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私が住んでいる国だけの話じゃなく 世界中の同じタイミングで “止まる”ことを余儀なくされたこの2年弱 いろいろなことを考え そして、感じた 生活の真横で 大切なものが 音もなく壊れ 普通があっけなく 奪われていくような気がした 見える人には見え 見えない人には見えない 忍び寄る分断に 恐くて涙が止まらなかった 不安、恐怖、憤り、失望、思考停止… 守りたい心さえも凶器になり 非常が平常になるなかで それでも 今、頭にあるのは この恋の行方だったりする これから何年か、何十年か
あんなにも カチカチだった心を 溶かしてくれたのは 月であり 朝陽であり 秋の柔らかな風であり 脆くも優しい ひとたちだった 黒く深い海に 飲み込まれないように 息をするのが精一杯だった夜 希望を求めて 見上げた新月 目覚めると 生まれ変わったように 橙色に凪いだ海が ゆっくりと身体に満ちる おおきく 途方もない あつみをもって 目を閉じ 息を吸って 固く結んだ 唇をほどき 全てを受け入れよう 大丈夫 呑み込まれやしないから
台風一過の今日 夜のはじめ頃 あまりに月がきれいで ベランダに出て ビールの栓を開けた つい 一週間前は 夏の終わりを はしゃいでいたのに たった数日で 彼方に感じるほど秋めいて あまりにも 馴染んでいる身体に 少し戸惑う なんだかんだで 喜怒哀楽と 忙しい たぶんきっと いつだって こうして 色んな感情と 生きていくんだ 悲しくて苦しい 悔しくて恐い 軽やかでくすぐったくて 嬉しくてあたたかい こんな日は 少し夜更かししても いいよね
かたくなな その心で 蝕んでいるのは 私自身だ 少しずつ 確実に 見えないように 見ないふりして 着実に 平気な顔して だって 痛くはないもの すぐにはそんな あれ、 前にもあったね こんなこと 直ちに影響は出ませんからって そうして じわじわと いつの間にか 一番の敵は わたしだ 守るようで 恐れて 追い込んで どこまで行くの なにを守るの かたくなな その心で
8月の終わりと共に訪れた 秋のまんなかのような風 久しぶりの晴天に 夏を惜しんでいたのも忘れ あぁ、秋だねと見上げる私は 相変わらずゲンキンだなと笑う ふかい息をひとつ吐いたら 次の季節へ向かおう 美しい秋のはじまり
ただただ 目の前にある わたしの生活を送ること それに集中して 時に放り出して 笑って 泣いて 怒って そういうことで 守れるものがあると 信じていられる強さを持ちたい それさえも かたくなだねと あくびする猫
足早な新宿駅とか24時間のコンビニとか マニュアル通りのチェーン店とか そういうものに救われる夜もある 夜中にファミレスでコーヒーも飲めないなんて 不健全じゃないかと思う
友だちと 笑ってごはんを食べました 手をつないで遊びました なんだかからだがふくふくして とっても気持ちよかったです 心ってこんなに軽かったんだね 夜はぐっすり眠りました こんなおおらかな夜は久しぶり 知らぬ間に 鈴虫が鳴いていて 秋の風になっていました 昨日と同じ今日なのに すごくまぶしく感じました どうしてかな わからないけど あたたかい涙がこぼれました ぼく、今を生きたいです。 2021年、夏 緊急事態宣言の中 ほんの数時間のこと
やさしい場所へいこう あたたかいひとが集まる場所へ ひさしぶりに ひとの営みに触れた気がした あたたかく 穏やかに打つ 心臓のように かわらず ひとは生きてる その紐をかたく結んでいたのは 結局はわたしで 誰かを傷つけることなく ささやかに たわやかに いきていきたい
眠れない夜 布団の上 窓越しに鈴虫の音が聞こえる ねぇ、生きてる?
新しく出来た珈琲屋さんで 水出しコーヒーを買った 小さな花束を抱えた男の人が 自転車で駆け抜けていった 軽やかに走るあの人の後ろ姿を見た 今日は、いい日だ
あと少し夏の音を聞かせておくれ