見出し画像

虎に翼

フジテレビで吉田潮さんが「虎に翼」を昨年のベストドラマにあげていた。
異論はない。彼女のいうとおり、無駄なキャラがない(主人公の女友達の謎にいらいらさせられることがない)、飽きさせないストーリー、朝という枠にとらわれずに尊属殺人や原爆裁判をとりあげたこと、男性の解放にも目配りがきいていたこと、などなど評価すべきところの多いドラマだった。さらに吉田潮さんが、これまでの朝ドラは、壁を乗り越えた女性を主人公としていたのに対し、壁そのものを壊す姿勢を持つ女性を描いたところが画期的、という意味のことを述べていたことにも、大きくうなづいた。
そのうえで「はて?」と思ったこと: 実は寅子は、壁を壊すことにはそれほど貢献していないのかも、壁に押し返されることの方が多かったかもしれない。日本国憲法の「平等」の意味を深く理解し、強く希求していたことは確かだが、憲法そのものは敗戦によって手に入ったもの。日本が敗戦しアメリカが日本国憲法の原案を力でもたらさなければ、寅子の夫が戦死していなかったら、と思うと、彼女個人あるいは周囲の人々との協力で壁を壊すことができたとは考えにくい。尊属殺人の廃止について彼女は大審院にいたわけではない、原爆裁判でも(のちの政策につながる判例を出すことに貢献したのかもしれないが)国側の勝訴とした。戦後のシステムにおいて地方や家裁で初の「女性判事」を務めることで精いっぱいだったのだろう。
もう一つ、私は「虎に翼」にエリート臭を感じることはなかったが、あの登場人物は東京の中上流、華族のお姫様までいて、当時の高等学校や帝大の権威もさりげなく反映された世界の話だった。「おむすび」の方がしっくりくる視聴者も多いのだろう(フジテレビ時評でも、視聴者を選ぶところがある、といわれていた)。壁を壊すよりも、壁の中でこそクローズアップされる微温の変化や小さなぶつかりあいに終始したい人も少なくないように思われるのだ。

いいなと思ったら応援しよう!