【貴重な対談】ピーター・ドラッカーを日本に紹介した斎藤勝義氏との対談が収録されている『聞き書き 名人芸に挑む』(藤原肇著)(kindle版)
【聞き書き名人芸に挑む】(kindle版)の第一章、第二章の対談相手として登場するのは元ダイヤモンド社・外国書籍著作権担当責任者の斎藤 勝義氏。ドラッカー博士を日本に紹介した張本人!で、[マネジメント]を日本に普及した功労者である。
ドラッカー博士と家族ぐるみの付き合いがあった、彼だけが知る出版裏話が対談の中で語られる。それらは大変貴重であることは言うまでもなく、ドラッカー博士の著作をもっと親しむためにも必読である。
今回の記事では第一、第二章のドラッカーに関する対談のみの紹介だが、本書は総じて対話、そして「聞き書き」の魅力を存分に堪能できる本である。
(管理人より)
「戦後の高度成長に貢献したアメリカ人が二人いて、デミング博士とドラッカー博士は、1960年代から80年代にかけての日本経済が、目覚ましい発展を促した人として、忘れてはならない恩人である。その一人のドラッカーの著作を本にして、日本人にマネージメントの重要性を伝えたのが、ダイヤモンド社と博士を繋いだ斎藤さんで、彼の貢献が如何に大きいかについて知る人は少ない。」(本書より)
第一章: リーダー諭として熟読すべき名著の数々
【ドラッカー七回忌・追悼対談(上)】
リーダー諭として熟読すべき名著の数々
稀代の思想家を育てたのは賢夫人ドリス
戦後日本の発展に残した多大な貢献
ドラッカーが描いた二〇世紀の光と影
ドラッカーをマネージ賢夫人
成功する男の陰に日本の賢夫人あり
ドラッカーという"穏やかな"闘士
第二章: ドラッカー七回忌・追悼対談(下)
読み込んでほしい理想主義と開拓者魂
安易なビジネスにしてはいけない恩人
ドラッカーをダシに使った「二匹目の泥鰌」ビジネス
失礼極まりない企画だった「ドラッカーの大予言」
「対話」が持つ効用 しかしそれには必須条件が
ティーチャーの優しさとマスターの厳しさ
斎藤 勝義(元ダイヤモンド社・外国書籍著作権担当責任者)
藤原 肇(フリーランス・ジャーナリスト)
本書の紹介文
自己流の経済史観によれば、資本主義体制の資本運用法には、ライフサイクルが観察出来て、生成、発展、衰退、滅亡のパターンがあり、次の三つの段階が読み取れる。その概要を披露するならば、初期における資金運用おいては、投資資金が一般的であるが、中期には投機資金が中心になり、後期はそれがポンジ資金化し、詐欺商売になるという仮説だ。
資本主義を資金の運用面では、投資資金と利息の関係で、1):収入で元利合計を回収する「投資金融」、2):含み資産を収入にする「投機金融」、3):借り入れで利息を払う「ポンジ金融」になる。現在の資本主義の段階は、「ポンジ金融」が主流であり、これは別名ピラミッドと呼ばれるし、帳簿上の架空利益に基づく虚妄金融に支えられて、米国を始め世界の経済システムが、この虚構の数字で成り立つ。
1980年代は興味深い時期であり、1971年のニクソン・ショックでドルと金の結びつきが断たれ、それまでの投資経済に代わって、米国の体質は投機経済化し、製造から金融操作へと中心窩移行した。そうなると産業活動の重点が、生産活動より株式に移行し、ウォール街の営業路線に従い,金儲け至上主義に毒され、資本家は倫理を投げ捨て、詐欺師の横行が目立った。
そして、「ケインズは死んだ」と叫び、レーガンやサッチャーが英米の政治に君臨し、小さな政府を政策として掲げ、公共投資や社会福祉を削減し、産業界の民営化を進め、新自由主義への転換を実行した。その思想的な砦がシカゴ学派で、マネタリズムのサミュエルソン教授を囲み、レオ・シュトラウスの弟子が集まり、ネオコンの巣窟を構成した。
私は娘をシカゴ大学に入れ、父兄として大学を訪れて、学部から医学部の研究員になり、ファイザーに転職するまで、七年間もこの大学のネオコン度を調べ、それを『安倍晋三の射殺と三代の腐れ縁』で総括した。シカゴ大学はウィーン学団が、ロックフェラーの協力の下に米国に作った拠点であるし、『大転換』のカール・ポランニに敵対した、ミーゼス教授の弟子に属す、ハイエクやレオ・シュトラウスの砦だった。
この構造が分からなければ、資本主義と社会主義が、どんな形で思想対決して、現代史を動かしたかを理解できず、冷戦やウクライナ戦争の真相も、シオニズムの背景も見抜けない。そして、1980年代から新世紀にかけて、ネオコンが世界史を動かし、資本主義を断末魔に導くに至った、現代史の核心が分からず、全てがフェイク化した機構も、理解できずに終わるのである。
本書は権力の中にいたが、その中枢ら一歩離れて、アウトサイダーの立場を守り、その生態を熟視する職人の目を保ち、海外を舞台にして生きた、語学の達人との対話の記録だ。彼らは広い人脈を誇ると共に、人々の多彩な人格を観察し、人生模様の機微を読み取って、生き抜いた縁の下の力持ちであり、対話の端端に漏れる英知に、学ぶものが大いにあった。
対話の大まかな構成は次の通りだ。
◆ピーター・ドラッカーを巡る、多様なエピソードに基づく、出版にまつわる数々の裏話。
◆日本経済新聞の飛躍の謎と、情報操作と秘匿にまつわる、海外取材に関連した体験談。
◆脆弱な石油外交の実態や、外交における信頼関係と、アラブ世界の謎に満ちた景観
この三つのテーマを中心にして、対話は多岐にわたり展開するが、日本のメディアでは看過してきた、多くの問題が存在することに、驚きの印象を持つのではないか。
それに加えて1980年代が、資本主義が投機経済が主体で、詐欺師が横行した時代であり、その中で現場で叩き上げの経験を積み、その実態を熟知しながら、冷静に対処する人材が存在した。それに対し新世紀の始まりで、ポンジ経済体制が動き出し、ペテンと欺瞞に満ちたゾンビ体制となり、世界的な規模でネオコンが跋扈して、資本主義だ断末魔を迎え、前代未聞の混迷の扉が開いたのである。