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秋分の日(創作2)

 秋の気配が漂ってきた。涼しげで、空気も澄んでいるような感じだ。
僕はデートのためにいつもは寝ている時間に無理やり起きた。寝ぼけながらもスマホを手に取りラインをチェックする。

 彼女からメッセージがやっぱり来ていた。
<おはよ。今日8時集合だからね。よろしくね♪>

 時間を確認すると、7時だった。
ちょっと慌てつつも、近場で集合だからと、のそのそ動き出す。
コーヒーを入れて、まずは一服。こうしないとシャキッとしないのだった。

 今日は秋分の日、祝日だ。せっかくの三連休ということもあって、彼女が昨日「美術館の企画展に行きたい」と言ったので、一緒に行こうとなった。それと、喫茶店でモーニングも食べたいと話していたので、こんなに朝早くに起きることになった。

 あれこれと着ていく服などを準備しているうちにあっという間に7時半になる。
(あまりおしゃれは出来ないな……。)
そう思って、いつもの服装にカバンだけはお洒落なトートバッグを用意して出発した。
 今日も楽しく過ごせますようにと祈りながら。

 駅前の喫茶店に向かうと、すでに彼女は待っていた。タッタッタと急いで駆け寄る。

「おはようー。」
「おはよ。」
「お、その服いいね。どこで買ったの?」
「駅前の<ラトス>ってお店。模様が気に入っちゃって。」
「へぇ。確かに可愛い模様だね。」
「うん、ありがとう♪」

 彼女はすっかり上機嫌だ。
これで今日のデートも問題なさそうだなと一安心するも、間髪入れず彼女が「先週も似たような格好だったよね。」やばいバレてる。
ちょっと焦って反応にまごついていると、「でもバッグは格好いいじゃん!」と続けた。ちょっとホッとする。「よし、お店入ろっかー。」僕はさらりと話を流した。

 喫茶店でモーニングを食べながら、昨晩の話の続きをする。僕らの話題は大体が物語やアーティストの作品の話が多い。

「昨日テレビで美術館の企画展の話題しててね、魅力ありそうだったよー。」
「確か15年ぶりの絵も飾ってるんだよね。実は15年前にも見たことがあってね。」
「え!昨日そんなこと言ってなかったじゃん。」
「うん、なんかうろ覚えだったから、あれから調べたら見たことあったなってなったよ。」
「えー、いいなぁ!うちら15年前って言ったらハタチそこそこじゃない?青春思い出しちゃうんじゃない(笑)」

・・・青春。かなり苦い青春だったんだけどな。あの絵を今日見ると、またそのことがブワッと思い出されてくるんじゃないだろうか。
やや不安になっていると、彼女がそれを察知したのか、
「冗談だって!大丈夫だよ。それに過去は何度でも塗り変えることができるってどっかで読んだことあるし!」と笑った。

 そう、たまにこの子はしれっとこういう哲学者めいたことをいう。そこが魅力的だったりするわけなんだけど。

「ごちそうさまでしたー!」
二人で店員さんにお礼を言って、店を出た。


 ここから地下鉄を乗り継いで15分もすれば、美術館に到着する。
エネルギー補充もしたし、気持ちも高まってきた。

 電車では黙って座っていた。結構狭い車内なこともあって十数人で既に混み合っている。
最近はコロナ下ということもありマスクと沈黙が基本になっている。
僕たちはいつまでこの生活様式を続けるのだろうか。
でも元々大人しいので結構気楽だったりするわけなんだけど。
多くの人がスマホを操作する中、彼女は文庫本を広げている。タイトルは『それでも、読書をやめないワケ』だって。気になる……。
でも電車ではなるべく話さない方がいいから最寄り駅に着いたら聞いてみよう。
そう思って周りをこっそり観察していると、彼女とは違う方向から、トントンと肩を叩かれた。

 ん?と思って振り向くと、なんと高校時代の国語教師だった。

「おー!久しぶりじゃないか!元気しとったか?」
「うわぁ!お久しぶりです。色々大変ですが、まぁまぁ元気ですよ!」
「そうか、ならよかった。今から古本屋に行こうと思ってな。国語教師が古本屋はベタベタだな。ワハハ!」

 さっきまでの沈黙もこういうシーンでは結構許容がされるようになったとはいえ、僕は周囲が気になって少し緊張してしまった。

「相変わらず読書は続いておられるんですね。」
「そうだよ。今日はアレだ、『それでも、読書をやめないワケ』ってのを探しにいこうと思ってな。知ってい・・・。」

 そのとき、彼女が反対側からグイッと僕と先生の間に割り込んできて、「この本ですよね!」
と、さっきまで読んでいた文庫本を見せた。

 途端に先生の目の色が変わった。見た目は50代くらいなのに、表情は中学生くらいにまで若返っているように見える。
「おお!そうだよその本だよ!いやあ持ってる人は初めて見たな。嬉しいなぁ。あれ、君は?」

 僕は二人にそれぞれを紹介したものの、二人は挨拶もそこそこに当該本について楽しそうに語りあっていた。
おかげで僕はその本のことを彼女から聞き出すことなく知ることが出来たのだけど。
それから数分して、僕たちは最寄り駅に着いたので降りることにして、先生と別れた。


「フンフンフーン、フフフンフーン♪」
先生との会話がよほど楽しかったのか、改札口を出ても、彼女は嬉しそうに鼻歌をうたっている。つられてこっちも嬉しくなる。

 彼女は例の本を取り出しながら、
「今日みたいな出会いがあるから私たちは読書をやめないワケなのよ~!」とノリノリだ。

 僕も結構な本好きだと思っていたけど、世の中には知らない本がまだまだあるんだなと感心した。

「うふふ、先生は言ってなかったけど、この本にはもっともっと良いこと書いてあるのよね。」
彼女はニンマリ笑っている。なんだカワイイなと思っていると、赤信号を渡りそうになった。


 さあ、美術館に着いたぞ。企画展が楽しみだ!

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