…。」Tは驚いて言葉が続かない。

 その大ガエルは、口をあんぐりあけて、長い舌をTに向けたかと思うと、あっという間にTの首に舌を巻き付け、グイと口に引き寄せた。
 「グエッ」と部屋に鈍い音が響いたが、これは果たしてTの最期のひと声だったか、それとも大ガエルのゲップだったか。
 
 その後、大ガエルは部屋から田んぼの方へのっしと向かっていき姿を消した…。
 
 「グワッグワッグワッグワッ」

 田んぼからはまた何事もなかったかのように、カエルたちの賑やかな鳴き声がする。

 今夜の田んぼも大合唱なのだった。

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