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故郷は 近くにみえて 遠いもの(名古屋旅行記)

23年5月3日

夕食を食べたら眠くなってしまい、20時現在、せいうちくんはすでに寝ている。明日からの名古屋行きに備えて旅の支度だけは整えた。

名古屋の友人Tちゃんのお母さまが去る4月19日に亡くなったと聞いたので、そろそろ少しは落ち着いた頃だろうと今回の予定には入ってなかったんだが、急遽約束を取り付ける。こんな時に顔を見て慰めてあげられずに何のための友達だろう。

幸い、2日目の女子会のあとに時間を空けられそうだ。Tちゃんに連絡したら、その時間に名古屋駅まで出てきてくれると言う。実に好都合だ。Tちゃん、ありがとう。今回は会えないかと思っていたが、名古屋に来る理由がほぼかなうことになった。小・中で一緒だったCちゃん、Kちゃん、Mちゃんに会えるうえ、高校の友人Tちゃんにも会えるとは。本当は高校の友達Mちゃんにも会いたいが、今回は予定がきゅうきゅうになってしまったのでまた次の機会に。

23年5月4日

朝早く起きて、コロコロトランクひきずって駅まで歩く。東京駅までは座れたので楽だった。新幹線はというと、インバウンドの外国人ツアー客でいっぱい。誇張なしに車両の3列シート側の半分は同じツアーの人で埋まっていたと思う。車内販売車が来たらツアコンのおばさんが各自に注文を取って伝えていた。でも支払いは個人個人なので、時間がかかるかかる。おまけにちょうど我々のところでコーヒーポットが空になり、私のコーヒーだけ注いだおねーさんはあわてて新しいポットを取りに行き、「すみません!」とせいうちくんにサーブしてくれた。販売のおねーさん以外、あちらもこちらもノーマスク。我々、無事に帰れるのかしらん。

随時報告を入れながら名古屋駅に着く。学生時代の帰省では2時間以上かかっていたので、今の1時間40分はホントに「すぐ」って感じだ。味噌煮込みうどんを食べるために朝食も駅弁も抜いてきたぞ。

駅のすぐそばのゲートタワーホテルに荷物だけ預け、Cちゃんに連絡すると、混んでて停められないからJPの駐車場にいったん停めたそうで、彼女自身はポストの横に立ってるって。スマホのない頃、我々はどうやって待ち合わせをしていたんだろうかと外出のたびに思うよ。息子相手ならハグするところだがCちゃんがハグ派かどうかわからないので両手を広げて感激を表現しながら近づく。「久しぶり!」「ホントに久しぶりね。せいうちさんもお元気?」と挨拶しながら、駐車場へ。

母で慣れてるつもりだったが、名古屋の人の運転は荒く、上手い。身体の一部のように車を自在に操るんだ。あっという間に駐車場を出て車の流れに乗る。Cちゃんちの近くの「まことや」で味噌煮込みうどんを食べる計画だそう。
「11時開店なのよね。もう11時半ぐらいだから、少し並ぶのは覚悟して」と通い慣れた人の発言は強い。

車中のCちゃんはクラシックらしきピアノ音楽をガンガンかけてる。
「これは、誰?」「ショパンよ。私、ショパンが大好きなの」後部座席のせいうちくんに「わかる?」と声をかけると、「僕はこのへんは『ショ』とか『シュ』のあたりに分類してあるだけ。ショパンとかシューベルトとかシューマンとか、だいたいな感じで」だそう。

「まことや」はやはり行列ができていた。それでも満員の駐車場の隣の有料駐車場に空きがあっただけ運がいいらしい。せいうちくんが並んでてくれたので、Cちゃんと日陰に避難しておしゃべりしていた。
「駅前の山本屋総本舗にも行ったけど、やっぱり『まことや』が一番美味しいと思うよ。だけど、駅から離れたところばかりで車で行く前提だから、Cちゃんがいないと食べられない」「大丈夫、ちゃーんと毎回お連れするわよ」と頼もしいお言葉。

やっと入って注文したのはCちゃんと私が「親子(鶏肉と玉子が入っている)」で、せいうちくんは「エビ天入り」。エビ天好きだね、この人は。ぐつぐつと煮立った土鍋で運ばれてきた味噌煮込みうどん、ひと口食べると「まことや」の味が口いっぱいに広がる。これこれ、これが食べたかったのよ。濃いめの赤味噌で、うどんは腰があるけど固すぎない。私のソウルフードかもしれない。

「せいうちさんが行きたいのはどこだっけ。知多半島?」目的地をてきぱきとナビに入れるCちゃん。彼は仕事の関係で高速道路上の状態を見たいのだそうだ。「それならついでに名古屋国際空港に行きましょう。セントレアっていう施設ができて、にぎわっているのよ。帰りも同じ道を通るから、道路ももう1回見られるわよ」ってCちゃん。我々は乗せてもらう立場なので、ひたすらどこでも連れてって、って気分。

路面はやはりせいうちくんが聞いていた通りで(上りも下りも)、こんなとこまで来て仕事かい、熱心だね、とCちゃんと2人で笑う。もっともバリキャリ公務員のCちゃんは私なんかよりずっと仕事の苦労を知っているから、「休日にも仕事。サラリーマンの鑑だわね」とほめるニュアンスだったようだ。

名古屋国際空港に着くと、巨大な建物が建っている。「セントレア」と呼ばれる名古屋の新名所らしい。近くに地方空港としての小牧空港は残っているが、海外にも直接行ける大型空港として国際空港ができ、そこに付帯施設としてちょっとしたアミューズメントスポットになっているのがセントレア。小型の飛行機を倉庫に格納したのを目の前にして食事や飲み物が楽しめる空間があったので、3人で飛行機の頭の真正面に陣取った。各人、ずらりと並ぶスタバやレストランで食べ物飲み物を買ってこの席で楽しむらしい。横から見ることもできたが、くたびれたので機首部分で十分。Cちゃんはオレンジジュース、せいうちくんはビール、私はフレッシュいちごジュース練乳入りを買ってきて、「こんなに近くで拝める日がこようとは」と飛行機の頭に親しんだ。

飛行機をぐるりと取り囲んだ空間は半円形のコロッセオのように座席が2階建てに並び、広大な吹き抜けになっていた。眼下を見るとお子様連れの列ができていて、どうやら飛行機の中に入ってみるイベントもあるらしい。 時々操縦席に座って大喜びしている子供の顔が見える。そこまでは、って方のためには座席を前後2列切り出して展示してあり、自由に座ってみることもできるんだよ。

動く通路を含む長い長い道のりを歩いて、飛行機の発着が見えるデッキに行ってみる。そこまでの間も飲食店や物販でにぎわっていいた。今日は沖縄フェアらしくて、サーターアンダギーやちんすこうがワゴンで山のように売られていた。つい先日買ったばかりの「足に電流を流すSIXPAD」を実演販売するおにーさんに声かけられて、「もう持ってるんです」と答えたら、ただでは引き下がらない販売根性でSIXPAD模様のウェアを勧めてきた。頑張るもんだねぇ。

デッキに着く前にトイレで日焼け止めを十分に塗り、さてお日さまの下へ。一番奥の端が混んでいるのは、目の前で離陸する瞬間がバッチリ見えるからだろうか。ピーチ便やスカイ、JALやANAも含めて、驚くほどの頻度で離陸していく。空中で混乱しないのかしらん。我々もピーチ便がだんだん速度を上げながら滑走路を疾走し、ある時点で機首が上がって斜めにふわりと離陸する様を撮影したりして楽しんだ。スマホで撮ってる人はもちろん多いが、ごついカメラを構えては滑走から離陸からそのあとの旋回まで取っている人もたくさんいて、なるほど、「飛行機版の撮り鉄」みたいな人たちは存在するんだな、と納得した。私も動画ひとつ、ピーチ便が見事に離陸するところが撮れたよ。

空港とセントレアをすっかり堪能して、またCちゃんの車に乗る。せいうちくんは帰りの道路も行きと同じ状態だったので少し眉間にしわが寄っていた。お仕事ご苦労さまです。

市内に帰ってきて、Cちゃんちでひと休みしましょう、と提案される。Cちゃんちは1人暮らしには広すぎるんじゃないかと思われる3LDKの綺麗なマンションで、そこをまた綺麗好きのCちゃんが徹底的に掃除をしているうえ装飾も欠かさないのでたいそう綺麗。「絵やポスターは季節ごとに気分を変えるために取り換えてるわよ」って、うちは1枚絵を掛けたら20年そのままなんですけど。

「シャンパンはちゃーんと届いてるわよ。綺麗な包装だけど、冷やすからもう取っちゃうわね」と言って、それでもちゃんと包みを写真に収め、明日、女子会のお店に持ってきてくれると言う。Cちゃんちには家庭用のワインセラーもあるのだ。ブルジョアだ。

今回目を剝いたのはリビングの真ん中に鎮座ましましているどでかいソファ。黒い皮の上にクリーム色の大きなムートンがかかっている。Cちゃんにしてははしゃいで、「これ、思い切って買ったの。3年考えたわ。自分にとって最高に居心地のいい空間を作ろうと思って」と説明してくれた。座って良し、寝転んで良し、硬めのクッションが気持ちいい、1人だったらどう寝そべっても楽にソファ上にいられるソファと寝椅子のセットだ。うちも似たようなものを使っていた時期があったが、サイズとか高級感が段違いだ。Cちゃんはここに横になってテレビを観たり、サイドテーブルの折り畳みLED灯で読書をするんだね。

そういえば、マガジンラックについさっきクラシックピアノを聴きながら話に出した「蜜蜂と遠雷」が入っていた。村上春樹の「街とその不確かな壁」も一緒だ。このソファで猫をじゃらしながらひじ掛けに身体を預けて難しい小説を読むCちゃんの姿を想像すると、いっそもう、神々しかった。

さて、猫である。独身女性はある時期から猫を飼い始めるとは聞いていたが、性格的にはドライなCちゃんが猫を飼い始めるとは思ってなかった。譲渡会とかじゃなくて、「街中で目が合っちゃって、もう連れて帰るしかなかったのよ」と猫好きらしい発端を語る。

ずっと写真とかZOOMの向こうからしか見たことなかったので、Cちゃんの「ブスなのよ。そこが可愛いの」という言葉をうのみにしていたが、いざ実物を前にすると小柄でしなやかな体躯を持ち、しぐさのひとつひとつに品がある。床に落ちているさまざまな猫じゃらしグッズを使って、Cちゃんが、「それっ、ジャンプしなさい!」などと掛け声をかけながら棒を振り回すのはなかなかの見物だった。

ジャンプまではいかなくて、立ち上がりそうになる手前ぐらいだったので、私もがぜんやる気になり、Cちゃんから猫じゃらしを受け取り、ひたすらちょっかいをかけた。「ふふふ、おばさんはね、イルカだってジャンプさせられるんだよ」と言うのは、昔、伊東のあたりのさびれた水族館に家族で行った時、「お客様の中で、イルカに曲芸をさせてみたい方はいらっしゃいませんか?」との声に「はいっ」と元気よく手を挙げて、ステージで手信号を送りイルカたちを見事にジャンプや立ち泳ぎさせたことがあるから。(小学校4年生の息子は、父親にしがみついて「ママは恥ずかしい。勇気があるのはスゴイと思うけど、やっぱり恥ずかしい」と繰り返していたそうだ)

しかしやはり訓練されたイルカたちと好き放題に遊んでる猫とでは勝負にならず、20分ほども猫じゃらしを振っていたのにジャンプさせるほどの高さまで釣ることはできなかった。前足が届いちゃっちゃあダメなのよね。もうちょっとで届きそう、って高さをキープしないと。でもあんまり高いとこで振り回しても向こうが興味をなくしちゃうから、難しい。床でぱたぱたって動かしてみたら、ピアノ椅子の陰に隠れて遠回りしてそーっと近づいてきた知恵には感心したなぁ。いや、何がしたいか見え見えなんだけどね。

遊びくたびれたので、Cちゃんが新しく買ったというアイリスオーヤマの冷凍庫を見せてもらってCちゃんちツアーはおしまい。なぜかせいうちくんと、「別になってる冷凍庫、要りますよね!アイスの箱とかたくさん入れられるし」「そうそう、そうなの!!それに、これは縦長で引き出しを1個1個取り出せるから、冷蔵庫の扉を開けっぱなしにせずに必要な引出しだけ出して作業ができるの!」と家庭における独立した冷凍庫の必要性を延々と述べる両者だった。そりゃCちゃんちみたいに片づいててゆとりがあればほしいけどさぁ、うちはもう、どの部屋も満杯状態だよ。

タクシーを呼んでもらって、Cちゃん行きつけのイタリアン・レストランでディナー。もう4回以上来てるなぁ。とても美味しい素敵な店だし、Cちゃんは完全に「常連客」だ。私がリクエストしておいた「魚のそば粉クレープ包みサフランソース」と「牛頬肉の赤ワイン煮込み」を前日までに頼んでおくのを忘れたの、と珍しくCちゃんのポカ。もっともコロナ以来やはり苦しくて、メニューはずいぶん減ったから無理だったと思う、とのこと。わかるわかる、我々もたまに行くフレンチがそういう状態になっているよ。

前菜は牡蠣と、カニとアボガドのサラダ仕立て。メインはお魚のグリルと牛肉のグリルをもらって、パスタ2種。これらを3人分にシェアして出してくれる。酒好きのCちゃんとせいうちくんは白ワインと赤ワインをデカンタでもらって魚と肉に合わせて楽しんでいた。「あなたたち、よくそんなに入るわね。お昼に味噌煮込みうどんを食べたくせに」とぼやくCちゃんは肉あたりで完全にギブアップして気前よく我々に分けてくれた。もちろんデザートはパス。せいうちくんは黒トリュフ入りのアイスクリームにコーヒー(Cちゃんもコーヒーは飲んだ)、私はティラミスをいただいてエスプレッソを頼んだ。今回も美味しゅうございました。

電車で帰ると言うCちゃんと別れてタクシーでホテルに戻る。やっとチェックインなので部屋を見るのはお初だ。広いバスタブと、何より夜景が素晴らしい。23階からの眺めを何枚か写真に撮ってCちゃんに送る。「素敵な夜景ね!また明日ね」とすぐに返事が来た。喫煙室がはるか遠くロビーまで行かないとないのがつらいけど、高級な、いいホテルだ。もちろんダブルベッドの上でせいうちくんとぎゅうぎゅうと抱き合って転げまわって喜ぶ。お風呂にゆっくり入って、少し本を読んで就寝。明日は女子会だ。楽しみ。

23年5月5日

朝はのんびり寝て、女子会の待ち合わせ正午より前にビル1階の日比谷花壇へ。別口で会う予定のTちゃん向けに「四十九日をまだ迎えていない方」向けのアレンジメントを注文しておく。15時に引き取りに来る手はずにして料金を先払いし、これで準備は万全。留守番のせいうちくんとはここでお別れ。本人はあちこち歩くつもりだから何にも心配はいらないって。知らない街を歩くのが趣味なんだね。

Cちゃんが私の泊まるホテルを聞いて同じビル内で女子会を設定してくれたので、ものすごく助かる。ついでにTちゃんとも隣のビルの星乃珈琲店で待ち合わせだから、ほとんど移動はない。どの店にも前に椅子がたくさん並んでいて、座って順番を待つ人の嵐。Cちゃんはちゃんとお店を予約してくれていたから、あっさり4人席に案内された。

Cちゃんと高校も同じだったKちゃんはもう来ていた。中学の同期だったMちゃんはお店の前で待っていたらしくて、「もうみんな、入ってるの?」と驚きのLINEのあとやってきた。Cちゃんが、「今日はうさちゃんからサプライズがあるの。女子会に、シャンパンをいただいだのよ!」と宣伝してくれる。持ち込み料を取られるが、そこはまあ、責任者の私が払うから。洒落た形のシャンパングラスが4つ出て来て、お店の人が抜栓して注いでくれる。黄金色の美しいシャンパンだった。

「息子の奥さんのお母さんが百貨店の酒類売り場にお勤めだったの。今は部署が変わったみたいだけど、詳しいから『女子会向けの華やかなものを。友人は辛口が好きです』って頼んで選んでもらったの。向こうは売り上げになるし、こちらは社販で割り引いてもらえてウィンウィンだよ」といらんことまで説明する私。ついでに先月お母さまも一緒に若夫婦と箱根の温泉に行った時の写真を見せると、「息子くんのお嫁ちゃん、可愛い~」「家族で旅行に行くなんて、仲良しなのね~。うらやましいわ~」と歓声を浴びた。どうやら子供の配偶者は「お嫁ちゃん」「お婿ちゃん」と呼ぶのが習わしのようだ。

独身のCちゃん以外から雨のように降ってくるのは孫の話。「うさちゃんも、すぐよ。可愛いわよ~」と言われると、楽しみになっちゃうじゃないか。Mちゃんちでは下の世代の海外赴任が多く、先日まで息子さんがシンガポールに行っていてMちゃんが娘さんと孫ちゃんと暮らしていたんだが、やっと帰ってきたと思ったら今度はお婿ちゃんがマレーシアに赴任なんだって。娘さんがついて行くのか、単身赴任になるのかは聞きそびれた。

Kちゃんは長年勤めた結婚式場のウェディングバトラーという仕事を辞め、ご両親の看取りも終わり、「さて、これから何をしようかしら」って状態らしい。あんまりヒマにしていると孫の面倒をみるのにあてにされちゃうから、何か自分で始めたいようだ。あと、根が働きものなのでぐうたらしてしまったらどうしようと自分がコワイらしい。そんなことを言われたら、30年以上ぐうたらしている私の立場はどうなるんだ。

そしたらMちゃんが言った。「でも、うさちゃんは全然、外で働いてない人には見えないわよ。てきぱきしてるし、いろいろ考えてるし。ものすごく、働いている人に見えるわぁ」それはちょっと嬉しいね。大学教育を無駄にして30年かけてバカになってきてる気しかしないもんだから。

女子会も、最初の頃は古い卒業アルバムを出してきたりして過去を大いに懐かしんだものだけど、5年以上たった今ではお互いの現在やこれからの話に集約されがちだね。そうそう、「老後の話」は出る。いやんなるぐらい出る。みんな、昼間っから5千円のランチを食べてる身分だからそう困ることはないだろうけど、やはり政府の「老後の不足を補うために、各夫婦で2千万用意してもらいたい」って言われたのはショックよね~となるのはどうしようもない。どうもキモは投資らしい。しかも、株の値上がりを待つというより配当金を生活費に加える考え。私にもどうやら「自分の財産」があるようなので(OL時代に貯めた貯金を頭金にしてマンション買い、値上がりしたそれを売ったので、ちょっと儲かった)、今度せいうちくんに頼んで投資を考えてもらおう。

「息子くん、秋に結婚式なのね。楽しみね」と言われたり、予想していた通り、子供が生まれてもお嫁ちゃんに「お疲れさま」「おめでとう」はいくら言ってもいいけど、「ありがとう」は禁句らしいよ。「アンタのために産んだわけじゃない」って気分になるかもだからね。嫁と姑の間はいろいろ大変なんだなぁ、ってあらためてタメイキ。うちの「お嫁ちゃん」、いや、息子の妻のMちゃんは息子への不満を私に言ってくることあるよ、と言うと、それは「理想の嫁姑関係が築けている」のだそうだ。よかった。

90分コースの店で2時間以上おしゃべりしてしまったが、さて二次会はあるのかな?どうもそのまま散会な雰囲気だったので、駅に向かう3人にさよならを言って、余り時間をホテルの部屋で休んで調整する。つくづく、この会場を選んでくれたCちゃんに感謝だ。

しばらくして戻ってきたせいうちくんは、名古屋のアキバゾーンとでも言うべき場所に行ってしまったんだって。でも欲しい古本マンガはなかったので、回転寿司を食べて手ぶらで帰ってきたってさ。ちゃんと日比谷花壇からお花のアレンジメントを受け取ってきてくれていた。

14時20分頃に一緒に出て、星乃珈琲店まで送ってもらった。彼はこれからビックカメラに行って電気製品でも見るつもりらしい。まだまだ待ち合わせにはずいぶんあるから、席順表に名前を書いて外に座ってればTちゃんが来る前にお店に入れているかも。

しかしGW終了前日の午後の星乃珈琲店はそう甘くなかった。15時直前になっても、私はまだ外に座って本を読んでいた。そしたら電話が鳴る。Tちゃんだ。目を上げると、そこに不確かそうな顔をしたTちゃんがいた。そうね、この頃では待ち合わせの相手に声をかけるより先に電話をかけて本人かどうか確かめるみたいね。人違いしちゃったら恥ずかしいもんね。私はメガネを頭の上にはね上げてうつむいて本読んでたからわかりづらかったんだろう。

「きゃー」「ありがとう!」「こちらこそ、駅前まで出てきてくれてありがとう!」と女子的挨拶を交わし、また外の椅子で待つ。今度はもう、店内にいるのと変わらないからおしゃべりしてればいい。はっ、相手はお母さまを亡くしたばかりだったんだ、とにわかに正気に返り、「この度は本当に…」「いえいえ、もう、本人が苦しくなかったのが何よりで」と大人の挨拶。でもどうしてもすぐきゃいきゃいしちゃう。

そのうちに名前を呼ばれて席に案内される。2人テーブルもいっぱい空いてるのに6人座れるかもの大テーブルに案内されてビビる我々。「いいのかしらね、こんな広い席を2人で取っちゃって」と言いつつ、メニューを見て2人ともスフレのセットにする。Tちゃんはアングレーズソース、私はチョコレートソース。

ここで、用意の紙袋入りアレンジメントを渡す。「えーっ、ありがとう、でもこんなことしないで」「Tちゃんのお母さまにはお世話になったから」「なんにも世話してないがね」(時々つるっと名古屋弁になるTちゃん)「高校の頃も卒業の後も、みんなを一緒に招いてくれたじゃない。おもてなししてもらったよ」「そう言えば、うちから初詣に行ったことあったね」「そう。だから、これは気持ちばかり。受け取ってお母さまのお仏壇の前に飾ってちょうだい」「ありがとねー。ちょうどよかったのよ。お葬式で出た花をもらって帰ってきて飾ってたんだけど、そろそろ傷みかけてきたんだわ。これ飾らせてもらうね」「うんうん、そうして」

という儀式を終えたあとは、葬式というものの面倒くささとお金がかかる話。「『もう全部一番安いのにしてくださいっ!』って言いそうだったわよ。決めることがいっぱいあり過ぎるし」「Tちゃんとこは姉妹しかいないから、お墓は誰が管理するの?」「今んとこは長女だから私がやってるけど、ゆくゆくは墓じまいをするか、うちのダンナの墓に改正して使っていくのかなぁ。もう、お墓はめんどくさいからあんまりほしくないよね」「うちはお墓がないんだよね。父母の墓がどこにあるのか、車で2度連れて行かれただけだからどこだったかよく覚えてないし。海への散骨を考えてたけど、特に海が近いわけでも好きなわけでもないから、今は樹木葬を考えてる。毎年抽選に申し込んでるよ。まだ当たらないけど」「樹木葬、最近人気よね。近くにいいところがあるんなら、いいんじゃない?」

そこからは子供の話。うちのはあいかわらずでコント師になりたがってるけどそれで食えてない現実があり、奥さんが働いているから何とかなってるけど子供ができたらどうなるのかなー、と私が言えば、娘さんの1人が結婚してもう孫が2人いるTちゃんは40近いのに結婚しない長男が気になってしょうがないらしい。「独身男性38歳かぁ…ビミョーだね。38歳って言うとまだまだ若い気がするけど、数年で40になっちゃったら、ちょっと引かれ気味になりそう」「そうなのよ~。でも本人、まるっきり結婚する気がないの」「普段、勤めから帰ると何してるの?休日とか?」「プラモとゲーム」「プラモは何?」「ガンダム」「ガンプラオタクかぁ。ゲームは課金しすぎてない?」「そんなの知らないけど、貯金は貯まって行ってるからそれほどは課金してないと思う」「ガンプラにゲーム課金とくるともう言い逃れできないオタクだからね。同じ趣味の人を探せばいいじゃん。ソーシャルゲームで知り合って結婚する人って、いるよ」「そもそも結婚したいって全然思わないみたいなのよねー」「いっぺん家を追い出してみたら?実家にいるとカノジョできにくいよ」「そりゃそうだわね。考えてみなくっちゃ」

とまあこんな風に名古屋の高校で知り合った半ば不良の悪目立ちする読書家と、おとなしく目立たず、内向的で細やかで繊細だった2人は「名古屋のおばさん」になって星乃珈琲店を占拠し続けたのであった。

遺産相続の話などもしっかり聞けて、やっぱり親が姉妹に公平だったこと、その結果姉妹が仲良かったことがいい結果を生むんだなぁと感銘を受けたよ。もめごとのない穏やかな相続の話を聞くのは久しぶりなので、心が洗われるようだった。

さすがに2時間以上たったので、解散した。Tちゃんも今度東京へおいでよ。うちのへんはただの住宅地だけど、せいうちくんが東京駅にお勤めの間はお店とかも調べてくれると思うよ。一緒においしいもの食べよう!

ホテルに帰って、ばったり。せいうちくんはすでに日本酒を飲んでばったり倒れていた。明日はCちゃんが10時に迎えに来てくれて「明治村」見学に行く。せいうちくんはとても楽しみにしている様子。iPad Proでちょこっとだけ定例ZOOM飲み会に顔を出し、さあ今日も早寝だ早寝だ。

23年5月6日

朝の10時にCちゃんが車で迎えに来てくれて、今日はせいうちくんがウキウキと楽しみにしていた「明治村」。名古屋の子はみんな小学校の頃に社会見学か遠足で行くから慣れてるよ、と威張っていたが、実は私、誤解していた。明治時代の街並みをそのまま残してあるんだとばかり思ったが、違うんだ。明治時代の有名な建物を複製したり移築したりして、「明治を知るための空間」を作ってあるんだった。「絶対見るべきなのは、フランク・ロイド・ライトが設計した帝国ホテルの入り口よ」とCちゃん。サイモン&ガーファンクルも歌っていたなぁ、「So long, Frank Lloyd Wright」って。

名古屋市内から高速使って40分ぐらいで着く。駐車場はまあ五分の入りってとこ。GWなのにけっこう空いてるのね。近いから、長期の休みに行くとこじゃないのかもしれない。

中はものすごく広いんだそうで、昨日すでに空港で一万歩以上歩いてしまった私はすっかり怖気づき、せいうちくんの提案で入り口に並べてある車椅子を借りることに。自分ちにもすでに折り畳み式の車椅子を買ってしまってあるけど、本格的に外で乗るのは初めて。もちろん押す側のせいうちくんにも初めての体験。ちょっと恥ずかしいのを除けばかなり完璧で、ただ、スロープへ入る道が砂利敷きの上り坂だったりするとせいうちくんも苦しそう。

建物内部の資料館はたいてい階段がたくさんあるから、私はほとんど外で待っていた。せいうちくんは非常に興奮していて、何もかもがすばらしい!と歓声を上げていた。洋食屋で「オムライスセット」を食べたり(私はトマトソースだが、あとの2人はデミグラスソースだった。人にはいろんな好みがある)、カフェで「オールドファッション・ワッフル」を食べたり。

面白いことにコスプレも売りのひとつらしく、施設内には袴をはいたはいからさん、シルクハットにつけ髭の紳士、書生さん、茶人のいでたちの人、そしてバッスルスタイルで肩をむき出しにした夜会服姿のご婦人などがいた。3500円で1日扮装を楽しめるらしい。コスプレ写真を撮るだけなら600円と、なかなかリーズナブル。

「世界の建物ミニチュア館」があったので私も入った。実はミニチュア大好き。バッキンガム宮殿や凱旋門、エッフェル塔、国会議事堂などのミニチュアが展示してあった。ただちょっと作りが甘いというか、石膏の角がゆるい気がした。こういうのは海洋堂に作ってもらってはどうだろうか。

たっぷり4時間ぐらい歩き回って堪能し、最後は奥の方から乗り合いバスに乗って門まで戻ってきた。バスの後部にはちゃんと車椅子を乗せるスペースがあって、私の乗ってきた車椅子もたたんで乗っけてくれた。せいうちくんは、「名古屋に住んでいたら毎週でも来たい」というほどの感激ぶり。公園や散歩道、ちょっとした山の散策なども楽しめる豊かな施設だった。

せいうちくんは、お土産に、明治のミツボシビールとサイダーを買っていた。家で大事に飲むつもりなんだろう。それとも定例ZOOM飲み会で自慢するかな?

駐車場のCちゃんの車に戻ったのが16時前。17時半の新幹線には悠々間に合う時間だ。車の中でも明治村を歩きながらでもいろんな話をしたが、Cちゃんは「結婚を考えたことはない」と言っていた。ご両親の仲が悪かったせいもあるが、とにかく自分は結婚には向いていない、と強く思ってきたそうだ。なので東京の大学を卒業後、就職で帰ってきて公務員としてバリバリ働いていた間にお母さんから持ち込まれる見合い話にはうんざりしたと。「こっちから是非にとお願いしたんだから、お断りはできないわ」などと言われて何度も困ったんだって。「あんたはB級品だから、お見合いのような正規のマーケットに出す気にはなれない。お姉ちゃんにはいい縁談がたくさん来るけど。あんたはあんたを気に入るような変わり者を勝手に見つけなさい」と言われていい気分はしなかったことを思い出したよ。

気を鎮めるために一首詠もう。

 特級のお姉ちゃんに降る見合い B級品のあんたは出せない

「自分の人生に満足してる?」と尋ねると、Cちゃんはちょっと首をかしげて、「そうねぇ、本当を言えばもうちょっと世の中の役に立ちたいというか、国際的にも活躍したかったわね。でも、80パーセントぐらいは満足よ。自分のマンションがあって気に入ったソファが買えて、猫と遊んで暮らせたら幸せ。あとは死ぬまでお酒が飲める健康体でいたいわ」と答えてくれた。この人は本当にブレないなぁ、と感心した。

「家族と、女友達がいればいいわ。別にそういう趣味だってわけじゃないのよ。でも、女友達が最高なの」「それで私にもこんなに親切にしてくれるんだね?」「お互い様ですもの。貴女はせいうちさんがいれば他には何もいらないし何でもできちゃうみたいだけど、私にはそういう人はいないから」と笑っていた。

名古屋駅まで送ってもらって、車のトランクから荷物を出して、あわただしいお別れ。猫ちゃんが小食すぎて吐いてしまったり食べ過ぎて具合が悪くなったり難しい子だから、「もう長い旅行は無理だわ。あなたのところに弾丸旅行で行くわよ」と言うCちゃんは、今乗ってるトヨタのサイをそろそろ手放して、彼女の車人生の最後10年を飾るレクサスに買い換えたいのだそうだ。東京だとどっちかと言えば引退したら小型車に買い換える人が多い気がしていたので、名古屋人の車人生すごろくはレクサスで上がりなのか!と驚いた。今度名古屋に来たら、レクサスであちこち連れてってくれるってさ。またね、Cちゃん。本当にいろいろありがとう!

列車の時刻まではまだ少しあったので、ヱビスのビアショップでビールを飲み、お弁当にサバの押し寿司と柿の葉寿司をひとつずつ買った。車内で半分こして食べよう。帰りも行きと同じぐらい混雑していたが、大阪―東京間の新幹線だったのでかなりマシだったかもしれない。すぐに車内販売ワゴンが来てしまったのでお寿司を食べる前にゆっくりコーヒーを楽しんだ。

今は姉の家になっている実家、私が大学に入ってすぐに引っ越してしまったのでなんの想い出もない。帰省すると車で迎えに来てくれたので、1人ではたどり着けないだろうと思う。どこにあるか、わからないのも同然だ。(これは父母のお墓も同じ)

 ふるさとで 女子会だけが開かれる きょうだいも親も実家もなければ

と一首詠んでみた。この先も、私が名古屋を訪れるのは友人たちに会うためだけにだろな。せいうちくんとの小旅行、とても楽しかった。全面的にお世話してくれたCちゃん、どうもありがとう。また会おうね!Tちゃんも元気出して、これからの自分たちの老後を大事にしていこう。

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