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台風がやってきた(創作1)
秋にさしかかってきたというのに、まだ暑い日が結構ある。風こそ熱風でなくなったものの、外に出る時はまだTシャツ1枚だったりするから季節感がよくわからない。
朝、買い物をしにいって帰ってきた。軽く汗染みしたTシャツを脱いで、洗濯機に放り込む。顔を洗い、さっと身体の汗も拭く。今年もこの一連の動作に結構慣れてきたけど、結局また涼しくなってきてしまった。
さっきから外で大きな風の音がする。「びゅー、びゅぅー、びゅびゅうー!」まだお昼過ぎなのに、空も暗くなってきた。いよいよやってきたか…と独りごちた。すると、今度は「ぽた、ぽたぽた…どどど、どど!」ほうらきたきた、大雨だぞ。外はあっという間にどす黒い雲で上空が覆われはじめた。
ラジオをつける。「大型で速度の遅い台風6号は、現在近畿地方の上空を時速20キロの速さで北西に進んでおり・・・」はぁ、うんざりしてその勢いでラジオを消してしまった。まぁ、でもこうなることは分かっていたから、朝のうちから買い物に出ていたのだし、数日分の食料とタバコは買い込んだ。籠城する準備は出来たわけだ。
外は車のクラクションがけたたましく鳴っていてどこかへ急いで向かっている人たちでごった返している。逆に家の中は自分一人だけでひっそりとしている。空調の音が静かに聞こえてくるくらいだ。
ソファにごろんと横になり、スマホでお気に入りの配信サイトを物色しながら知人の配信がないか確かめた。今は誰も配信をしていないようだ。スマホから目を離して本棚に視線を走らせる。今日は何を読もうか……。
ふと、昔は読書をすることなんてなかったなと思った。暇があれば、友人と外に遊びに行っていた。それがある日を境にインドア派になっていった。同時に友人たちはどんどん離れていったから、辛かった。当時は外の色々な刺激に過剰反応するだけで、全くといっていいほど対処ができていなかった。脳内も働きが鈍っていて、それで悔しくて頭を鍛えようと読書を始めたんだっけ……。
そこまで考えを走らせて、感傷的になっている暇はないと首を横に振る。
外はまだまだ暴風雨だ。