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回し読み

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ぺけぽん
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2020年7月の記事一覧

お別れの日

4年間住んだアパートの退居がおわった。ガランとなった部屋は、内見で一目惚れした時とおなじように輝いている。同じ部屋なのに、それはどこか遠くの光のようで、あぁここはもう僕の家じゃなくなるんだなと、感じる。 11時半に掃除がすんで、嫁さんとふたりで管理会社の人がくるのをまった。退去立ち会いの予定はあと30分後。そのあとは玄関をあけることができない。それが、なんだか不思議だった。 * 「結婚してはじめての家が、ここでよかったよね。」 穏やかな声でそう言われて、頷く。ほんとう

果物の季節

冷蔵庫でうたた寝をしている、桜桃だと思い込んでいた少女の頬っぺた色の食べ物が、本当の本当はいか明太子だったことにより23時の世界は崩壊する。行くあてのない苦い紅茶を喉を鳴らして飲み干せば、台所は完成するけれど、その先に残るものといえば茶渋とペンギンだけである。 台所に生息するペンギンは意地悪だけど根はいいやつだから、と人々に言われる。でも、私は知っている。桜桃をいか明太子に変えたのはこのペンギンたちだ。彼らはただの意地悪だ。 果物の季節がきたのだ。盛大に祝おう。 桃の

くだらないの中に愛が(ポストカード・トーク199)

今日は珍しく早起きしました。たまには悪くないかなと思いつつも、眠い。やっぱり寝たい。そして気づけばもう199枚目。私がびっくりする。 こちらはマン・レイのポストカード。なんでハートが切れているのか、説明はありません。ハートブレイクというほどでもない裂け目。いや、風通しを良くするための通り道かもしれない。ネガティブとポジティブ、どちらにも取ることは可能。ちょっと無理やりかもしれないけれど。 今日は「くだらないこと」について。本当はくだらないとつまらないの比較でもしようかと思

【戦国ショートSF】在宅勤務が長すぎてそういう感じの気分になる織田信長

雨で煙る街並みは、火縄銃が放たれた合戦場のような、鈍い白色だった。 リモート勤務がはじまって3ヶ月が経つ。信長は会社から持ち帰ったノートPCに顔を青白く照らされながら、昨日までに仕上げるはずだった集計データを打ち込んでいる。白い格子模様が、いくつかの文字と数字で満たされていく。 エクセルに昔いたイルカが、いなくなってしまったことが寂しい。同僚の山田が「イルカは漢字で海豚と書くのだ」と嘲笑まじりにメッセージを送ってきた時、信長は無性に腹を立てたものだ。自分はこのイルカという