6/10金:不確かさの大きい社会には科学的方法論を。
現代は、不確かさが大きい時代であると言われている。高度経済成長時代の例のように、社会的に決められた何か1つの正解があるわけではなく、各組織や各個人それぞれにとっての正解を見つけ出す時代なのだろう。
そういった時代を生き抜くために必要な思考法の1つが、「仮説検証思考」であると言われる。存在するかどうか、見つかるかどうかわからない正解を見つけ出すために、仮説を立てて実践し、検証した結果を受けて新しい仮説を立てる、そしてそれを多数積み重ねる、という思考法・実践法である。
実は、ここでやっていることがまさに科学(Science)なのである。
科学というと一般には化学物質や派手に起きる現象そのものをイメージする人もあるかもしれないが、その認識は必ずしも正しくない。
科学とは、人間が本質的に知り得ない複雑な真の現象(真理)について、それがなぜどのように起きているのか、どうすれば予測できるのかを明らかにする営みのことをいう。
複雑な現象が、なぜ、どのように起きているのかを知りたいと考えたとき、一番最初にやるべきことは「観察」である。現象に対してつぶさに観察を重ねた上で、その現象を支配している特徴を見出す。ここで、複雑な現象の持つ全ての特徴を同時に取り扱うことは難しいから、その中の一部だけを用いて(他の要素を捨てて抽象化・単純化して)、現象を予測する「モデル」を作る。そして、その「モデル」を用いて予測した結果が、実現象(実験結果)と合うかどうかを比較検証する。もし結果が合わなければ、モデルを見直し、再度予測・検証をかけることを繰り返し、徐々にモデルの精度を上げていく。
この一連の「方法論」のことを、一般に「科学(Science)」と言うのである。
だから、仮に対象が自然現象でなくても、その対象の分析方法が科学的であれば科学たり得るのである。対象が自然現象の場合を自然科学、人間社会の場合を社会科学、人間の文化の場合を人文科学と言うのはそのためである。
これらのことを踏まえると、この現代の不確かさの大きい社会を生きていくために必要なスキルとは、まさにこの科学的思考法や方法論を使いこなしながら、変化の大きい社会の中で仮説検証サイクルを繰り返すことなのである。
博士課程に通っている私はそうしたことを分かった上でも、この仮説検証サイクルを回していく実感を正直まだ得られていないと思っている。曲がりなりにも何年間か研究活動を続けてきた身からしても、これを正しく回す感覚を得るのは難しい(私が未熟なだけな可能性もある)。その感覚を得るためには、おそらく、仮説を立てて試しにやってみたら、確かに考えた通りになった!という成功体験を積み重ねることなのではないかと思う。
しかし、そう簡単に予想通りになる社会でもなければ、普通の自然科学研究でさえも予想通りにならないものである。
だから、結局はその仮説検証サイクルを回している過程そのものを楽しめる人間が一番強いのだ。そうして仮説を立てて挑戦し続けることが、不確かな時代を生き抜くための重要なスタンスになると共に、活き活きと生きていけるスタンスに繋がるのだろう。