ものづくりの考え方
なぜ木のプロダクトを作るのか
元々は京都の広告代理店で7年近くカメラマンを務めました。その時の経験は、カタログやデザインなどに役立っています。
その後、老舗の企業に企画開発で転職します。その会社では、全国にある伝統工芸品を百貨店などに卸す仕事をしていました。ターゲット層を決め、地域を調査し、商品を企画して、価格を決めて全国のメーカーに製造してもらい直接購入者に繋いでいきます。
ちょうどネット販売の時代に入り、様々な各社で通信販売が始まったのですが、価格崩壊や上手にマスコミを使う人の商品が売れるなど物流の大きな変化に衝撃を受けました。
もちろん競争によりより良い製品が生れるなど良いこともあったと思いますが、その反面価格崩壊が起きることで木工職人が減少し、現役職人に注文が集中することで生産力が落ち、中国経済の台頭で貿易商品の値段が上がったことが原因で、「日本は森林面積が多いのに国産の木の流通が少ない」という課題にもぶつかりました。
私が生まれ育った奈良は全国で取引される吉野の木など、林業や製材が盛んな地域です。しかし海外の安い材がどんどん市場に進出し、国産の木の需要が下がってくると奈良県の山間地域は厳しい状況になっていきました。「もっと多くの作家さんや職人さんに奈良の木を使ってもらい発信する場をつくり、販売することで地域を盛り上げ、循環させせる仕組みができないだろうか」と考えるようになりました。
その頃、仕事の関係で出会った曲げわっぱの師匠が背中を押してくれ、「わっぱを通して、人が自然に森に還元する仕組みをつくり、プロダクトを通して日本の木のことを伝えたい」と後に起業するきっかけになりました。
使う人をイメージして
「わっぱを奈良の木でつくる」と決めたものの製品を作りには苦労しました。師匠のいる秋田の杉と目が細かくて硬い奈良の杉では材質が違い、現場で出来た事が地元に戻った時に思ったような形にならない事もありました。
それでも何度も作業を繰り返し、改善理由を探し体で覚えていきました。
また、天然ものを使うことにこだわった結果、それぞれ木目や色が均一でないので同じことの繰り返しというわけにはいきません。木の表情や癖は人間の個性と同じようなもの。そのままを受け入れて愛でていただけるものをと作っていっています。
プロダクトのデザインは「森を感じる」をコンセプトにしています。日常で使っていただけるもの作ることで、ご購入いただいた方が森との繋がりを感じ、森の中にいるようにリラックスしたり、疲れた心を癒したりしてくれればと考えています。
作る人は幸せなのか
TONBIYA WORKSは私一人で成り立たない事業です。作品の一つ一つには山の人たちの想いや製作にまつわるエピソードがあります。
私たち木を扱う職人とその技術は、材料があって初めて繋がります。当然ですが木が無くては商品もできません。
一般の方も木に触れる事は沢山あるのではないでしょう。
日本の森には豊富な資源はありますが命を懸けて伐りだし、数人がかりで山から運び出しても木材の価格とのバランスは全く取れていないと言ってもいいのではないでしょうか。
木を扱う物が動かないと当然現場にも還元されないことです。
人の手が加わるとどうしても高価になります。ただ、適切な価格で発信し、またユーザーが納得して購入できる関係を築くことができることで森の現場に還元できると考えています。
木のある暮らしのその先に
一つ一つのプロダクトを丁寧に作って、手に取っていただける人を森に繋げたいという思いがあります。
残念ながら一人の小さな力では、日本の市場を動かすような大きな事は出来ません。
でも“可愛いな”“欲しいな”そんな気持ちが積み重なって、奈良の木を使ってみようかな、
木を伐る作業ってどんな事をするんだろうと、興味を持ってくれる人が増えて、それを森に繋いでいけたら、いつか森が循環し、地域に還元できることに繋がると信じて今も活動を続けています。
人の暮らしは全て繋がっていて、何が欠けても連鎖が止まります。
ものづくりの背景を発信し、奈良の木を使った暮らしに寄り添う作品を制作することを通して、森と人をつなぎたい。
先ずは身近な地元の奈良にある壮大な歴史ある森に少しでも還元できるようにと考えています。