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青春の終わりを告げる最終作「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTON 絆」


ついに終わってしまった…。

2月21日、公開初日に「デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTON 絆」(以下、ラスエボ)を観に行ってきました(その次の週に2回目を観に行きました)。初めてデジモンのアニメが放送されてから約20年が経過。タイトルのLASTにもある通り、1999年に初めて放送された「デジモンアドベンチャー」(以下、無印)、翌2000年の「デジモンアドベンチャー02」(以下、02)、そして2015年から18年まで劇場で公開された「デジモンアドベンチャーtri.」(以下、tri.)まで続いてきたデジモンアドベンチャーシリーズ締めくくる作品として公開されました。

観た感想としては、「最高…」の一言に尽きます。6作もダラダラと続けた割には評判があまりよろしくなかったtri.とは異なり、これまでのアニメシリーズや劇場版へのリスペクトが感じられる作品だったと思います。不満に感じる点がまったくなかったとは言えないけど、シリーズ最後の作品にふさわしい出来でした。

もちろんこれまでデジモンを観たことがなかった人が単体で観ても素晴らしい作品だけど、今作は子供のころからずっとデジモンを観続けてきた「デジモンリアルタイム世代」への最後の“贈り物”的な要素が強く、これをもって青春の終わりを告げられたような気持ちになりました。

今回は「選ばれし子どもたちとパートナーデジモンとの別れ」が主題になっているけれど、子どもたちだけではなく、観ている僕たちもデジモンから卒業し、前に進まなければならない――。制作者側からそのようなメッセージを受け取ったような気がします。今回は映画を2回観た(劇場で映画を2回観たのは、デジモンに限らず人生初でした)感想と考察をまとめました。

あらすじ

舞台は2010年、現実世界に迷い込んだデジモンをデジタルワールドに送り返すなど、デジモンに関する活動を継続していた“選ばれしこどもたち”だが、かつての仲間たちがそれぞれの道を進みつつあるなか、太一とヤマトはなかなか進路を決めきれずにいた。

そんな時に子どもたちの前に現れたのが、デジモン専門の研究者であるメノア・ベルッチ。世界中の選ばれし子どもたちが次々と意識不明になっており、解決に力を貸してほしいと頼まれた子どもたちは、その原因と思われるエオスモンとの戦いに挑む。そこでアグモンたちの進化に異変が起こったのを見たメノアは「選ばれし子どもたちが大人になると、そのパートナーデジモンは姿を消す」という衝撃の事実を告げる――。

以下、ネタバレ含みますのでご注意ください。



過去作のオマージュ


まず、冒頭で使用されているボレロ。言うまでもなく、アニメシリーズで繰り返し使われてきた楽曲。そしてボレロとともに現れるパロットモン。アニメシリーズが始まる前に公開された劇場版1作目に登場したデジモンです。パロットモンとの戦闘シーンでのアグモン→グレイモン→メタルグレイモンへの進化は、アニメシリーズのデザインに寄せていましたね。パロットモンをデジタルワールドに返した後に流れるのは、シリーズを代表する名曲「Butter-Fly」。アレンジなし、アニメオリジナルの音源で、かつオープニングのこの1カ所しか流していない点が好印象でした。無駄に使えばいいってわけじゃないのでね…。

次に今回のボスキャラ、エオスモンとの最初の戦闘に向かうシーンはモロに2000年公開の「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」でしたよね。参加メンバーも当時と同じ太一、ヤマト、光子郎、タケル。これに胸を熱くしないファンはいないでしょう…。

クライマックスの戦闘シーンで太一がホイッスルを吹くところも、劇場版第1作のオマージュ。ここには当時の映像も使われていました。劇中に散りばめられた数々のオマージュは、今までデジモンアドベンチャーシリーズを追い続けてきた同世代の人たちにはめちゃくちゃ刺さったと思います。

あと1回目に観たときは気づかなかったのですが、最後あたりで02劇場版の「デジモンアドベンチャー02 デジモンハリケーン上陸!!/超絶進化!!黄金のデジメンタル」で登場していたウォレスとそのパートナーデジモンのテリアモン・ロップモンが写っていました。複数回観たらもっといろいろ気づくかな…。

エオスモン=Butter-Fly


今回の新キャラ、メノア・ベルッチが元パートナーのモルフォモンをモチーフにつくった人口デジモンのエオスモン。ポケモンだとモルフォンは蛾ですが、モルフォチョウっていう蝶が実際にいるので、エオスモンは蝶、つまりButter-Flyのメタファーですよね。気づいた人多いんじゃないかと思います。
エオスモンは選ばれし子どもたちの意識をデータ化する能力があります。メノアのねらいはこの能力を使って子どもたちを楽しかった思い出の中に閉じ込め、つくられた理想郷のなかで永遠に過ごさせることでした。しかし、思い出にとらわれているだけでは前に進めない。パートナーとの別れが早くなろうと、みんなを助けるために最後の進化を決意した太一たちはエオスモンを見事打ち破ります。

Butter-Flyはデジモンシリーズだけでなく、僕らの世代(だいたい1985~95年生まれくらいですかね)のアニメを代表する、もはや神曲。同世代でカラオケ行くと必ずといっていいほど誰かが歌っています。Butter-Flyを歌っていた和田光司さんはすでに亡くなっていますが、この曲はファンにとってアニメとともに大切なもの。デジモンアドベンチャーシリーズのいわば象徴で、大事な思い出。Butter-Flyをモチーフとしたエオスモンを最後の敵に据えることで、思い出の中に閉じこもらずに前に進もうということをデジモンリアルタイム世代に伝えたかったのだと思います。

パートナーデジモンとの別れ


今作は「パートナーデジモンとの別れ」を軸に話が進んでいきます。劇中のメノアの発言によると、「子どもたちの無限の可能性=パートナーデジモンの進化のトリガー」とのことで、成長するにつれて自分の道を歩み始めると、パートナーデジモンはその役目を終える――。メノアは8年前、14歳の時にモルフォモンとの別れを経験しています。この年はメノアが飛び級で大学進学に成功した年で、自分の道を早く決めてしまったことが急な別れにつながったということでしょう。また、空は今作で最後まで戦闘に参加しなかったけど、それはピヨモンというパートナーとの別れが太一とヤマトより早くに訪れていたから。空は実家の家業である華道への道を進んでいました。
しかし、進化自体が子どもたちの可能性の象徴だとするならば、進化の回数の多い2匹のパートナーである太一とヤマトにはほかの子どもたちよりも未来への可能性が多いはず(現に2人は進路を決めていなかったし…)。なのになぜ2人のほうが別れが早いのでしょうか。

メノアは「無理な進化をするとパートナーデジモンとの別れが早まる」とも発言しています。アグモンとガブモンは無印から究極進化しているし、オメガモンも相当な負担だったということでしょうか。無印時代のほかの子どもたちのパートナーが究極進化したのはtri.からなので(正確には、パタモンとテイルモンは02劇場版で1度究極進化していますが)。アグモンとガブモンは究極進化した時間も回数もほかのデジモンより格段に多いため、別れが早かったということでしょうか。

以上のことから、パートナーデジモンとの別れは複合的な要素によるもので、単に年を取ること、自分の道を決めることがパートナーとの別れに直結するということではなさそうです(この別れのきっかけについては、観た人といろいろ意見交換したい…)。そうでなければ、すでに自分の目標に向かって進んでいる光子郎やミミ、丈より先に太一とヤマトのほうがパートナーとの別れが早い理由がわかりません。今作ではパートナーと別れる要素として、「自分の道を決めること」と「進化の程度や回数」のどちらのほうがよりウエイトが高いのかということが明らかになっていないような気がします(実際はその両方が複雑に絡み合っているのだろうけど)。

エオスモンを倒した後、ついに太一はアグモン、ヤマトはガブモンとの別れを迎えます。このシーンは本当に涙なしでは見られない…。2回目に観た時も泣いてしまいました。アグモンの「太一、おっきくなったね」というセリフで目頭が熱くなります。このときアグモンが太一を見上げるシーンが印象的でした。パートナーデジモンは、大人になった太一たちの子ども時代の象徴ともいえます。パートナーとの別れ=子どもだった自分との別れ。アグモン、ガブモンとの別れを受け入れ、太一は卒論のテーマを「デジモンとの共生」に、ヤマトは宇宙飛行士になるための勉強を始めます。そしてエンディングでは、02組とタケル、光にはパートナーが写っていましたが、そのほかの無印組はパートナーがすでに姿を消していました。彼らもパートナーとの別れをそれぞれ経験したことが想起されます。そしてきっとこの後太一たちはなんとかデジモンたちと再会し、02最終回の2028年につながっていくのだと思います。

劇中でゲンナイさんは、パートナーデジモンはパートナーの前から「姿を消す」と言いました。これは完全に存在が消えたわけではないと捉えることもできます。また、ゲンナイさんは別れを食い止める方法はないのかという太一の問いに対して「君たちが無限の可能性を示せれば、あるいは――」と答えています。パートナーとの離別後、太一たちはデジモンとの再会を信じて、それぞれの道を進みつつ自分の可能性を無限大に広げるために奮闘するのでしょう。

まとめ


今回、話の主軸を太一とヤマトに絞ったのは正解だと思います。映画は90分程度しかないし、いろいろな人物に焦点をあてていたら収集がつかなくなりそうなので。それにtri.で各人物の話はやったのでね…(評判が悪かったとはいえ)。結局デジモンアドベンチャーはこの2人を中心としたアニメなんだと思います。居酒屋でお酒を飲むシーンは、2人もやっぱり大人になったんだなあと感じさせる良い場面でした。1人暮らしの太一の部屋に上がったアグモンに大人のDVDを隠すところとかもね(笑)。あと、偶然だけど自分が今住んでいる阿佐ヶ谷に太一が住んでいるのもファンとしてはうれしかったです(駅前のバーガーキング行ったことないけど)。最初のパロットモンとの戦いは中野駅だし、親しみのある場所が劇中に出ていたのもよかった。

だけど02組の出番が少なかったのはちょっと残念でした。tri.ではほとんど無視されていたので出てくれただけありがたいんだけど、せめて進化シーン込みでパイルドラモン、インペリアルドラモンが見たかったなあ…。tri.とラスエボの間くらいの時系列で、02組が主役の作品を作ってほしい(今作で最後だって言っているけど)。でも、大輔がラーメン屋をめざしているとか02最終回の設定をきちんと踏まえているのは高評価でした。

今作のメッセージは、一言でいうと「思い出にとらわれず、自分の道を決断して前に進もう」ということだと思います。大人になるということは、お酒が飲めるようになることでも、稼いだお金を自分の好きなものに使うことでもなく、「自分自身に責任と覚悟をもつこと」なのだと感じました。20代も終わりに近づいているのに、仕事などいろんなことについてこのままでいいのか不安で、楽しかった過去を振り返るばかりの毎日を過ごしているけど、そろそろ前に進まなきゃいけない。デジモンアドベンチャーという青春が終わり、そんなことを考え始めている今日この頃です。とりあえず今作を観た人、お話ししましょう、語りましょう。


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