折々の漢字――【<咲>く】よりも【<咲く>】
文化庁では、業務の1つとして日々国語課題についての審議が行われています。その経過を見ていたら、「今後取り組むべき課題」として下記の意見があるのが気になりました。
Ⅴ 「常用漢字表の手当てについて」(常用漢字表の定期的な検証について)をめぐって
○ 学習指導要領では,送り仮名の付け方を極めて重視して,教科書に示されたとおりに送らないと誤りとする。その結果,例えば,花が「咲く(さく)」だったら,「咲」という漢字は「さく」という語ではなく,「さ」だと思う子供がたくさんいる。大人でも同様である。送り仮名の付け方を厳密に扱おうとすればするほど,漢字が,表語だというところが薄れてしまう。だから,本来,常用漢字の手当てという意味では,常用漢字でどのように書かれているのか,特に訓まで含めて,きちんとこの常用漢字の精神が伝わっているのかということを検証すべきである。(「「国語分科会で今後取り組むべき課題について(報告)」(平成25年2月)において未検討の課題の協議で出された意見の整理」)
送り仮名の「付け方」を重視するあまり、「咲く」の「咲」という語の読みを、「さ-く」ではなく「さ」だと思う人が多くなっている。だから、そうではないという周知を図るべきだ、という意見でしょうか。
そうなんですね……。そりゃあ、「咲」という漢字の意味を考えると、「さ-く」という読みとして認識しなければならないですよね。
そもそも、「送り仮名」とは何でしょう?
国立国語研究所『日本語教育指導参考書14 文字・表記の教育』によると、
ある語の読みを確定するために,漢字のあとに書き加える仮名のことを送り仮名という。もともと漢文の訓読から発生したものであり,便宜的なものであったが,書く立場から通説が求められるようになった。これが「送り仮名法」とか「送り仮名のつけ方」とかになったのである。
とあります。これを読んで、私は送り仮名に「漢文の訓読としての便宜的なもの」という意識がなくなっているから、<「咲」=「さ」問題>が起こるのかなと感じました。
では、現行の学習指導要領ではどう書いているのでしょう。小学校3・4年生で学習することの項目として、「(ウ) 送り仮名に注意して書き,また,活用についての意識をもつこと。」が出てきます。その解説では、
例えば,「泳いだ」の「泳」という漢字を学習する際には,「泳がない」,「泳ぎます」,「泳ぐ」のように活用させながら,送り仮名についても学習できるようにする。また,一つ一つの具体的な語の送り仮名の指導をするだけでなく,その学習を通して,活用語尾を送るという送り仮名の原則的な付け方についても理解を促して,活用についての意識をもつようにする。(小学校学習指導要領解説 国語)
と書かれています。書いてあるのは送り仮名の活用や、原則的な付け方への意識だけですね。
しかし、学習指導要領にて送り仮名が生まれた経緯が盛り込まれていないのは、小学校中学年の段階では「漢文」を学習していないからですよね。
それならば、中学校などで改めて送り仮名について学習することが、「送り仮名とは何か」について認識を深める最善の方法ではないでしょうか。
【<咲>く】と認識するのは教材のせい!?
……というのが、普通の「言葉の問題」を取り上げるブログでの結論かもしれません。
それで締めたい気持ちもあるのですが、教材を作っていて送り仮名で反省することがあるので、それも書かなくては、と思っています。
↓以下、反省することです。↓
漢字問題では、よく「――のひらがなを、漢字と送り仮名で書きましょう。」などとという形式で出題することがあります。
この出題の意図は、漢字が正しく書かれているかというよりも、送り仮名を正しく付けているかに力点が置かれているような気がします。
「おもい」を「重もい」ではなく「重い」と送り仮名を正しく付けられるかどうか、という出題意図です。
これだと、読みが3字以上のものしか出題できません。「さ-く」という2文字ならば送り仮名の付け方は間違えようがないので、出題されることが少なくなります。
さらに、漢字+送り仮名で書かせるのではなく、あらかじめ「く」が書かれていて、「さ」の部分の漢字だけを書かせるという問題も見られます。
↓この右側の問い方ですね。
この出題の仕方が、「咲」は「さ」と読むという認識に影響を与えているような気がして、落ち込む思いでいっぱいです……。
送り仮名の意識、教材側から少しずつ変えていかなければならないですね。