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魔法の世紀における民主主義のアップデートのために

 もう2週間も前のことですが,衆院選が終わりました。僕らの怒涛の日々はあっという間に過ぎ去りました。

衆院選の間,選挙情報可視化サイト「JAPAN CHOICE」を見つけてくださった皆さん,本当にありがとうございました。まだまだやりたいことの半分もできていませんでしたが,それでもたった10日間でたくさんの方に使っていただけたのは本当にうれしいです。

改めて,衆院選が終わったこの時期に,このサイトがどういう風に作られ,これからどういう場所にしていくのか,その経緯と展望を(備忘録的に)お話しさせていただければと存じます。


本当は来年公開する予定だった

「JAPAN CHOICE」を運営しているのはNPO法人Mielkaという非営利組織です。この法人は「政治を可視化する」ことで人々の政治への意識を変革し,合理的な意思決定,積極的な政治参画を促すことをビジョンとしています。メンバーが10代,20代を中心とすることもあって,まずは同世代の政治意識を変革すべく,中高生への主権者教育や大学生向けの討論イベント等の実施,さらには自治体への政策評価・政策提言等を行ってまいりました。いま活動は4年目に突入しています。

そして2016年にイギリス国民投票(Brexit)とアメリカ大統領選挙(トランプ大統領の誕生)が,2017年に韓国大統領罷免とフランス大統領選挙が起き,民主主義が新たなフェーズへと入ることを確認したことで,わたしたちも新しい「政治の可視化」フェーズへ入らなければならないと認識しました。そこでアメリカ大統領選挙をリサーチしに現場へ飛び,本場の選挙戦,国民はどのように政治的意思決定を下すのかを学んだ結果,「日本はオンライン上の政治情報が圧倒的に足りなさ過ぎる」という事実にたどり着きました。

そこで立ち上がったのが,政治情報をオンライン上で可視化する「Mielkaラボ」です。

もっと合理的に,もっと楽に

みなさんが日本の選挙で投票先を決める際に頼る情報はなんでしょう?
2015年に行われた日本新聞協会の調査によると,選挙の際に参考にしたい情報源として,人気順に新聞,テレビ,選挙公報が挙げられました。他方で,投票先を選ぶ際に何を基準に判断するのかという点については,様々なメディア・機関が調査を行っています(例:日経新聞や連合)が,共通して上位に挙げられたのは「掲げる政策」(1位),そして「所属する政党」(2位)でした。今回の衆院選で日経新聞がTwitterを分析した結果,なんと「政策」を語るのは20代が最多でした

しかし,これだけ情報が氾濫し,真偽不明の情報も多い中で,新聞やテレビの報道を日々ウォッチし,投票先を決めることのできる人がどれだけいるのでしょうか。日々,「◯◯候補がこのような発言をした」等の情報がフロー情報として流れていき,ストックしておきたい重要な情報とフロー情報が入り乱れ,有権者は「めんどくさい…」と感じるようになり,投票に行かない選択を仕方ない状況になってしまっています。

もっとも,これはメディアの問題ではありません。メディアはまずもって「ニュース」を発信する媒体ですから,本質的にフロー情報(時間とともに流れていく情報)を主体とします。むしろ,これまでストック情報(一時的であっても,動かない情報として固定して参照される情報)としての政治情報のプラットフォームがなかったことが問題なのです。

アメリカの選挙戦で見た現実は,Five Thirty EightやReal Clear Politics,Countable,Brigadeなどのマスコミ以外の報道プレイヤーが台頭し,しかもイデオロギーに固執しない態度が有権者にとって最も重要な「冷静に考えたい」姿勢とマッチして,マスメディアの選挙報道に匹敵する影響力を持ち始めていました。

そこで,日本でも

・イデオロギーに固執しない政治的公平性の立場を堅持しながら
・明瞭でわかりやすいストック情報を可視化し
・Factと数値に敬意を払った

政治情報の保管場所を作ることが,最も有権者が必要とすることではないかと仮説を起きました(今回のJAPAN CHOICEはそういった意味で仮説の実証実験といえます)。


実のところ,選挙のみに焦点を合わせるのではなく,立法府や行政府が持つ全ての情報を可視化できるようなサービスの構築に力を入れ,来年公開する予定で動いていました。しかし,予想よりも相当早まった衆議院解散のため,まずは「選挙」に関する情報の可視化をすべく,選挙情報特化型のサービスとして「JAPAN CHOICE」をローンチいたしました。(つまり,来年以降さらにグレードアップした内容で別途サービスをお届けいたします。)

JAPAN CHOICEの本質は「楽さ」

Mielkaラボが目指すのは,人間の政治的意思決定をもっと楽に,そして,より合理的な意思決定とすることです。もっとも,それは有権者一人ひとりの「頑張り」に依存したくはありません。個々人が意識高い系になる必要などなく,むしろ無意識のうちに合理的で楽な意思決定ができるシステムを私たちがお届けしたいのです。

たとえば,「投票へ行こう」と意識に語りかけることなど限界があって,電子投票を可能にする,どこの選挙区にも投票ができる共通投票所を全国に設けるなど,システムそのものをより簡便にした方が投票率は高まるんです。他に考えなくちゃいけないことも多い多忙な有権者に,「頑張って政治のことも考えてね」なんて言葉は無責任極まりないことなのだとアメリカやフランスの選挙戦から痛く思い知らされました。

合理的な意思決定を有権者に求めるなら,求める側が責任持って有権者に情報を提示する。有権者は投票に行く際に30分,いえ15分だけ考えてもらえば良いところまで,情報を圧縮し,可視化しておく。それが私たちの責任です。

情報をわかりやすく可視化して,有権者に届ける,しかもその情報は有権者が求めるものでなければならない。JAPAN CHOICEが提供する情報は,小選挙区にも比例代表にも適応でき,かつ政策についても冷静に考えられる形になっています(詳しいサービスの使い方は別稿で記します)。

JAPAN CHOICEはまだまだ発展途上であり,すでに書いたとおり「仮説の実証研究」をしている段階ですので,皆様からたくさんの要望を頂いて,またどんどんと洗練された形にしていきたいと思います。

もう少し大きな話をさせてください

「民主主義」というのは,プラトン,アリストテレスの時代からマキャベリ,ルソー,モンテスキューを経て,シュンペーターに至るまで,理想とする政体が次々と議論される中で,常にそのリスクが懸念され続けてきた政体です。

大雑把に整理すればその根本的な終着点(対立点)はたったひとつで,民衆に意思決定をさせることは危険である(か否か)ということ。市民・民衆による意思決定には大きなリスクが孕むことは,これだけ情報が氾濫する時代以外のどの時代でも議論され続けてきたものです。

しかし,人類は歴史を通じて民主主義以外に方法がないことも確認してきました。

俗っぽい言い方になりますが,「リテラシーを持った層に政治判断を任せておけばいい」と考えるのは,おそらく誰もが納得できるはずです。理由は,様々な力学と考慮要素が存在する政治の世界を,一般市民に委ねることはむしろ無責任であるから。

確かに,多忙な中で複雑な情報の渦に翻弄されると,不合理な意思決定をしたり,そもそも意思決定をすること自体もやめてしまうかもしれない。しかし,現代を生きる我々は,デザインとテクノロジー,データによって,民主主義のリスクを最小化し,集合知をシステマティックに生み出すことができます。魔法の世紀の到来とともに,従来の智者が前提とする時代はもう過ぎ去ったかもしれません。

人間が思考しなければならない領域を最小値にまで落とし込み,人間がすべきことを最終的な合理的意思決定のみとします。民主主義のリスクは,すでに技術が解決してしまえる段階にあるのかもしれない。この壮大な仮説を実証すべく,私たちは単に情報を透明化するだけではなく,また透明化を特定の政治的意図のもとに行うわけでもなく,民主主義を前進させるためだけに挑戦してみたい。この選挙をその一つ目の転換点としたいのです。

来年以降,更にみなさんが思考を節約し,最終的な意思決定をより楽に,もっと合理的にできるよう,私たちは歩みを進めていきます。
どうか引き続きよろしくお願いいたします。

とんふぃ

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結城東輝(とんふぃ)
図書館が無料であるように、自分の記事は無料で全ての方に開放したいと考えています(一部クラウドファンディングのリターン等を除きます)。しかし、価値のある記事だと感じてくださった方が任意でサポートをしてくださることがあり、そのような言論空間があることに頭が上がりません。