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「デジモンアドベンチャー:」は何がダメだったのか

1年半かけて続けた割には評判がよくなかったアドコロ。これまでの各話の感想でも書いたことも一部含むが、一体何が問題だったのかを自分なりに考察してみた。かなり批判的な内容になるのでアドコロ好きだった人は読むのはおすすめしませんが、無印ファンだったら僕と同じように感じた人は少なくないはず。

1. 登場人物の深掘りが不十分

これがおそらくアドコロで一番大きな欠点だと思う。無印に限らず、デジモンアニメシリーズの多くでは自分のパートナーデジモン、ほかの子供たちとのやり取り、そしてデジタルワールドでの冒険を通して描かれる子供たちの成長がメインテーマだった。無印においては、とくに各紋章とリンクした子供たちの精神面での成長がデジモンの成長(進化)というかたちで具現化されていたが、アドコロにはその過程が大きく欠けていたと感じる。

アドコロを見ていて思うのが、子供たちが全く子供らしくないことだ。無印のときみたいに、いきなりわけのわからない世界に飛ばされて「不安を感じる」「泣く」「帰りたいと思う」みたいな小学生らしい行動がほぼ見られなかった。アドコロではむしろ子供たちは精神的に自立していて、デジタルワールド、そして自分たちの世界を救うという使命感に燃え、冒険を続けていく。だから一部の例外はあるものの、全体的には適当に“強く願う”だけでデジモンが進化してしまい、(最初から成熟しているから)そこに子供たちの成長はない。ミレニアモン戦の後の紋章編は不十分で、正直「紋章の話ちゃんとしろよ」っていう視聴者の意見を受けて突貫工事で取り入れただけのように感じる(アニメの制作に詳しくないからわからないが、視聴者の声で途中で脚本を追加・修正することはあるのだろうか…)。無印を観ていた人ならもちろんわかるが、初見の人だったら結局それぞれの子供たちの紋章の意味ってなんなの?ってなると思う。

そして子供同士のやり取りがやっぱり少なかったように思う。全体的に別行動が多く、子供とデジモンのやり取りはそれなりにあったが、無印のような子供たち同士の話し合いや対立、その後の和解みたいな流れがない。とくに太一とヤマトは無印では終盤まで揉めており、それを乗り越えたからこそのウォーゲームのオメガモンなのに、その過程を飛ばして最初からオメガモンを出したのは、意外性のあるフックだったのは間違いないが、結果的には“奇跡”のオメガモンという位置づけがブレることになってしまった。また、子供たちの内面に触れるシーンも少なく、アドコロはその大半がデジタルワールドでの話だったため、子供たちの家族に関する話はほぼ出てこなかった。

やはりデジモンシリーズには関弘美さんがいなきゃダメなんだなとつくづく感じた。関さんはデジモンシリーズ以外のアニメでもおジャ魔女どれみシリーズ、金色のガッシュベル!!、明日のナージャなど子供の成長を描くことにおいては天才的存在だと思う。この人がいたからこそtri.の失態をラスエボで挽回できたんだよな。

2. ストーリー構成のちぐはぐ感

アドコロはとにかく本筋の話と日常回のバランスが非常に悪いシリーズだったと思う。とくにミレニアモン編ではその全貌が明らかになるまでが長く、日常回が多すぎて中だるみしていた感が否めない。日常回の中にも、本筋に関わる要素が少しでも入っていればよかったのに、それがないからいきなり本筋の話が入って唐突感がすごかった。ミレニアモン編の日常回の大半は単発で見ると面白い回はあったけれど、それもっと序盤でよくない?って思った話が多かった。トノサマゲコモン、リベリモンの回とかはけっこう気に入っている。

あとは敵デジモンの強さが序盤から強すぎるのもどうかと思った。最初から究極体アルゴモン、ニーズヘッグモン、デビモン(ダンデビモン)、ミレニアモン、ネガーモンと、主要ボスキャラすべてが究極体。終盤のボスが究極体になるのは当然として、最初から究極体だから強さがインフレしすぎてしまった。そしてニーズヘッグモンはオメガモンで倒したのに、ミレニアモンはゴッドドラモン・ホーリードラモンがいたとはいえウォーグレイモンで勝つなど、強さのバランスがおかしい部分もあった。無印みたいに敵の強さも成熟期、完全体、究極体と段階を踏んだほうがよかった。

そして無駄に焦らした究極進化よ…。敵側は最初から強いのに、シルエットだけで焦らすことに何の意味があったのか。今作はせっかく全員究極進化するのに、ウォーグレイモン・メタルガルルモン以外は初進化の時と最終決戦でしか出番がなかったのが残念。

3. ピンチの少なさ

今作は簡単に危機を乗り越えがちな展開が目立った。過去作を振り返ると、無印ではデビモン編でほかのデジモンがボコボコにされるなか、最後にエンジェモンが相打ちでようやく勝ったり、フロンティアに至っては後半ロイヤルナイツにほぼ負けていた。フロンティアは負け過ぎ感あるけど、アドコロでは子供たちが簡単に危機を乗り越えちゃうから、ストーリーが単調で見ててハラハラしない。あれだけ引っ張ったミレニアモンもすぐ倒したし。アドコロで一度撤退したのってメタルティラノモンとオロチモンのときだけじゃない?

そしてこれに関連してか、味方側の「死」が全くと言っていいほど描かれていない。歩く死亡フラグことレオモンも生き残ったしね…。唯一の例外はエンジェモンだけど、あれはタケルと出会った直後だったし希望を持たせた生まれ変わりだったから絶望感は皆無だった。仲間の犠牲を糧に強くなるっていうのはデジモンに限らず少年漫画・アニメでは王道の展開だけど、アドコロにはなかったね。

4. メインキャラ以外のデジモンの扱い

とくに前半に顕著だったけど、パートナーデジモン以外のデジモンが喋らないことが多く、太一たちが何のために戦っているのかわからない場面が多かった。ボスデジモンもしゃべらないやつ多いし、しゃべっても自分語り。子供たちとの対話がなく、敵側の思惑が読みづらいからストーリーに深みが生まれない。ただ、後半では有名声優やほかのデジモンシリーズで主要キャラを務めた人がゲストで出てくるようになったのはよかった。明らかに後半の日常回は中身がよくなっていた。

アドコロの評価ポイント

ここまで散々批判してきましたが、アドコロには評価できる点もいくつかあった。その1つが分岐進化ですね。過去作にはなかったメタルグレイモン・ワーガルルモンのX抗体やブリッツグレイモン、クーレスガルルモン、ポンチョモンなどいわゆる正統進化ではないパターンが見られたのは今作ならではかな。そもそもデジモンの進化は1パターンではなく、いろんな可能性を秘めているっていうのを提示できたのはよかった。とくにパルモンがパタモンを取り込んで、パタモンの純真アーマー体であるポンチョモンに進化するなど、デジモンオタクにだけわかる要素をいれたのは感心した。

あとはバトルシーンや進化バンクの重要なところでは作画のクオリティが高かったのもよかったところの1つ。ウォーグレイモンの進化バンクはめちゃくちゃカッコよかったです。ただ進化バンクに関しては全部平等に作ってほしかったところではあるけれど。最終話の戦闘シーンも迫力あった。そして谷本さんの主題歌・挿入歌もすごく好みだった。やっぱり過去作で歌っている人だと安心感がある。1クールで変わるエンディングはどれもそれほど印象に残らなかったけど。

ほかには過去作のデジモンが多く登場したところ。無印のデジモンはもちろん、02のシャッコウモンやフロンティアのハイブリッド体、クロスウォーズのキュートモンとか、シリーズの垣根を越えてたくさんのデジモンが見られたのはうれしかった。

結局無印のリメイクでなければよかった

前段の内容から、アドコロはデジモンの純粋な魅力、カッコよさを訴求したかったのではと思う。だから過去作の重要なポイントだった子供たちの成長が抜け落ちてしまったのかなと。ここ数年は過去作の周年イベントもあってデジモン界隈は盛り上がっていたけど、結局それは当時リアルタイムで作品を見ていた自分のようなファンに限った話だったわけで。デジモンって結局固定ファンばかりで新規ファンがなかなか増えないのが課題だったと思う。完全な推測だけど、そういう状況を打破すべく、デジモンの魅力をシンプルに訴求するための方法の1つとして今回のアドコロが出来上がったのでは。

こういう戦略をとること自体はもちろん悪くないが、ただそれをやるなら「無印のリメイク」としてやるべきではなかった。これが完全新作なら正直ここまで批判を受けることはなかったと思う。シリーズNo.1人気の無印を改悪してしまったばっかりに、古参ファンからは総スカンをくらうはめに。無印を使うこと自体、完全新作では話題にならないという制作側の自信のなさの表れだよね。

アドコロの内容はともかく、デジモンというコンテンツが令和に再び世に出て、バイタルブレスやデジモンカードなど一定の成果を得たのは確かだと思う(新規ファンが増えたかどうかは定かじゃないが)。ゴーストゲームが制作できるということは視聴率はそこそこあったわけで、今度は完全新作で今までとは違うデジモンの魅力を見せることで勝負してほしい。

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