詩「野ざらし紀行」
富士川のほとりを行に、三つ計なる捨子の哀げに泣有。この川の早瀬にかけて、うき世の波をしのぐにたえず、露計の命を待まと捨置けむ。小萩がもとの秋の風、こよひやちるらん、あすやしほれんと、袂より喰物なげてとをるに、
猿を聞人捨子に秋の風いかに
いかにぞや汝、ちゝに悪まれたるか、母にうとまれたるか。ちゝは汝を悪にあらじ、母は汝をうとむにあらじ。唯これ天にして、汝が性のつたなきをなけ。(野ざらし紀行)
「野ざらし紀行」の中で 芭蕉は
飢えに泣く 子どもを前に
汝が性のつたなきを泣け!と言った
汝が性のつたなきを泣け!とは
厳しい言葉である
その厳しさが人生である! そう彼は言う
彼は知っていた
自身の性の つたなきを
無能無芸にして 只此一筋に繋る
彼の業というものを
彼はこの子どもに
自らの性を見て 取ったのである
彼は覚悟していた
野ざらしとなることを
いや-
野ざらしを覚悟しなければならぬほど
彼は性のつたなきに泣いたのである
そして彼が子どもに向かって
汝が性のつたなきを泣け!と言う時
彼自身
己が性を自らに課して
生き抜く道を
歩み始めていた
「日本現代詩体系No2」(檸檬社)に掲載していただいた詩です。「野ざらし紀行」の本文も加え、少し添削も加え、投稿します。
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